真実のノート -16ページ目

15話『暴かれる真相』

「佐奈が 何を知ったと言うのだ?」

そう聞くわたしに

「誠さんの事です 全て知りました」

芳江が 直ぐに、言葉を返した。

(佐奈が 誠の事を!?)

わたしは 無意識に 隣の恵子に目線を、滑らせる
視線に気付いた恵子は
「どうしたんです?」

不思議顔で わたしを 見た。

「貴方 佐奈が 誠さんに、全てを承知の上で、逢いたいと言ってます」

受話器から 聞こえる 淡々とした芳江の声のトーンにわたしは、微かな期待を胸に「逢いたいとは 兄妹としてか?」
問いかけて見る

「………」

何も答えない 芳江

(違うのか!?)
その重苦しい沈黙が わたしを たまらなく 苛つかせ不安を募らせる。


そして

少しの沈黙の後
「すみません」
芳江は わたしとの回線を 切ってしまった。


受話器を 握り締めたまま 呆然とするわたしに

「勝利さん まさか!?」

恵子が、芳江との会話の内容を察知したのか ただらなぬ 表情で 問いかけて来た

15話『暴かれる真相』

「勝俊さん どうしたんです? ぼーっとして」

ふと、気が付くと 恵子が わたしの顔を 心配そうに覗き込んでいる

「いや、何でもないよ」

わたしは、眼鏡を外し、いささか 熱くなった目頭を 押さえると、そう言いながら 恵子に 笑いかけた。

あの日から、本当に、色んな事が あった。

しかし… 全てに 決着がつく日は まだまだ遠い
何故なら、闇献金疑惑の捜査は まだ 終わっては いないからだ そして 全てに 司法のメスが 降りる迄わたしは、まだ 戦い続けなければ ならない

誠、お前が 帰る頃には
全てを クリーンにして 後は お前に託そう


そして、忘れては ならない事が ある

あの後


芳枝が わたしの背中を 押してくれた事だ

芳枝は、佐奈の事件以来 行方知れずだった 恵子と誠の 行方を 探偵に 探させていたのだ…

恐らく、わたしの心中を 察しての事だろうが これからの、残りの人生を お前達への 懺悔に 使おうと心に 決めていたわたしには まさに 驚愕の事だった
そして、芳枝は わたしに別れを告げ 恵子の元に 帰る様に 言ったのだ。
ちょうど 佐奈も 自分の道を 歩み始めたばかりの頃だった。
わたしは 困惑せずには いられなかった…しかし
やはり、恵子への愛は、消える所か 日を 追う事に わたしの心を 締め付け、苦しく 切ない想いに なっていたのだ

そんな わたしを 一番近くにいて 背中を 押してくれたのが、他でもない わたしの妻 芳枝だったのだ。

あの時の 芳枝の心中は わたしには とうてい 計り知れない…

だが、あの時 芳枝の一言が 無ければ、今の この 恵子との 静かな一時は 無かった。

そして、佐奈 お前は 今年無事 看護学校を 卒業し 看護師としての 道を歩んで行く

この前 芳枝が 電話で 嬉しそうに 報告してくれた

今日 アメリカに 旅立つ 誠

そして 佐奈

出来れば、お前達を 兄妹として 逢わせたかった。
流れた、年月が お前達の惹かれ合った想いを、薄れさせてくれただろうか?
そう あって 欲しい

罪の意識にさいなまれながら、今は 祈るばかりのわたしだ…



「あの、旦那様」


急に 背後から 呼ばれ 肩をびくつかせながら 振り返ると 梅が 電話の子機を握り締め、 わたしの 背後に 立っていた。

「芳枝様から お電話です」

そう言いながら 子機を 渡す 梅

(芳枝から!?)

梅から 子機を 受け取り 受話器に 耳をあてる わたし
佐奈の 卒業祝いは 明日届ける予定になっている おそらく、時間の変更か?
そんな事を 思いながら

「もしもし 予定変更か?」

そう言った わたしに 聞こえたのは

「貴方 佐奈が 全部 知ってしまいました」

そんな 芳枝の重苦しい 声だった。

15話『暴かれる真相』

懺悔と、我が子への愛に 目覚め… わたしは、自分に残された、政治生命を かけ、政党の党首と なりながら、志し同じくする仲間と共に、わが党の 議員も含め 合計、41人の 闇に眠る 金の流れの証拠を 集めた。


「この証拠書類を、警察に突き出せば、汚いアイツらの 息のかかった 警察官僚達の 息の根も 一緒に 止められるだろう」

「はい、だけど 警察は 捜査に 踏み切るでしょうか?」

わたしの言葉に 不安気な表情を 浮かべる 同士達にわたしは、ニコリと 微笑み

「大丈夫だよ 誰が この書類を 提出すると 思っているのだ わたしは この日の為に 権力を 身に付けたのだよ」

そう言った。

気が付けば、長い月日をかけ、わたしは、時期総理大臣候補と 噂される迄に登りつめていた。

そのわたしを 無視して この闇献金の証拠を 揉み消す程 本庁のトップは 馬鹿では無い

これが、権力と 言う物だ


警察へ 出頭する朝

芳枝は 「貴方を 尊敬致します」

そう言って 泣いてくれた

そして、愛しい我が娘 佐奈は そんな わたしを 心配して 声を かけてくれる
わたしは、まだ 事情も何も知らない佐奈に、笑顔を見せ 屋敷を 後にした。