真実のノート -25ページ目

13話『失意のコンサート』

私は バックから 携帯を 取り出し、デイスプレイを 開いた。

奴に 安藤さんの事を 相談しようと思った

いつだって、奴は 私の相談に乗ってくれる

そして、答えを くれる


「よぅ! 起きてる?」

取り合えず 呼び出しメールを 送って見た。



「…………」


だけど…返信は いくら待っても 返って来ない。


ディスプレイの時計に 視線をずらせると!?

時刻は…もう 夜中の1時を 回っていた

(もう…寝てるよな…普通…)

私は そう心で 呟くと

(パタンッ)


携帯を 閉じた。


今日… 5年ぶりに 見た

誠の顔が 自然と 頭の中を
駆け巡る…


さっき、思いっきり 安藤さんの胸を 借りて 泣いたせいか?


忘れられていた ショックからは、随分…心が 解放されている。


誠は 私を 忘れ…別の女性と ずっと、楽しく やってたんだ。

もう…誠の中には 私との思い出も 残像も 何もかもが 忘れさられた 過去になっていたんだ。


考えて見れば…当たり前だよね…

私…あの人に 捨てられたんだもの…


しつこく、こだわっているのは 私の方…


さっき、涙は 全部 出尽くしたと 思っていたのに…

私は…馬鹿野郎だ!!

5年前と 同じ涙が まだ しつこく、頬を伝う…


もう…忘れようよ…


前に 踏み出そうよ


こんな、私でも いいって言ってくれる人が いるんだしさ…


私は 指先で 瞳から 零れる涙を 拭った。


だけど・・




だけどね・・

(カチャッ)
私は 手に持ったままの、 携帯を…再び開いた


奴に どうしても…もう一度 聞きたい


「ねぇ…どうしても、忘れられない人を 忘れるにはどうしたら、いいの?」


私は 奴に そうメールを 打ち… 送信ボタンを 押した。


奴は もう…寝ている

返信が ない事は 分かってる。


何でもいい! 何故か

奴からの 答えが 欲しかった。



その時


(…♪)


携帯の 受信音が 鳴った

(まさか!?)


私は 慌てて メールを開いた。


そこには



「俺も お前に 聞きたいよ…忘れられない人を 忘れるには、どうしたら、いいんだ!?」


奴から… そんな 返信の言葉が 入っていた。



(はぁ~)


私の口から… 3度目のため息が また、零れる


「どうしたら、いいんだろうね…」



1人 天井を 見上げながら

そんな 1人言を


呟いてみる


何を どう 頑張れば いいのか!?

今の私には

何一つ 答えを見つける

事は 出来なかった。

13話『失意のコンサート』

どの位・・・


泣いたのだろう?

「有り難う…」

そう言って 私は 安藤さんの腰に回していた手を 静かに 離した。

「佐奈ちゃん…」

心配そうに 私の顔を 覗き込む 安藤さん…


(この人は…本当に 優しい人だ…)


私は そんな 安藤さんに

「本当に…もう 大丈夫だよ…迷惑かけて ご免なさい…」

そう言って、微笑んだ。

「良かった…」

安藤さんは、安心したように そう言うと…私に 微笑みを 返す


ふと、安藤さんの肩越しに歩道橋の上を見ると!?


もう…人も まばらになった 歩道橋の上で 五嶋さんに、抱き締められながら 美紀が 大きな声で 泣いていた。


(美紀…)


安藤さんも 振り返り 歩道橋の上を 見上げる


そして

「君の悲しみは 美紀ちゃんの悲しみでも…有るんだね!?」

そう 小さな声で 囁いた。


(美紀… ごめんな… 私…いつまで経っても…こんなんで…)



(本当に…ごめん…)



私は 歩道橋の上で 私の為に 泣く美紀を 見上げ…


何度も…そう 呟いた。











その後、4人で食事をして

美紀達と 別れ…


私は 家に戻った。


(パタンッ)


玄関のドアを 閉めると


「ぐぅ~」


奥の部屋から ママの寝息が 聞こえる。

壁の丸時計を 見上げると
もう…夜中の12時を 回っていた。



私は 冷蔵庫のドアを開き
麦茶を取り出し グラスに
注いだ。

乾いた喉に 麦茶を ゴクリと
流し入れ…


グラスを、ダイニングテーブルの上に置くと

(ハァ~)

深いため息が 口から 零れた。


別れ際の…安藤さんの言葉を 思い出す。


自宅の前で 「有り難うございます!」

そう頭を 下げて 車から 降りた 私を 安藤さんは
「ちょっと 待って!! 佐奈ちゃん!!」


そう言いながら 車から降り、呼び止めた


美紀と五嶋さんは

「10分したら…拾いに来るから!」

安藤さんに 笑顔で そう言うと… 車で 何処かに 消えてしまった。



なんか 気まずい…雰囲気に… (多分…さっき、泣いてしまった 私のせいだな… )

少しの間… 続いた 沈黙の中で

私は そんな事を 考え うつ向いた。


その時


「何かさ…今日 知り合ったばかりで こんな事 言うの 自分でも おかしいと 思うけど…」

突然の…安藤さんの 言葉に 私は


「えっ?」


自分の目線より 少し上の安藤さんを 見た


「僕と 付き合って くれないかな…」


安藤さんは そう言って

私を、見詰める…

街灯に 照らし出された 安藤さんの瞳が 揺れていた

「あの…」


私は なんて 答えて良いのか 分からず…


思わず、下を向いてしまった。


「ごめんね…急に…なんかさ… 君の事が 気になるんだ 返事は ゆっくりで いいよ…考えて見て…」


そう言いながら「じゃあね!」 背中を 向ける安藤さん…


そして 数歩 歩くと 又 振り返り…

「あっ 自分の車じゃ無かったんだ!! 今日…」


そう言って 苦笑いを しながら 頭を(ポリポリ)と かいた。

(クスクス…)

(面白い…この人)
思わず、笑みが 零れる

安藤さんは そんな私を見て


「うん!いいね!佐奈ちゃんの笑顔!最高に 可愛いよ!」


そう言って 笑った。


「えっ!?」

私は…思いがけない言葉に 思わず 下を 向いてしまったけど…

笑顔になると…目尻に もう何年も前からの、習慣の様に 出来る 安藤さんの 笑いじわに

(きっと 笑顔の毎日が 多い人なのかな~)


そんな事を 思い 親近感を
覚えた。





麦茶を もう一杯 グラスに注ぐ…




(ハァ~)


私は 2回目の 深い ため息を ついた。

13話『失意のコンサート』

その時!?


「きゃあ!!!!」

女の悲鳴と、同時に

「キキキィーッ!!!!」

と 言う かん高い、車のブレーキ音が

私達のいる 歩道橋の下から

けたたましく、鳴り響いた!!!!



「何!?」


慌てて 私は 歩道橋の柵から 身を乗り出し 下を見た
「何が あったんだ!?」

五嶋さん 安藤さん 美紀
それだけではなく、歩道橋の上にいた 全員が真下を見ようと、 まるで早い者勝ちの様に 柵に一斉に 飛び付く!!

「いやぁぁー!!!!」


女のけたたましい 悲鳴に近い、叫び声!!

車は 急ブレーキを かけた為
二車線を 潰し またぐ様に斜めに 止まっている
微かに 白い 噴煙が 上がり ゴムが 焼けるような 匂いが 辺り一面に、たちこめた。

その噴煙の中 中央分離滞の植え込みの、芝生の上に 1人の男が うつ伏せで、倒れている

「おい!引かれて はね飛ばされたんじゃないか?」

周囲が 一気に ざわめき出した。
背中に緊張が、電流の様に、走り抜ける!!
私は(ゴクリ)と 唾を飲み込んだ。

その時!?


突然 その男は 身体を 起こし 立ち上がった。すると 男の身体の下には 泣きじゃくる 子供が いた。
「うわぁぁぁん!!!!」

泣き叫ぶ 子供!男は 両手で その子供を 一瞬抱き締めると ヒョイと 抱き上げ 路肩で 腰を抜かした様に 座り込む 母親だろうか? の元に 子供を運んで行く

「ママ!!」

子供は 途中から 男に 降ろして貰うと 赤いスカートをなびかせ、母親の元へ叫びながら 駆け寄った。


「マリ!!」

母親は 大きな声で その娘の名前を 呼ぶと 胸に 飛び込んで来た 娘を しっかりと 抱き締めた。


「パチパチパチ…!!!!」

先程から 事の成り行きを固唾を飲んで 見守っていた 周りのギャラリーから一斉に 拍手が 沸きおこる
私のいる 歩道橋の上でも拍手と歓喜の 声があがっていた。

「いやぁ~ 良かったよね!」

隣の安藤さんも そう言いながら 手を叩く

「本当にね~」

私も そう 言いながら 子供を 助けた 男性に 拍手を送った。

見ると 遮断された道路には 車の渋滞のライトが 光の帯を 長蛇に、光らせていた。


男は 余りの大きな 無数の拍手の音に びっくりしたのか!? 振り返る!!


対抗車線から 来た 車のライトが その男の顔を 照らした。


「えっ!!!!!!」


その瞬間!


私の拍手の手は ピタリと 止まった。


(ま…こ…と!?)



(まさか!!)


考えるより 先に 私の足は
人混みを かき分け 走り出していた。



「すいません!! 退いて下さい!!」

私は 大声で そう叫びながら 歩道橋の階段を 駆け降りる!!


人が多すぎて、思う様に 前に進めない!!


男は 黒っぽい スーツを 着ていた!
髪は 黒く短く…
あの頃の誠とは 全く 違う
だけど
例え、ライトで一瞬照らし出された顔でも…
私が 誠を 見間違う 筈が無い!!

(間違いない!!誠だ!!!!)


人混みの中…ぶつかる人達に 「すいません!! すいません!!」


何度も 繰り返しながら
私は そう 確信していた。
(誠!!誠!!誠!!)


心が 叫ぶ!!


私は 歩道橋の階段の下にたたずむ ギャラリー達をかき分けた。

(この向こうに 誠が いる!!)

そして


私の視界には 子供を抱き締めながら 何度も 頭を下げる 母親の姿が 映った。
そして、照れた様に 子供に手を振り 立ち去ろうとする


「まことぉー!!!!!!」

私は力の限り、声を振り絞
り、叫んだ!!


誠の背広の肩が 一瞬 (ピクリ)と 動く

そして 誠は 振り向いた
誠の視線と 私の視線が

空中で 絡みあった。


「ま…こ…」

私の足が 誠に向かって 一歩前に、踏み出す。


その瞬間!!


「!!!!!!」


誠は くるりと 私に 背を向けた。

私に背を向け 歩き出す 誠

とり囲んでいた ギャラリー達の 分散が 始まる

「まことーっ!!!!」

私は もう一度 誠の名前を
叫んだ!!


けれど…振り向かず 去って行く…誠の背中


(待って!!)


私は 追いかけようと もう一歩の足を 前に出した

その時!?


後ろから (グイッ)と 手を引かれ

「えっ!?」

私は 振り返った


「どうしたの?佐奈ちゃん!!急に 顔色変えて 走り出したから びっくりしたよ!」


安藤さんは そう言うと
握った 私の手に 力を込めた。

「ごめんなさい…」

私は そう安藤さんに 謝ったけど


(それ所じゃない!)


(早く 追いかけないと 誠を 見失ってしまう!!)


私は もう一度 誠の方を 振り返った。


すると


「!!!!!!」


そこには…誠の肩に 赤いマニキュアのついた 爪を乗せ
親しげに話す 女性の姿があった。


(まこと!!)


愕然とする私


誠の横顔に 浮かぶ 笑顔

安藤さんに捕まれた手を 振りほどこうとした 私の頭の 思考回路が…模索を始め 困惑を繰り返す

やがて、誠は 女性の頬に顔を 近ずけ 軽く キスをした。


(………)


その瞬間!


踏み出そうとした 片足が 止まり

私の思考回路は 一気に 停止した。


「佐奈ちゃん!!どうしたの?」


安藤さんの 手が 私の肩に回る。


誠は そのまま 隣の女性と
腕を組みながら 夜の街に
小さく…消えていった。
(ま…こ…と…)
気がつくと 私は 路上に
水滴を まるで 先程から
降りだした 雨粒の様に

一つ 又 一つ と 落としていた。


誠に 彼女がいた!

長い 空白の中に 流れた それぞれの時間

これが 現実…


でも…何より 耐え難かったのは…

誠と 確かに 目線が 合ったのに…

誠は 私に 背を向けたと
言う 事実

微かに…口角を上げる位

してほしかった!


誠は… 私の存在さえ…


忘れていた。


私は あの日から… 貴方を
忘れた事など ただの一度も 無かったのに…


(どうして!? どうしてよぉー!!)


「ひっく!」


私は 大きな しゃくり声をあげた…


(ひどいよ…誠… )


うつ向いた、私の視界は
もう 何もかもが 歪んで まるで万華鏡を 覗き込んだ 時の様に 幻想的に アスファルトの 灰色が 何十にも重なり…浮かび上がっている。

(これは…夢?)


そんな言葉が 頭に浮かぶ

その時


私の顔は 安藤さんの 胸に強く 叩きつけられた。


「佐奈ちゃん!!」


背中に 回された 安藤さんの両手が 私を 窒息しそうな程 強く 抱き締める!!

「安藤さん!?」

突然の行為に、ビックリした私は 安藤さんの胸に 顔を埋ずめたまま 安藤さんの名前を 呼んだ。


「何が、あったのかは、分からない!だけど…佐奈ちゃんが、悲しいのなら 思いっきり 泣いて!」

安藤さんは、そう言うと 更に 私を 抱き締める手に…力を込めた


(安藤さん…)


一旦 止まった 私の涙腺が 再び…活動を始めだす


気がつくと…


私は 安藤さんの胸で

「わぁぁぁー!!!!」


思いっきり 声をあげ


泣き叫んでいた!!