母親が出て行く前に、前兆はあったのだろうか。
覚えていないのか、忘れたのか。
他の家族と比べる手段もなかったので、我が家は普通だと思っていた。
普通ってなに?

長じるに従って、知識は増えてきた。
それでも、家族とはどういうものなのかよくわからない。
親子の関係等も。
血のつながりってなんなのか。

あんたって冷たい子ね、鬼みたい。
母に言われた事がある。
きっかけは分からない。
親に対してどのような事をしたり、言ったりしたらこんな事を言われるのか。

本人は軽口のつもりだったかもしれない。
でも、相手が軽口と受け取るか、深刻に受け取るかわからない。
言葉は怖い。
こうして他者との会話が出来なくなっていく。
人と話をするのは苦手だった。
家族とも上手く会話が出来なかった。
何を話せばいいのか分からない。

本を読んでいる時は幸せだった。
毎日図書館に行った。
幼稚園の図書室、小学校の図書館、地域の図書館。
利用限度一杯に本を借りた。

本のジャンルは何でも良かった。
SF、推理、歴史、科学、ホラー。
本を読んでいる間は、他の人と関わらなくても許されたから。

人の感情がのぶつかり合いを主題としたものは苦手だった。
恋愛ものとか青春ものとか。
今でも、読まない。
そのジャンルは映画も見ない。
理解とか共感とか、出来ないから。

寝ている時と食事時以外は、本を手放さなかった。
お風呂でも、トイレでも。
歩いている時さえ、可能なら本を読んだ。

勉強ではない。
現実逃避。
小学校は私立だった。
家からバスで小一時間。
車に酔う子供だったが、毎日の通学のおかげで鍛えられた。
今では後ろ向きに座ろうが、本を読もうが全く大丈夫。

幼稚園時代の友達は、近所にいなかったのだろうか。
小学校が遠かったから、帰宅後は家に籠るようになった。
本を読む。TVゲームをする。
食事等は同居するようになった祖母が作ってくれた。

クラスの名簿の母親の欄は空白だった。
母の日には「おばあちゃんありがとう」と書いた。
ストレスのせいかどうかは分からないけれど、3年生位から急激に太りだした。
ガリガリからデブッチョに。

ますます外に出なくなった。
学校に行く以外は、ずっと家の中。
家族との会話も無くなっていた。