こうやって、二人で何かするのって、やっぱりいいなぁ。

そんなことを思って、隣で使わなかったボウル等を片付けている寛貴くんを見ると、タイミングよく目があった。

「何だ?」
「ううん!何かね、こうやって二人で何かするの初めてだから、何か楽しいなぁと思って!」
「そうだな」

頷いた寛貴くんが、何時になく優しく微笑んでて、心臓が大きく音を立てるように、鳴った。
直視するのが何故か恥ずかしくて、スッと視線を外すと、寛貴くんの手が私の頬に伸びてくる。

「顔が真っ赤だが、体調でも悪いか?」
「だ、大丈夫っ」

頬を大きくて暖かな手が包み込む。
名前が呼ばれて、つられて寛貴くんの顔を見ると、吸い込まれそうな熱く濡れた瞳にぶつかる。

「あ、あのっ…」
「…何だ?」
「ちょっと、近い…かな?」
「…ダメか?」
「えっ…い、いや、あの…」

動揺して視線を彷徨わせると、寛貴くんが肩を揺らして笑い出す。
からかわれた、と気付いて、私は悔しくて、意地悪をしようと、寛貴くんに顔を近付け、さっとキスをした。

「…なっ!」

不意打ちに真っ赤な顔になる寛貴くん。
してやったりと、得意気な顔で彼を見ると、彼は怒ったような顔で私の顎を掴む。

「怒った……?」

私の問いには答えず、寛貴くんはグイッと私を抱き寄せると、そのまま噛み付くように唇を寄せてきた。

「…ふっ……んっ…」

重なる唇は熱くて、息が出来ずに空気を求めて開けた口内に、するりと舌が進入してくる。
口内を貪られ、舌を絡めとられ、求められるキスに、苦しくなってくる。
どんっと胸を叩いてみるけど、一向に離してくれなくて、私は息苦しさから身体から力が抜けてしまった。

「…!ごめんっ…」
「……はぁっ…」

ようやく息が思い通りに出来て、私は床にへたり込みながら、ぜーはーと息をする。

「…いきなり何…」
「仕返し」
「へ?」

更に力が抜ける。
仕返しって…寛貴くんがそんなことするなんて。

「…お前がからかうから」

見上げた寛貴くんは、少し照れてたりする。私も恥ずかしくなって、話題を変えようと、オーブンに視線を移す。

「あ、そろそろ終わりじゃない?」

そう声を掛けた直後に、ピーッと電子音がなる。
いそいそとオーブンを開けると、ふわんと甘い匂いが漂う。
美味しそうに、形良くマフィンが焼けた。

「せっかくだから、これでメッセージ書かない!?」
「ああ」

寛貴くんはキッチンで、私はダイニングのテーブルで、それぞれ一つずつケーキ皿に乗せたマフィンにチョコペンで文字を書いていく。
書く面積が限られてるから、在り来たりなことしか書けないけど、心を込めて書く。

"大好き"

三文字に込める想いは、世界中のどのカップルにも負けない。

「寛貴くん、出来た?」
「…まだ。先に部屋に持っていっといてくれ」
「はーい」

言われた通りに、お皿を持って、寛貴くんの部屋に行く。
何回かこの部屋にもお邪魔してるけど、やっぱり少し恥ずかしい。
寛貴くんの匂いがして、気恥ずかしいんだと思う。
マフィンが入ったお皿を、勉強机の上に置いて、ぐるりと部屋を見渡す。
きちんと整頓された部屋は、寛貴くんの人柄を表している。

「おまたせ。…何だ、座ってないのか」
「えへへ。…じゃあ、マフィン、交換しよ?」

私は、お盆をソファーの前に置いてる寛貴くんに背を向けて、私はお皿を取る。

「はい、どうぞ」

メッセージが入ったマフィンは、恥ずかしいけど、バレンタインだから、少しはその恥ずかしさにも耐えられる気がする。

「ありがとう…」

文字を読んだのか、うっすらと目の下が赤い寛貴くんに、私は嬉しくなる。

「……ごめん」

急に謝られて差し出されたマフィンには、何も書かれていなかった。
私が口を開くよりも早く、寛貴くんが私を引き寄せて、膝の上に座らせた。
横抱きされる格好になってしまい、いつもと違って私が見下ろすことになる。

「いざ、書こうと思ったら、…マフィンの中にうまく纏められなくて…」

申し訳なさそうに弁解する寛貴くんが可愛くて、私は悪戯心が疼いてしまう。

「成績優秀な生徒会長さんが?」
「…お前への気持ちを纏められる訳、ない」

寛貴くんの瞳が私を捕らえた。目を逸らせない程の瞳の力強さが、私の胸を期待感でいっぱいにする。
私はゆっくり瞳を閉じる。
寛貴くんの温かい吐息が唇にかかる。
触れるか触れないかの際どい位置で、彼の掠れた声が耳へ届いた。

"愛してる"

二人で作ったマフィンの甘い香りが、いつまでも漂っていた。







fin






*


◇◇◇◇◇◇◇

彼と一緒のバレンタイン

◇◇◇◇◇◇◇







「お邪魔しまーす…」

そう声を上げて、玄関で靴を脱ぎ、家に上がる。

今日は2月14日。

前に交わした、"今年のバレンタインは一緒にお菓子を作ろう"という約束のため、放課後、寛貴くんのお家にお邪魔している。
先に家に帰っていた寛貴くんがリビングから、顔を覗かせて手招きしていた。
少し早足で寛貴くんの元に行くと、もうすでにキッチンにはお菓子作りの用意がしてあった。

「これ…寛貴くんが?」
「ああ…勝手にレシピも決めてしまったが、よかったか?」
「あ、うん。何作るの?」
「これ」

寛貴くんが紙を差し出してくる。
パソコンのレシピを印刷したのだろうか、そこには『おいしいマフィンの作り方』と書いてあり、分かりやすいように、作る行程の写真が掲載されている。

「マフィンかぁ~…作ったことないや…」
「そんなに難しくはないな」
「え?寛貴くん、作ったことあるの?」
「い、いや…」
「ま、大丈夫か!このレシピ分かりやすいし!寛貴くん、ありがとう」

寛貴くんは準備に抜かりはない。
材料はもちろん、何とデコレーションできるように、チョコペンやカラースプレーなど、そんなものも用意してあった。

「余り時間もないし、作り始めようか」
「そうだね」

5時には、寛貴くんのお母さんが帰ってくるって言ってたし、2時間くらいしか時間はない。
ザッとレシピを確認して、よし、と意気込むと、もうすでに寛貴くんは材料を計って用意していた。

「…手際いいね」
「そうか?準備をしてからの方がしやすいだろう」
「そうだね」

小麦粉や砂糖、それからバターを分量分用意する。
その間に、私は計った小麦粉とベーキングパウダーを一緒にして、ふるいにかける。
二人ですると、意外とするすると行程が進み、早く出来そうだ。

「んー、白っぽくなったかなぁ」
「…そのくらいで大丈夫だろう」
「じゃあ、あとは卵を入れて……」
「あっ、そこは、卵黄と卵白を分けて入れた方がいい」
「そうなの?」

寛貴くんに言われた通りに、卵黄と卵白に分けてから入れる。
…それにしてもよく知ってるなぁ…寛貴くん。

「…あとは小麦粉を入れて…はい、寛貴くん」
「ん?」
「最後の仕上げ!」

生地が入ったボウルを寛貴くんに手渡した。
さっくりとヘラで混ぜていく。
しっかり混ざると、マフィン用の容器に均等に流し込んでいく。

「やっぱり寛貴くんてキッチリしてるよね」
「…ん?」

カップに注ぎ込んでいる手元を覗き、私はそう声を上げた。
どのカップも同じだけ生地が入っていて、まるで計ったかのようだ。

「私ならこんな綺麗にできないし」
「そうか?」

すべての生地を流し込むと、予熱していたオーブンに入れて、焼き上がりを待つだけになった。
その間に、使った器具を洗って、キッチンを片付ける。



◇◇◇◇◇◇◇



何気ない日々を



◇◇◇◇◇◇◇






朝の明るさで目が覚めて、ママの作った朝ごはんを食べて、毎日着てる制服に袖を通して、私のいつもの日常が始まる。

小さい頃から変わらない習慣。

カバンを持って、玄関で靴を履いて、いってきます、と声をあげて扉を開けると、そこには変わらない日常を変えてくれたヒトが立っている。

「おはよう」

柔らかく微笑んでくれるその顔を、朝一番に見れる幸せ。

私も笑顔になれるのだ。

「おはよう」

とびきりの笑顔をあなたに。

「何かいいことあったか?」
「え?別に?」

何でもないよ、と彼の手を取り、先に歩き出す。

握り返してくれる大きな手。

その手に安心する。

「…まぁ、いいけど」

私と並んで歩く彼の顔を見上げると、いつもの気難しい顔じゃなくて、少し柔らかい表情をしている。

それが嬉しくて、くすぐったい。

「……何だ?」
「ううんっ…何でもっ」

ふふっと笑って、私は彼の手をぎゅっと握る。
何か変なものを見る様に、彼は私を見て、それからフッと笑みをこぼした。

「……そういえば、今日数学当たるな、お前」
「えぇっ!そうだっけ!?」
「ああ」
「大変!急ごう!答え合わせしなくっちゃ!」

ぐいぐいと引っ張って歩くと、呆れたような溜息が聞こえてくる。

「たまには自力で乗り越えたらどうだ?」
「ちゃんと自力で問題は解いてるもん。答え合わせだけ!」
「屁理屈だな」

引っ張っていた手が何時の間にか引っ張られているのに気づく。

「…お前のことだ。きっとやり直しだからな。…時間がかかる」
「……出来が悪くてすみませんね!」

――そんな穏やかな日常。

何気ない幸せが、ほらここに。





終わり。



◇◇◇◇◇◇◇

嫉妬にご用心!

◇◇◇◇◇◇◇





「今日はうち、来るよね?」

放課後、滅多に彼から話しかけてくることなんてないのに、今日は違った。

「うん。
…改めてどうしたの?」
「…別に」

そう言って、顔を逸らした彼のその視線の先を見ると、須賀くんが渋い顔をしていた。

「?」
「…いくよ」
「あっ…待ってっ」

さっさと出て行った彼のあとを慌てて追いかける。
須賀くんの側を通り過ぎた時、はぁ…と深い溜息が聞こえて、私は思わず立ち止まった。

「…須賀くん?何か悩み?」
「えっ…」

気になって尋ねると、驚いた顔をして、黙ってしまった。

「?須賀くん…?」
「…いや」
「…早くしてくれない?」

不機嫌な声が投げかけられる。
先に行ったはずの彼が戻ってきて、私の腕を掴んで、強引に引っ張っていく。

「ちょっ、ちょっと、秋夜くん!私まだ話してたんだけどっ」
「黙って」

抵抗虚しく私はそのまま引きずられて、下駄箱まで連れていかれる。
少し強引な彼に疑問を抱きつつ、靴を履き替え、先に外に出た彼に追いつく。

「…遅い」

無表情だけど、ちょっとイライラしてる彼。

「ごめんごめん!機嫌直して?」
「……」

ぐいっと腕を引かれ、バランスを崩した私は、彼の胸に飛び込む。

「しゅ、秋夜くんっ?」

ぎゅっと抱き締められて、慌てて離れようとしても、ビクともしない。

「秋夜くん!ここ学校だよ!」

顔を近付けられ、私はそう言って、彼の口に手を当てる。
彼はニヤリと笑って、口を抑えてる私の掌をペロリと舐める。

「っ…ちょっと何で舐めるのっ」
「……学校だからするんだよ」
「え?」

理解できなくて聞き返すも、彼は先に歩いて校門を出てしまう。

「ちょっ、ちょっと待ってよ~!」

待つ様子もなく行ってしまい、私は急いで彼の後を追いかけた。





***





「うー…腕が怠い…」

腕を揉みながら、通学路を歩く。
昨日あれから彼に付き合わされて、家に帰るのもすごく遅くて、親にこってり絞られてしまった。
今日絶対文句行ってやる、と意気込んでると、ポンと肩を叩かれる。

「おはよう」
「あ、須賀くん、おはよ!」
「…ん?腕どうかしたのか?」
「ああ…ちょっと怠くて…慣れないはするもんじゃないね」
「慣れないこと?」
「昨日秋夜くんにこき使われて…気持ちよくなるまでやめちゃダメって言われて、頑張った結果……な、の?」

須賀くんの顔が真っ赤になっていく。
視線を逸らして、口元を覆う須賀くんに首を傾げる。

「どうしたの?」
「……いや」
「でね、結局二時間もする羽目になっちゃって…ほんと困っちゃった」
「そ、そうか…」

ぎこちない相槌に、更に首を傾げていると、急に横から腕が伸びてきて、後ろから抱き締められる。

「え?」
「須賀、先行きなよ」
「あ、ああ…じゃあ」

さっさと歩いて行く須賀くんを見送り、私は背後の彼を振り返る。

「おはよう、秋夜くん」
「おはよ」

解放されて、私はホッと息を吐く。
昨日みたいに離されなかったらどうしようかと思った。

「…で?須賀と何の話してて、あんなに真っ赤にさせたわけ?」
「え?普通に話してただけだけど…」

須賀くんに話したように、彼に話をすると、彼はへぇ…と面白そうに笑みを浮かべる。

「…須賀らしい、勘違いだね」
「勘違い??」
「こっちの話。…いくよ」

いっぱいハテナを浮かべた私の手を掴んで、彼は歩き出す。
その横について、彼の横顔を見ると、いつになく楽しそうな顔に、私は少しだけ嬉しくなった。





***





放課後。
授業が終わって、帰る用意をしてると、彼が私の所までやってくる。

「…今日もしてくれるでしょ?」
「えっ…今日は無理だよ…」

腕が怠いし…と続けようとする前に、
ガタンと大きな音が聞こえる。
須賀くんが立ち上がった音だ。

「何、文句ある?」
「…とやかく言う立場ではないが…」

チラッと私を見る須賀くんは、今朝のように真っ赤だ。
すると、これ以上我慢できないと言う風に、彼が吹き出した。

「何勘違いしてるか知らないけど…、俺が頼んでるのは、肩揉みだけど?」
「――っ!」

須賀くんはカッと目を見開き、ますます顔を真っ赤にさせて、乱暴に自分の鞄を取ると、足早に教室を出て行った。
唖然とする私に、彼がいつもように欠伸を噛み殺しながら、帰るよ、と声を掛ける。

「…うん」

何か釈然としないまま、私は彼についていく。

「あ」
「何?」

立ち止まった私を振り返る彼。

「今日の須賀くん、いつもの須賀くんらしくなかったね」
「……ほんとに」

俺の気もしらないで…とか何とかブツブツ呟いている彼に、どうしたの?と声を掛けると、不意打ちでキスをされた。

「――っ、秋夜くん!」

ギロッと睨みつけると、いつものポーカーフェースじゃなくて、少し嬉しそうに笑ってる顔で。
不覚にもドキドキしてしまって、私はぽーっとしてしまった。

「…早く行くよ」

でも、すぐにいつものポーカーフェースに戻ってしまって、私は少し残念に思いながら、彼の後を追い掛けた。






終わり。
おめでとう







「もうすぐ一年が終わるな」
「うん」

私達は今、家の近所の神社に来ている。
今日は大晦日だから、親には特別に許可を貰った。
寛貴くんと二人、境内の端っこで年明けを待っていた。

「寒くないか?」
「うん…大丈夫だよ」

と言ったものの、じっと動かないでカウントダウンの瞬間を待っているので、少しだけ寒い気がする。

「…ほら」
「わっ…」

繋いでる手を軽く引っ張られ、寛貴くんの胸に倒れこんだ。そのまま、コートに包まれる。

「ひ、寛貴くんっ?」

いつもの彼からは想像できない行動に、私の鼓動は一気に跳ね上がる。

「…こうしたらあったかいから。今日は特別だ」
「…うん」

耳に響く寛貴くんの鼓動が、私と同じくらい早くて、少し安心する。
お互いの体温が伝わって、すごく暖かくなってくる。

「あ、始まった」

カウントダウンが始まる。
新年への期待からか、境内に集まっている人達の作る雰囲気が、年が明ける独特なものに変貌する。
私は寛貴くんの腕の中で、静かに新年になる瞬間を待っていた。

…あと、10秒。

スッと寛貴くんの腕が動く。
私の顎に寛貴くんの大きな手が添えられる。

「…こっち見て」
「えっ」

言われるままに、顔を上げると、寛貴くんの顔が近付き、優しく唇が重ねられた。
驚いて身を引こうとするが、強く抱き締められて、動くことが出来なかった。
その瞬間、「ハッピーニューイヤー!」の声が境内に響き渡る。

「…あけましておめでとう」

離された唇から、新年を祝う言葉が紡がれる。
私も一歩出遅れつつも、おめでとう、と何とか返す。

「な、何か寛貴くん、今日はおかしいよ?」
「…そうか?」
「う、うん。何か大胆というか…」

しどろもどろになりながらもそう言うと、寛貴くんが小さく笑い出す。

「な、何?」
「何でもない。…お前としてみたかったんだ。
…こういうの」

少し頬を赤くして言う寛貴くん。
今度は私が笑う番。
そして、寛貴くんに思いっきり抱きつく。
胸に顔を押し付けて、それから、見上げる。

「今年もよろしくね」
「……ああ、よろしく」

何故か照れた寛貴くんに、私もつられて照れてしまう。
寛貴くんにそのまま身を寄せると、強く抱きしめてくれ、私はすごく幸せを感じた。







おしまい






良い年をお迎えください

まいまい