真実のノート -34ページ目

9話『自分の為に…』

朝…曇りがちだった

空から ポツポツと 雨が ぱらつき出した。

美紀と…

「やっぱり…降って 来たね!」

そう言って…持ってきた
傘を(パサッ)っと 広げた。
美紀は 自分の傘を 広げ様とした手を 止め…

私の広げた傘の中に

入ってきて…

「私、亜弥に 会うのが 辛い…」

そう言って うつ向いた。

「うん…」

私も 美紀の言葉に 頷く…

その時!?


(…♪)


ポケットの中の 携帯から
メールの受信音が 鳴った

(カチャッ)


開くと…(奴からだ)


「色々…俺なりに 考えて見た… だけど… 昨日の お前の 亜弥ちゃんの為に何が 出来るのか? って言う 質問の答えは 俺にも 分からなかった… 結局、人の為に してあげられる事なんて…何も 無いのかも 知れない…
でも…お前が 苦しいんなら… 自分を 救う為に 何を すべきなのか? 自分に聞いて見ろよ… 」


(自分の為に…)


不思議だ… パパの言ってたって言う 言葉と 同じ意味を 奴は言ってる…


「自分に 聞いて見ろよ…か…」

私の携帯に目線を落としながら…美紀が ふいに 呟いた。









亜弥の 病室に 入ると…

「と…なか…い…さん」



亜弥が 酸素マスクの下から 消えそうな声で 私を 呼んだ…


「うっ…く」

美紀は 思わず 漏れそうになった 嗚咽を 両手で押さえると、吐き出しに亜弥の病室から 慌てて
螺旋階段へと 走って行った。


私は 亜弥の ベッドの脇に腰を 降ろし…
ピュアを…抱っこすると
「亜弥…」

名前を呼び…差し出した…亜弥の手を…静かに握った。

小さな…小さな…


手だ… ちょっとでも


力をいれたら…粉々に


砕け散って しまいそうな

そんな…か細い 手だった。


私は 亜弥を 見詰めながら…

亜弥に 問いかけていた


質問を 自分に 問いかけて見る…



(佐奈…お前は 今 何が 苦しいんだ?)



(お前は 何が したいんだ?)


ふと… 気が付くと!?


螺旋階段で 泣いて来た… 美紀が…


目を 真っ赤に 腫らし 私の横で 静かに 亜弥を 見詰めていた…

「み…き…ちゃん…」
静江さんにだけじゃなく

亜弥は 私達にさえ 心配を
かけまいと 微笑んで見せる…


私と 美紀も 無言で そんな…亜弥に 微笑みを 返した…



(亜弥…)

さっきの…

自分の 問いかけに…


今、私の 心が 何をすべきなのか?


答えをくれる…



私は 静かに 美紀を 見た…



美紀も 私を 真っ直ぐに

見る…



「やるっきゃないでしょう!?」



そう 私に 問いかける 美紀…



多分…私達の考えてる事は同じで…



たった…1つしかない!



「だね…」



私は そう言うと


深く 頷き



ニコリと 笑った。

9話『自分の為に…』

その夜…


「よぉ! 何してる?」


私は 奴にメールを 打った

「どうした?」


奴から…返信。


「別に…何でもない…」

「何だよ…ちゃんと 勉強してるか? でないと 子供に…教えられねーぞ!」

「うん…分かってる…してるよ…」


「やけに…素直だなぁ~ 何か、あった!?」


「わかんね~」


「わかんね~って 何が!?」



「亜弥にだよ! 何か、してあげたいけど 何もしてあげられない!」


亜弥の さっきの 笑顔が
頭に 深く 刻まれて…

自然と 涙が 頬を 伝う…


「亜弥ちゃん 具合が 思わしくないのか?」



「わかんねー だけど 前見たいに 笑ってくれない! 1日中 寝たきりなんだ!」


「そうか…」



奴からの 返信は それ以降(ピタリ)と 止まった。







次の朝


「おはよう!」


リビングに 降りて行くと

「!?」

窓越しに
パパの 後ろ姿が 見えた。

「パパ!」


私は 背後から パパに声をかけた。


「…………」



無言のパパ…


私の声が 聞こえなかったのか!?


振り向いても くれない。

「パパ!!」


私は もう一度 大きな声で
呼びかけ パパの肩を(ポンッ)と 叩いた!


「!!」


よっぽど ビックリしたのか!?

パパの 肩が 大きく (ビクンッ)と 動いた!!


「佐奈!!」

そう言って
慌てて 振り向いた パパ!!

「どうしたの!? ぼ~っとして!?」


私が 笑顔で パパに…聞くと


「いや…何でも ないよ!」


パパは そう言って 持っていた タバコに 火をつける

(ジーッ)ダバコに火が つく音と 同時に (フ~) パパから吐き出される煙


煙の中に パパの顔が ユラユラと 微かに揺れて…

酷く… 辛そうに 見える

「パパ…仕事 忙しいんだろ!? 疲れてるんじゃないのか?」

私が 聞くと!?


パパは (ニコリ)と 笑って


「大丈夫だよ! 佐奈が 心配してくれるなんて、嬉しいよ…」

そう 言った。


「神林先生!」


その時 秘書が パパの元に駆け寄った!


何やら…パパに 耳打ちをしている…


パパは 「分かった 車を 表に 回しなさい!」

そう 言って テーブルの 上の灰皿で ダバコの火を もみ消した。


「パパ…どうしたの?」

私が 聞くと!?


パパは 再び 優しい笑顔を私に向け


「じゃあ…行ってくるよ…」


そう言って 私の頭に そっと…手を 置いた。


「貴方…行ってらっしゃい!」


ママが パパに 黒い 革のカバンを 渡す


「有り難う…」


パパは そう言って カバンを 受け取ると… 玄関に歩き出した。

(パパ!?)


(分かんないけど なんか 変だ…)



私は パパの後を 追った。

「パパ!!」


大声で 叫んだ 私に

パパは一瞬 振り返り

(ニコッ)っと 笑顔を…見せると


玄関の 扉を 開け


(パタンッ)


出て 行った。


ボーゼンと…玄関の扉の前に立つ私…

その時
「佐奈…」


ママが 背後から 私を呼んだ。







その後


「話しが あるの…」


ママは 私を リビングに
誘い…


ソファーに かけなさい

と 指示をした。


言われた通りに ソファーに 腰を 降ろした私は
ママに

「なんか 今朝のパパ 様子が 変だったよ!! 何か あったんじゃないの!?」

そう けたたましく ママに聞いた。



ママは 黙って 私の目の前の ソファーに 腰掛けると目を閉じ…

大きく深呼吸をした。


そして ゆっくりと 目を 開く
言いようの無い不安が…私の中を…駆け巡った。

ママが…重い口を開く…

「佐奈…パパはね… 自分の所属する 党を 含め 政治家達41人の 闇献金の 証拠を これから 警察に 届けに…行くのよ!!」

そう言って 私を 真っ直ぐに見た。


「えっ!! それって!!」

(大変な事 しようとしているんじゃ…!?)


ママは 目線を 一切 私から 外さず…

更に 語り出した…


「ママもね…政治家の娘だったから…この世界の事 少しは 分かってる つもり…闇から 闇に 消えていった汚い お金も 見てきた。 でも それを 見て 見ぬ振りを する事が 今迄の 政治家達の 暗黙の了解であり… また、それが 出世への 一番の 近道でも…あったの…」


「…………」


私は ママの話しを ただ 黙って 聞いていた。



「政治家を 志す者は…みんな 最初は 自分の中に 理想を 描いて…国民に 後押し されながら…政治の世界に 入ってゆく… だけどね… 所詮 上から 叩かれ… 間違っていると心では 分かっては いても無理矢理 納得を 強いられるの… 私の父も パパも それに 泣き 苦しんで来たわ…
でも それは しょうがない事… 私の父は そう 当時自分の 秘書だった パパに言っていた… 」



「でも… パパは…」


そこまで 言うと ママは
ソファーから 立ち上がり
窓の外を 見た


「例え…政治の世界から 抹殺されても… これから政治家を 目指す若者達が 自分の 理想と信念を 曲げずに 突き進んでいける様な 政界にしたいと 言った何年かかっても やり遂げたい!!と…あの人は 言ったの… 父は ならば時を待て!と パパに言った。そして、自分の 理想の道を歩みたかったら…偉くなれ!! と … パパは 時を待った。 そして 長年に渡って闇献金の 証拠を 集めたのよ… 」


(パパ…)


頭の中に あの 記者会見の時の パパの顔が 浮かんだ

涙をいっぱい貯めて


引き止める 後援会の人々に 何度も

「有り難う… 有り難う…」


と 頭を 下げていた パパ


あの時の パパの 有り難うの 意味は!?



全て この日に 繋がって いたんだ!!


「パパはね…常日頃から 言っていた事が 有るのよ」


そう言って…ママが 振り向く


「人の為に 何かを しようとしても…所詮 何も出来ない! けれど…自分の為に 何かをするのなら…無制限に 頑張れるって…
その結果が もし 人の為に なるなら…こんなに 嬉しい事は 無いって…」


(ニコリ)と 笑う ママ…


(自分の為に…)


私は ママの言葉に


唇を 噛み締めた…

9話『自分の為に』

(いったい…他人の私に 何が 出来るのだろうか!?)

亜弥に…私が してあげられる事って何!?

カーテンの隙間から
西日が…漏れる 病室で 私は
静江さんと 亜弥の姿を

見詰めながら…そんな事を
自分に 問いかけていた。

美紀も 同じ事を 考えているのだろうか!?

さっきから しゃがみ込んだ まま ただ(ボ~)と
前を 見詰めている



その時!?


静江さんが 「そろそろ 行かなくちゃ!」


そう言って 亜弥の頭を
優しく…撫でた


笑顔で 頷く 亜弥…

胸に(ズキン!)と…痛みが走る!!

(亜弥…お前 本当は ママに 側に 居て欲しいんじゃねーのかよ!)


(何 無理して 笑ってんだよ!)





お前…子供じゃねーか!!


帰り道…


土手沿いの道で


夕日の中…


私と 美紀は そう次々に

叫んだ!!


何もしてあげられない
自分が 気が、狂いそうな程!


「わぁぁぁぁー!!!!」
私は頭を抱え、思いっきり叫んだ!!

悔しい!!



許せない!!




亜弥… 私…



どうしたら



いいんだ!!



教えてくれよ!!




亜弥!!!!!!