素敵にholiday
―おまけ―





「お似合いだったね、あの二人」
「ああ」

娘が見送りに行って、私達はリビングへ戻った。
私はキッチンで片付けをしながら、ソファーで寛ぐ寛貴くんに話しかける。

「まさか、先輩の甥御さんとは思わなかった」
「まぁな。良く似てる…性格は先輩よりは素直だ」
「あはは…先輩が聞いてたら怖いよ~」

笑いながら、食器を泡立てていく。
ふと、背後に気配を感じて、私は洗い物の手を止めた。
ふわりと背中から抱き締められる。

「寛貴くん?」
「…俺にはプレゼントないのか?」
「あ、ごめん。用意するの忘れてて…何か欲しいものある?」
「……欲しいものくれる?」
「うん」

寛貴くんの腕に力が籠る。
長い間、彼の妻をやってきて、それが分からないわけがない。
こうして、幾つになっても、私を求めてくれる彼がすごく愛おしい。
だから、振り返って、寛貴くんの唇に自分の唇を寄せる。

「…今はキスで我慢してね」

にっこり笑うと、寛貴くんが目を逸らした。
そこに昔と変わらない彼を見つけて、とても嬉しい。
ただいま、と娘の声が聞こえ、名残惜しく寛貴くんが離れていく。
あとで、とアイコンタクトを交わして、私は小さく笑ったのだった。
娘が産まれて立場が変わっても、変わらないものがある。
それがくすぐったくて。
大切にしたい。


幸せだな、とつくづく思う。







おわり
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-第三話-







「ごちそうさまでした」

楽しく食事が済んで、あとはケーキを食べるだけになった。
パパと先輩は、何故か舞台の話で盛り上がっている。
先輩にそんな趣味があったのは知らなかった。
ママがケーキセットを運んできて、紅茶を入れ始める。

「凛ちゃん、プレゼント持ってきたら?」

コソッと耳打ちされ、私は頷いて部屋に戻って、プレゼントの袋を持ってくる。
戻ると、ケーキと紅茶が用意されていた。

「パパ、ママ、これ、クリスマスプレゼント!先輩と私から」
「ほんとに!ありがとう」
「凛子ありがとう」

嬉しそうに微笑む両親に、私も嬉しくなる。

「わぁ、パジャマ!」
「お揃いか」
「凛ちゃん嬉しい!クリスマスプレゼント、久しぶりに貰ったから、ほんと嬉しいわ」
「…え?パパってプレゼントしてないの?」
「いや、まぁ…」
「パパは忙しいからね。それに、パパがいてくれるだけで、それだけでプロなの!」
「………」

パパが照れた。
ママは幸せそうに笑ってる。
何かいいなぁ…と隣の先輩を見上げると、先輩もニコッと微笑んでくれた。

「いいね、凛ちゃんのご両親」
「……うん」

親を褒められると、やっぱり嬉しい。

「…今年はあるぞ」

照れていたパパが、テーブルの上に小さな箱を出した。
ママが驚いて固まってる。
パパは頬を掻きながら、時間があったからな、と説明する。

「開けていい…?」
「ああ」

ママが箱のリボンを取って、蓋を開けた。
その瞬間、ふんわりと花が綻ぶように笑った。目の端にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「ありがとう、寛貴くん」

パパを名前で呼ぶママは、すごく可愛らしくて、まるで付き合いたてのカップルのように初々しかった。
パパもそんなママに優しく微笑みかけている。
パパもちゃんとするんだ。
今までそんなイメージがなかった分、私も少し感動してしまう。
いつも仕事ばかりだけど、堅物だけど。

「で、ママ何貰ったの?」
「これ!」

自慢げに見せられたのは、花の形にカットされたダイヤのピアス。
可愛い感じがママにピッタリだ。

「いいなぁ。かわいい…」

そう呟くと、とんとんと肩を叩かれる。隣を向くと、目の前にずいっと箱を差し出される。

「あるよ、凛ちゃんにも」

ママと同じ箱。
急いで箱を開けると、中には花の形の石が付いた、ピンキーリングが入っていた。

「わぁ…」
「これはダイヤじゃないけどね」

そう言って、先輩が右手の小指に、そっとはめてくれる。

「見せつけられちゃったね」
「本当だ」

パパとママが冷やかしてくるけど、そんなの気にならないくらいに、感動している。

「ありがとうございます!大切にします!」
「はい、よろしくです」

素敵なクリスマス。
幸せがいっぱいで、すごく楽しい。
皆でご飯食べて、ケーキ食べて、プレゼントして…また来年もこうして過ごしたいな。

「ねぇ、凛ちゃん」

先輩が小声で話しかけてくる。

「また来年も、こうして過ごせたらいいね」
「…うん!」

先輩、ありがとう。
そんな気持ちでいっぱいだ。





***





「先輩」

楽しかった時間が終わって、パパとママに見送られて、私達は家を出た。

「寒いからここでいいよ」
「はい…あ、先輩これ」

持っていた箱を先輩に差し出す。
渡しそびれたプレゼント。
先輩が受け取って、包みを広げる。

「ありがとう、あったかそうだ」

選んだのは、白いカシミアのマフラー。
いつも首元が寒そうだったから。

「大切にするね」
「はい」

先輩はマフラーを早速巻きつけると、私に向かって両手を広げた。
私はその中に飛び込んでみる。

「やっぱり凛ちゃんが一番あったかいよ」
「ふふ。先輩も暖かいです」

ギュッと抱きつくと、仄かに甘い先輩の匂いがした。
凛子、と名前を呼ばれて、顔をあげると、羽のようなキスが降りてくる。

「メリークリスマス」
「メリークリスマス、先輩」

ほぼ同時にそう言って、私達は顔を見合わせて笑い合う。
そして、もう一度唇を重ねた。







終わり?
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-第二話-







夕方。
クリスマスムードの街で、ショッピングを楽しんで、私の家に向かう。
手にはパパ達へのクリスマスプレゼント。
少しだけワクワクしてる。
何だかんだ言って、パパとママとのクリスマスは久しぶりだ。パパは仕事だし、家族でっていうのがなかなかない。

「楽しそうだね」
「はい!両親とクリスマスは久しぶりなんです。パパは仕事でいつも忙しいから」
「そっかあ。何か家族団欒を邪魔するみたいだね」
「そんな全然っ…先輩が来てくれるなんて嬉しすぎます」
「可愛いこと言ってくれるね」

先輩の笑顔に私も嬉しくなって、思わず抱きつくと、ゴホンとワザとらしい咳払いが聞こえてくる。
その方を見ると、パパが家の門にもたれて、こちらを見ていた。

「な、何してるの?」

慌てて先輩から離れて、パパに駆け寄ろうとするより早く、先輩がパパに近付いて、その手を握った。

「うっわー生須賀寛貴!」

せ、先輩ってこんなにミーハーだったっけ?
パパを見ると、茫然と手を握られてる。

「お会いできて嬉しいです!」
「あ、ああ…こちらこそ…」
「やっぱり本物はかっこいいですよね!うんうん…」
「…手を離してもらえないか?」
「あ、すみません」

先輩は少し照れながら、パパの手を離す。
パパは難しい顔をして、そのまま家に入っていく。
…ん?
どうしたんだろ?
不思議に思いつつも、私は先輩を促して、家の中に入る。

「いらっしゃい、……あれ?」

笑顔で迎えてくれたママが、そのままの顔で固まる。
そのまま回れ右して、寛貴くん!とパパを大声で呼んで、リビングへ駆け込んでいく。
自分の親ながら、おかしな人だ。

「先輩、ごめんなさい、変な親で」
「いや、楽しいよ。可愛らしいお母さんだね」
「そうなんですけど、落ち着きがなくて…って子どもがいうことじゃないですけど」
「あははっ…それは言えてる」

玄関からリビングにあがると、パパとママが私達の側に近寄ってきた。
ママが少し頬を染めて、か細い声で先輩に尋ねる。恐る恐ると言った感じだ。

「ごめんね、変なこと聞くけど、親戚に綾瀬川彩人さんっている…?」
「え、ママ、何で知ってるの?」

先輩が答えるよりも先に、私が反応してしまう。
彩人さんは…先輩の…。

「叔父です。いつも叔父から二人の話を聞いてます」

先輩の答えに、パパが頭を抱えてしゃがみ込んだ。
ママはやっぱりと言った表情。
何、知り合い?

「先輩っ?」
「ごめん、離してなかったね。叔父と凛ちゃんのご両親は知り合いみたいなんだ」
「そ、そうなんだ…」

びっくりだ。
まさかそんな繋がりがあるなんて。

「似てるわけだな」

パパが立ち上がり、苦笑する。
何となく変な空気が流れる。

「用意できるまで、部屋にいなさいね」

沈黙を破ったのはそんなママの声。
私は頷き、先輩を私の部屋に案内する。

「まさか、彩人さんとパパ達が知り合いだなんて」
「ふふ。世間は狭いよね」

そんな話をしながら、部屋に入る。

「綺麗に片付いてるね」

開口一番そう言われる。
私はコートを脱ぎながら、パパに似て、と答えた。
綺麗に整頓する癖は、パパ似らしい。
ママがよくそう言う。

「ふうん。ところでさ、もうちょっと近付いていい?」
「え、うん」

少し離れたところに座った私に、先輩がそう言う。
先輩が座るソファーに座り直すと、ふわりと横から抱き締められた。

「落ち着くんだよね」
「…私も」
「…親の前でイチャつくな」

パパの声が聞こえて、私は先輩を突き飛ばす。

「凛ちゃん乱暴」
「ごめんなさい!パパもノックして」
「いや、開いてたからな」
「それでも!」

何もしてないけど、親に見られるとやっぱり恥ずかしくて、私はふんっと鼻息を荒くして、部屋を出た。
キッチンに行くと、もう粗方の料理は出来ていて、あとはお皿に並べるだけの状態だった。

「すごい、豪華」
「お客様がいるしね。…それにしても凛ちゃんが付き合ってるのが、綾瀬川先輩の甥御さんとは、ほんと世間って狭いよね」
「うん。びっくりした」
「お付き合いのきっかけって何だったの?」
「ん?先輩から呼び出されて、告白されたの」
「……まぁ」

クスクスとママが笑い出す。
首を傾げていると、ママがコソッと耳打ちしてくる。

「私も先輩に呼び出されて告白されたことあるの」
「えっ、ママがっ」
「そうよ~、これでもママはモテたんだから」

胸を張るママに、あははと笑う。

「凛ちゃんはパパに似て、ほんと美人さんだもんね」
「でもママに似たかったな」
「そう?今は全然だけど、パパと付き合いだした頃は、ほんと凛ちゃんくらい美人だったらよかったのに、って何回も思ったよ」
「ママでもそんなこと思うんだ」
「ママでもって余計。そりゃ釣り合いたいもんね」

ママからこんな話を聞くと、ちょっと照れる。
ママの青春時代は想像出来ないけど、その話をしてるママは何か若返った感じで、可愛くなる。
きっとドキドキしてたんだなぁとか考えると、こそばゆい。

「そういえば、あの子名前何て言うの?」
「春輝さん」
「へぇー、春輝くんかぁ」
「うん。てか、部屋に二人置いてきたまんまだ!」
「え?パパと?」
「ちょっと様子見てくる」

父親と彼氏を二人にするなんて、ちょっと無謀だったよね。
階段を登り、部屋を覗くと、ソファーに座って楽しく話している二人が見えた。
意外に大丈夫?
パパもいつになくよく離してるし…。
邪魔したら悪いかなと、私はそっとキッチンに戻る。

「何か仲良くて拍子抜けした」
「そうなの?パパが珍しいね」
「ママもそう思う?」
「うん。しかも娘の彼氏なのにね」
「あはは」

仲良くしてくれるのは嬉しいけど。
二人で盛り上がってるのは少し妬けるなぁ。
パパとあんな風に話したことないし。

「なーに?ヤキモチ?」

からかうママの口調に素直に頷く。

「パパとあんな風に話したことないしなぁ」
「……それ、パパが聞いたら喜ぶよ」
「そうかな?」
「うん。凛ちゃんのこと大好きだもん、パパ」
「…あはは」

高校生にもなって、親に大好きと言われるのは、恥ずかしいけど、少し嬉しかった。
私って、ファザコンかも。

「さてと、あとはテーブルに並べるだけだから、呼んできてね」
「うん、分かった」

再び階段を上がり、部屋の扉をノックする。

「ご飯できたよ」
「今いく」

パパが立ち上がり、部屋を出て行く。

「先輩、パパと何話してたの?」
「んー…秘密」
「ずるい!先輩だけパパと盛り上がるなんて」
「あ、そっちにヤキモチ?ちょっと悔しいっ」

先輩がギュッと抱きついてくる。
いきなりのことで目を白黒させると、先輩が軽く唇を合わせてきた。

「もうっ」
「お仕置き」
「し、知らないっ」
「あっ、こらっ」

先輩から逃げるように階段を降りる。
先輩に振り回されるのが少し悔しい。
素敵にholiday
-第一話-







今日もすごく目覚めがいい。
大きく伸びをして、ベッドから降りる。
顔を洗うため、階下の洗面所に行く。洗面所の扉を開けると、いつもいない先客がいた。

「ん?ああ、おはよう」
「おはよ……」
「今あける」

顔を洗って、タオルを取ると、洗面台の前からスッと横に移動してくれた。

「今日はお前の好きなフレンチトーストだぞ」

私の背中にそう呟いて、洗面所の扉が閉まる音がした。
顔を洗って、リビングに行くと、美味しそうな甘い匂いがする。

「おはよ、凛ちゃん」
「おはよ」

ママがニコニコと笑ってる。
いつもよりすこぶる機嫌がいい。
それもそうだよね。
リビングのソファーで新聞を読んでいるパパを見て、納得する。

「ねぇ…今日は何でパパがいるの?」

こっそりとママに尋ねると、可愛らしい笑顔で「仕事がなくなったみたいなの」と教えてくれる。
あの忙しいパパが家にいるだなんて、すごく不思議だ。

私のパパは、俳優をやっている。結構有名な芸能人だ。
顔も娘の贔屓目抜きでも、十分な程整っていて、演技も上手い。
パパの活躍の場所は、ドラマだけでなく、舞台や映画までひっぱりだこなのだ。
年中いろんな所を飛び回っていて、家にいることは数える程しかない。
だから、あまりパパと一緒に過ごした
記憶もなかったりする。

「今日はクリスマスでしょ。せっかくパパがいるんだし、三人でパーティーしない?」
「…えぇ!?ムリムリ!私、友達と遊ぶ約束してるし」

ママに勢いよく首を振って、否定する。
今日はダメだ。
せっかく掴みとれたチャンスなんだから!

「……デート?」
「ち、違うよ!!」
「怪しい…」
ママの探る目から逃れるように視線を逸らすと、パパも同じ目で見てくる。

「……凛子、男だな?」
「………」

パパの鋭い問いに、私は黙り込む。
パパは深く溜息を付いて、頭を抱えた。

「……まだ高校生なのに…」
「あっ、パパ達が付き合い出したのだって、高校生じゃない!」
「それはそれ、これはこれ」
「ずるいっ!今時そんな事いうなんて、頭硬いよっ」

ついそう言うと、ママがクスクスと笑いを零した。

「相変わらず寛貴くんは、真面目だよね」
「……そんなことない」

ママの言葉に、パパの頬が少し赤くなる。
…私が知らないパパが見えて、少しこそばゆくなってしまう。

「そうだ!今日は二人で過ごせばいいじゃん!!恋人同士に戻って」
「そうね」

頷いて、ママはパパの方を見る。
パパは軽く咳払いをして、そうだな、と頷き、再び新聞へ目を落とした。

「…パパ、変」
「照れてるのよ。…凛ちゃん、フレンチトーストでいいよね?」
「うん!」

パパをチラリと見ると、耳が少し赤かった。
…こんなパパ新鮮。
昔はパパもこういう風に照れたりしてたのかな。
想像できないけど…。





***





朝食を食べ終わって、部屋に戻ると、携帯に着信があったみたい。

「あ、先輩だ」

慌てて掛け直すと、すぐに先輩の声が聞こえた。

『おはよう、凛ちゃん』
「おはようございます!どうしたんですか?」
『朝起きたらすごく寒かったから、暖かくしておいでと言おうと思って』
「あっ、ありがとうございますっ」

先輩の優しさに思わず声が大きくなると、くすくすと電話の向こうで笑う声がする。

『凛ちゃんはほんと可愛いね』
「あ…う…えと…」

反応に困ると、更に押し殺した笑い声が電話口から聞こえる。

「あっ、からかったんですね!?」
『ふふ。…でも可愛いのは本当だからね』
「……ありがとうございます」

先輩の電話を切ると、少し視線を感じて、後ろを振り返った。

「パ、パパッ!」

戸口にもたれて、こっちを見てる。
そんな姿も様になってて、自分のパパながら格好いい。
もしかして、聞かれてた?
そう考えると恥ずかしくなって、パパを思わず睨みつけた。

「……今日、うちにそいつを連れてくるんだ」
「はぁ?そんなことできないよっ」
「凛子、パパのお願いだ」

それだけ言うと、パパは私の部屋から出て行った。

「パパッ……もうっ」

お願いというか、もう命令に近い。
けど、パパには逆らえなくて、どうしたら先輩を丸目込めるか、私はもうそんなことを考えていた。





***






駅前に行くと、先輩がすでに待っていた。
色素の薄い茶色の髪、少し日に焼けた整った顔つき。
遠目からでも先輩だと一目で分かる。
少し大人っぽい雰囲気に、私はくらくらとした。
ふと先輩と目が合った。

「せん…」
「こんにちは、一人ですか?」

遮られて、先輩に女の人が一人近付く。
綺麗に着飾った大人の女性。
先輩と並んでいると、全然違和感がない。
私は面白くなくて、少しムッとした顔で、先輩に近付き、するりとその腕に自分の腕を絡ませた。

「私の待ち人なので、すみません」

キッと睨みつけると、女の人はたじろいで去っていった。
ふぅ…と息を吐くと、今度は先輩を軽く睨みつける。

「ちゃんとすぐ断ってくださいね!」
「だって、凛ちゃんが断ってくれるからね」
「私に任せないでくださいっ」
「ふふ。それがすごく嬉しいから」

不意打ちの言葉に、赤くなってしまう。
頬を抑えていると、先輩の顔が近づいてきて、そっと唇に温もりが触れた。

「っ……人がいるのにっ」
「そういう顔も好き」
「…もうっ、先輩置いていきますからっ」

さっさと歩き出すと、後ろから笑いが付いてくる。
いつもと同じだけど、それが幸せに感じて、私は振り返って、先輩に手を差し出した。

「ありがとう」
「いーえ!」

顔をくしゃくしゃにして笑う先輩が、堪らなく愛しく思う。
自慢の彼氏だよね…。

「ねぇ、先輩…今日少しだけ予定変更しません?」
「ん?どうして?」
「☻やう、光先輩がよければですけど…。パパが先輩に会いたいらしくて」
「パパって、あの須賀寛貴?」
「うん」
「光栄だね。いいよ、会いに行こう」
「よかったー!じゃあ家で晩御飯食べるってことでいいですか?」
「お邪魔じゃなければ」

先輩の了解を得られて、早速家に電話する。
ママにこのことを伝えると、嬉しそうに待ってるね、と声を弾ませた。

「話には聞いてるけど、楽しみだな」
「え?何の話?」
「こっちの話だよ。さ、凛ちゃん、行こう」

意味不明なことを言っていたけど、あんまり気にしないで、私は先輩と手を繋いで、クリスマスムードの街に繰り出した。


◇◇◇◇◇◇◇

ある朝の風景―須賀寛貴―

◇◇◇◇◇◇◇







ふと気が付くと、横で眠っていたはずの彼女の姿がなかった。
サイドボードの上の時計は朝の6時を指している。
ゆっくりと身体を起こすと、身体が心地よく疲れている。
今日は彼女も自分もオフだからと、昨日の夜、羽目を外し過ぎた。
肌に残る彼女の温もりと香りに、自然と笑みが零れる。
ガウンを羽織り、ベッドを抜け出すと、寝室をそっと出る。

「キッチンか…」

カチャカチャと、キッチンから音が聞こえ、いい匂いが微かに鼻腔をくすぐる。
音を立てずにキッチンへ近付き、覗くと、彼女が鼻歌混じりに食器を洗っていた。
ヘンテコな歌に、笑ってしまう。
そっと背後に近付き、抱き締めると、持っていた皿を落としそうになる。

「び、びっくりした…!」

振り返った彼女の頬にキスを落とすと、くすぐったそうに目を瞑る。

「もう…洗えないよ」
「…洗わなくていい…」

彼女の身体を強引に向き合わせると、顎を掴み、優しくキスをする。

「泡が!」
「気にしない」

更に深く口づけると、彼女がしがみついてくる。

「……ん……」

唇を離すと、少し潤んだ目で、見上げてくる。
理性が飛びそうなのをぐっと我慢して、彼女の柔らかな髪を手で梳く。

「…寛貴くん、強引。そんなことしなくても、私は逃げないよ」
「それは分かってる」

彼女の髪にキスをすると、名残惜しいが彼女から離れた。

「シャワーとか浴びてくる?その間に朝ごはん用意しておくから」
「ああ。そうする」

言われた通りに、風呂場へ行き、熱いシャワーを浴びる。
彼女がいる幸せ。
昔もそれを感じない日はなかったが、
今程感じたことはなかった。
非日常な世界から、彼女が待つ家に帰ると、すごく安心してしまう。
…だから、早く彼女を手に入れたいと思っている。
…だが、結婚を意識すると、どうしても一歩を踏み出せない。
迷惑を掛けることが分かっていて、彼女をそんな道に引きずり込む勇気がなかった。…かと言って、彼女を手放す勇気もなかった。
…中途半端な気持ちが余計に彼女を気付けてるかもしれない。

「はぁ…」

シャワーを止めて、風呂場から出る。
脱衣所には新しい下着と服とバスタオルが用意されていた。
僅かな心配りがとても嬉しい。その反面、少し心苦しい。
服を着て、リビングに入ると、テーブルの上には、美味しそうな朝食が並べられてる。

「あ、寛貴くん、食べよ」
「ああ」

二人で向かい合わせに座り、手を合わせる。

「ありきたりな朝ごはんだけど、和食の方が身体にいいかなと思って」
「ん…ありがとう」

味噌汁、ご飯、焼き魚、お浸し、定番の和食だが、どれもしっかり味がして、とてもおいしい。

「…どう?」
「美味い」
「よかった…」

胸を撫で下ろして、箸を付け始める彼女を見て、箸が止まる。
自分のためにしてくれる彼女に、自分は何か出来ているのだろうか。

「…寛貴くん?」
「うん?」
「どうしたの?何かあった?」
「いや、何もない」

心配そうな彼女に、笑顔を向ける。
彼女は少し考えこんで、それから箸を置いて、真面目な顔で見つめられる。

「…私、幸せだよ?寛貴くんのそばにいるだけで幸せ。ずっとそばにいたいよ。…その形はどんなものでも構わないよ」

ハッとする。
どうして、いつも欲しい言葉をくれるのだろう。
ふわりと笑う彼女を、自分の手で守りたいと思う。
いつまでも彼女に甘えているわけにもいかない。

「……ありがとう」
「ううん」
「…ずっと思ってた。俺がお前に何をしてあげられるのだろうって」
「うん…」
「もっと、ちゃんとした所で言った方がいいかもしれないが、……今言いたいから」

彼女の瞳が少し潤んでいる。
少し息を吸い、今まで言えなかったことを、言葉にする。

「結婚、してくれないか?」

彼女の瞳から涙が溢れてくる。
その涙がすごく綺麗で、見惚れてしまう。

「……うん。よろしくお願いします…」

泣きじゃくる彼女を、椅子から立ち上がり、抱き締める。
泣き止むまでその背を撫でる。

「……じゃあ、今日の予定は決まったな」
「え?」

涙で濡れた顔で見上げる彼女の額に、触れるだけのキスを落として、彼女の手を取る。

「ここに証が必要だろう?」

左手の薬指の付け根を撫でると、彼女がまた涙を零す。

「…嬉しい…ありがとう」

彼女を守る。
それがきっと自分の力になる。
再び泣き出した彼女の背を撫でながら、そう心に誓った。