真実のノート -24ページ目

14話『バイバイ』

その日の夜


「今、何してるの?」

奴に メールを 打った。

「別に 何もしてない…」

奴から…返信

少し前…私は
奴に…安藤さんの事を 相談しようと思った


今迄…何だって 奴に 相談して来た。


だから、今度だって 迷ってるんだから…相談出来るはず!


そう… 思ってた


だけど…何故か 私は 奴に打つメールを 削除していた。





奴に 聞きたい事は 沢山あった。


だけど…聞こうと すると
奴は 何度も 決まって 話題を すり替える


私は 次第に 何一つ 奴に聞けなくなっていた。



「どうした? 何か あったのか?」

又 奴から…メールが 届く

「何でもないよ!勉強しなくちゃ! またね」

私は そうメールを 打ち
送信をする


最近、奴とは 意味の無い

こんな やり取り ばかりだ





土曜日の午後


家に 安藤さんが 来た。

安藤さんは… 相変わらず

優しい…


だけど… 優しくされる度

私の心には 痛みが 走る



その日の夜

「おじゃましました…」


帰る 安藤さんを 私は

車迄 見送りに 出た


「お休みなさい…」

そう 言って 手を振ると
安藤さんは その手を 掴み
私を 強引に 助手席に 乗せた。

「どうしたの?」

困惑する私を 無視して

安藤さんは 車のエンジンを かける


「何処へ行くの?」

聞いても 安藤さんは 黙って 車を 走らせた。


車は 高速に乗り どの位 走っただろうか!?


気がつくと…フロントガラスの向こうには 朝もやのかかる、海が 広がっていた。


ハンドルに もたれかかりながら…安藤さんは 無言で 海を 見つめていた


そして、暫くすると 車から 降りて

「砂浜を 歩こう…」

そう言って 笑顔を 見せる

困惑しながらも 私は 安藤さんの後ろに 続いて 砂浜を 歩いた。

すると 突然 安藤さんは
振り向き、私を 抱き締める

いつもと 違う様子に 私は

「一体 どうしたの?」

安藤さんを 見上げた

「佐奈が 笑わないんだよ」

安藤さんは そう言って 私を 真っ直ぐに見詰める

「僕は 利用されても いいって 思ってた… 佐奈が 僕の横で…笑ってくれるなら… 耐えられるって 思ってた!だけど…君は 酷く辛そうで… 苦しそうで…」


(安藤さん…)


「私…私…」


安藤さんが 言いかけた 私の言葉を 唇で 塞ぐ

その瞬間


また、夢の中の 背中が 私の頭に 浮かんだ。


唇を 離した時


「僕じゃ ダメなんだよな?」

私に…問いかけた安藤さんが 泣いていた。


「好きだから、分かるんだよ…君の気持ちが…」


(安藤さん!!)


「ごめんなさい!! ごめんなさい!!」

私は 砂浜に 座り込み 何度も 安藤さんに 謝った

この気持ちに…コントロールが 許されるなら…


私は 絶対に 貴方の 隣で今頃…笑っていられただろう!

砂浜に座り込み…謝る事しか出来ない 私の肩を抱いて…安藤さんは…ゆっくりと立たせた。そして

「いいんだ…心は どうしようも無いもんな!それだけは…僕にも 分かるよ…」


そう言って 微笑んでくれた。

14話『バイバイ』

小雨が ぱらつく 10月

私は…美紀と 亜弥のお墓の前にいた。

花を飾り 手を…合わせる

亜弥が 亡くなった日も

亜弥の葬儀の日も ちょうど、こんな雨が しとしとと…降っていた。


「早いものだね…亜弥が 亡くなって もう…丸3年だよ…」

美紀が ぼそっと 呟く…

「去年も その前も 同じ台詞…言ってたよね!?」

私は そう言うと、口角を 少し、上げた。

「本当だね…年数の数字が 増えても、いつも 早いものだね…って 言ってる」

美紀も 少しだけ クスリと 笑って見せる


「来年の今頃も きっと 同じ台詞を 言ってるかな?」


「ふふ…かもね!だけど 佐奈も私も、看護師になってるよ!きっと 」


「そうだね…頑張って ならなきゃね!」


そんな 会話を 交わしながら…

小雨の中 私達は 亜弥の 墓石を 暫く…無言で 見詰めると


亜弥のお墓を 後にした。






帰りに立ち寄った 喫茶店で 美紀は 突然 改まって「佐奈に報告が あるの!」

そう言って (コホンッ)と 咳払いを 1つした。


「何?」

私は ホットコーヒーに ミルクを 入れなから、美紀に聞くと!?

「私…五嶋さんと 付き合う事にした!」

そう言った

「何よ 今更!もう…とっくにでしょ?」

私が 呆れた様に 聞くと

「ううん…好きだって 言われて無かったもん!」

そう言って 口を 尖らせた

「はいはい…おのろけ ごちそうさまです!」

私は スプーンで コーヒーに ミルクを かき混ぜ カップを 口に運ぶ…


「佐奈はさぁ~ どうするの?」


「何を?」


「とぼけて!安藤さんの事よ!! 彼に聞いたわ…安藤さん 佐奈に 本気だよ…」

私は ゴクリとコーヒーを 飲み込んだ。


(あの日の事を 思い出すと 胸が 痛くなる…)


ホテルからの 帰り道 車の中で 安藤さんは…

「利用されてもいい 佐奈が 僕の側に居てくれるなら…」

そう言った

私は 黙り込んだまま

何も 言えずに いた


(安藤さんが…もっと 冷たい人なら 良かった…)


二股とか…三股とか かけてる 遊び人なら もっと 私の 気持ちは 楽だったのに…


「佐奈…辛そうな 顔してるね!?」

美紀は 私の表情を 読んだのか!? コーヒーカップを 片手にそう言った後 眉を ひそめた。

第14話『バイバイ」

暑かった 夏休みも 終わり
再び、看護学校の 実習生として…勉強の日々が 始まった。


あのコンサートの日から

何故か!?


休みになると… 私の家の前には 黒いJEEPタイプの車が 止まる。


(安藤さんだ!)


安藤さんは、ママとも 仲良くなり

気がつくと、休みの度に
家に 遊びに 来る様に

なっていた。

ママは 安藤さんの事が 凄く 気に入った様で

「あんな いい人 中々 居ないわよ! 付き合っちゃいなさいよ!!」

そう言って 私のお腹を 指先で つつく!

もはや…ママでは無く

友達感覚の ママとの会話

「そう 簡単には いかないのよ!」

私は そう 言い返して ある日の…日曜日…
朝食の、後片付けを していた。

「そうなの?いい人だと 思うけど…」

ママは そう言いながら 腕まくりを すると 台所に立った。

「ママ!何する気!?」


私が 聞くと ママは

「何って 食器洗うのよ」

そう言って スポンジに 食器洗いの洗剤を 垂らす
「ちょっと待って!!ママ!」

私は 慌てて そう叫ぶと
ママから スポンジを 掴み取った。

スポンジの泡が 飛び散って ママの鼻の上に ピタリと張り付く


「何すんのよ!?佐奈!! せっかく、手伝おうと してるのに!」

ママは そう言って 又 スポンジを 私から 取り返そうと手を、伸ばした!


「ママ!ママのせいで もう…何枚 お皿が 無くなったと思ってる!?」

私は そう言うと ママの 伸ばした手を (ピシャリ)と 叩いた!

「ママ そんなに お皿 割ったかな?」

ママの顔が 途端に しょぼんと 沈んだ表情に 変わる
実際…ママは お嬢様育ちで 家政婦に 今迄 何でもやらせて 来たせいか…

正直 家事と言うものは

何も 出来ない!

(私が お嫁に 行ったら…この人は どうなっちゃうの?)

時々、真面目に 考える時が ある。


「こっちは いいから、洗濯機、回して来てよ!」

私は そう言うと 腕捲りをして ガチャガチャと 食器を 洗い始めた。

「はぁぁい…」

ママは 小さな声で 返事をすると 脱衣場の方へ 歩いて行った。

ママの背中が 小さく見える。


(こりゃあ 一生 ママの面倒みるしかないな!)


そんな事を 思うと 私は
1人 笑った。


まぁ~ 何も 出来なかったのは 最初の頃は 私も同じで… 随分と 梅に 電話をかけまくった!

そのおかげで 今の私が
有るんだけどね



その時


(ピンポーン!)

チャイムの音がした。


(もしや!?)


「はぁい!」

エプロンで 手を拭いなが
ら、ドアを 開けると!?


「おはよう!佐奈ちゃん!」


案の定…安藤さんが 立っていた。

(良く あのコンサートの日から… 飽きずに 来るものだ…)



安藤さんは… 「今日は 今、流行りの、映画のチケットが 手に入ったから 一緒に観に行こうと 思って!」
そう言って チケットを 2枚 ヒラヒラと 私の目の前に かざした。


「ママと!? 行くの?」


私が 意地悪そうに聞くと
「いじめないでよ~佐奈ちゃん!」


安藤さんが 苦笑いを 浮かべる


又、目尻に 優しい…笑いジワが 出来た。


私は

「待ってて 支度するから」


そう言って ニコリと 微笑んだ。










ポップコーンを 片手に

2人で 食べながら 観た

映画は ホラー映画だった

(これが 今 流行りの映画なのか!?)


そんな事を 思いながら

ポップコーンを 口に 運ぶ
私の手は

次の 血が飛び散るシーンと

「ぎゃあー!!!!」

主役の女優が 叫ぶ 悲鳴で
止まった!!

(真面目に 怖い!!)

私は 思わず 目をそらせた

その時


そんな 私の手を 隣の…安藤さんが 突然 握った!

(やっぱ…安藤さんも 怖いのかな!?)


私は そう思い 安藤さんを見た

安藤さんは 真っ直ぐ スクリーンを 見ている

私の手を 握る 安藤さんの手に 力が 込められる。
「…きだ」

その時 安藤さんが 何か 言った。


「きゃあ!! 辞めてぇ!!来ないでぇー!!!!」

スクリーンでは クライマックス近くの 残虐シーンが 繰り返えされている


「えっ!? 何か言った!?」

私は 安藤さんに 聞いた

その時

安藤さんが 私の肩を抱き自分の方に 強引に引き寄せた


そして


「好きなんだ!佐奈ちゃん!」


耳元で 安藤さんは はっきりと そう言った。


(安藤さん…)


戸惑いながら 私は 安藤さんから 離れようとした
けれど…私の肩を 抱く 安藤さんの手には 力が 込められ… そのまま 私は 動く事が 出来なかった。


(どうしよう!? もう…返事を 伸ばす事は 出来ない!)


私は 安藤さんに 肩を 抱かれたまま スクリーンの中の 女優を 目で 追った

けれど… 集中出来る訳も無く








映画が 終わった後も 無言で 私達は 映画館を 出て
安藤さんの車に 乗り込んだ。





「佐奈ちゃん…返事 聞かせて欲しい…」


映画館の 駐車場… 安藤さんは ハンドルに 両手をつき…そう言った



嫌いなら…私だって 部屋にあげたり 映画に2人で 来る事など 勿論しない


ただ…返事を 渋っていたのは…

安藤さんの優しさに対する
私の甘えだ


(最低だ…私…)


「ごめんなさい!」

私は そう言うと 瞳を 固く閉じた


「ごめんなさいって 僕とは 付き合え無いって事!?」

安藤さんが 私に聞く


「はい…ごめんなさい…」

答える声が 震えた


「…………」


そのまま 安藤さんは 黙り込み

暫く 沈黙の時間が 2人の
間に 流れた。


どの位 時間が 過ぎただろうか!?


「あの時の あいつのせい?」

突然 安藤さんが 私に聞いた。

安藤さんの問いかけに

私は コンサートの夜 安藤さんの胸の中で 泣いた自分を 思い出す


「そうじゃ無いんです 私が 馬鹿で いつまでも 引きずってるんです…」

私が そう答えると

安藤さんは

「だって 君は あの夜 泣いたじゃないか!僕なら 君を 絶対 あんな風に 泣かせたりしない!!」

そう言った。


「違います! 私が 勝手に…」

私が そこまで 言うと 安藤さんは 私を グイっと 引き寄せ 抱き締めた


「佐奈…愛してるんだ!」
耳元で 囁かれる 言葉


それは… 夢の中で 一度だけ 囁かれた 誠からの言葉

(誠…)


私は 安藤さんの言葉に

誠の 幻影を 求めながら
今 私を 抱き締める人を
見上げた。


重ねられる 唇


柔らかく…熱い 感触

何もかもが 幸せな 一瞬の

夢だった




私は… その日


安藤さんに



抱かれた。



「僕を…利用してもいい 佐奈を 愛してる…」


安藤さんは そう言って

何度も 私に 深い、キスを 繰り返す


(これで 何かが 変わるのだろうか?)


目を 閉じると…


私に…背中を向けて 歩く
愛しい男が いた。






そして


その男は 携帯を 片手に

誰かに メールを 打っている



(誰? 誰にメールしてるの?)


私が 聞くと


男は 黙って 又 歩き出した。


愛しい男は 遠ざかる…


(待ってよ!! 私達 ただのメル友 だったの!!!!)


私は 力の限り そう叫んだ





指先が ピクリと 動いて


(はっ!!)


私は目を、開いた!!


(夢!?)

いつの間に、眠ってしまったのだろう!?
私は ゆっくり 身体を 起こした。


隣には 安藤さんが 静かな寝息をたてて 寝ている


(私は…この人に 抱かれた…これは…夢じゃない…)

何故…あんな夢を
見たのだろう?

私は 裸体の身体に、白い バスローブを 羽織り
洗面所の 鏡に 映る 自分を じっと 見据えた。

(佐奈…あの男は 何故 誠から…奴に変わったの?)
自分に、問いかけて見る
鏡の中の私は じっと 私を見詰めている


(佐奈…貴方は 誰を 見ているの?)


(何故…安藤さんに 抱かれたの?)


心と 身体が 無情にも 引き裂かれる!!

私は 完全に 自分を 見失っていた。


でも…ただ1つだけ 確信出来る事がある


(私は…安藤さんを 愛してない)


安藤さんの言う通り

私は 安藤さんを 利用した

愚かで…最低な 女だ!!


私は 指先で 鏡の中の自分をなぞった

唇辺りで 爪をたてる

(優しい 安藤さんを 私は傷つけてしまう!)

こんな私 消えてしまえ!
私は 拳を作り 鏡の中の自分を 叩いた!!