あなたの見え方は特殊なのよ。
昔、よく母親にそう言われた。
僕の見え方は特殊なのか。それ以下でもそれ以上でもなく、余分な添加物は添えず、ただそう受け入れた。
僕の世界に色はない。色彩はほとんどない、否、皆無だ。
白と黒の世界、淡白で漆黒だ。
困ることはあっても、得することはない。
揶揄われることもあれば、信じてもらえないこともある。
だから、そのことを他人に伝えることはやめた。
僕の見える世界が白黒であること。
そのことは他人からすれば「ふーん、そうなんだ。」ただそれだけのことだ。
3秒もすれば話題は変わっている、否、3秒も持たない。
皆、それほど自分のことで頭がいっぱいだ。
ただ今は違った。この人にこの事を伝えたいと思った。
なんて言うのだろうか?
魔が差した?確かなのは何かが僕の中の何かを突き刺した。
「あの」
「何かしら?」
「実は僕の目には色彩は存在しないんです」
彼女は珍しく、興味深そうな顔を浮かべて、しばらく僕の目を見つめて言った。
「あら、そうなの?」
「はい」
「知らなかったわ」
「はい、言ってなかったので」
「羨ましいわ」
「え?」
「不必要な情報に脳を使わなくて済むわ」
「色は不必要ですか?」
「もちろん、必要な人の方が大多数」
「違うんですか?」
「私、光と影のコントラストが好きなのよ」
「そうですか」
「そうなんです」
彼女はニコッと笑い、また窓から外を眺めた
「あの」
「なにかしら?」
「くだらないことを話してすみません」
「なんのことかしら?」
「僕の目のことです」
「あなたはくだらないと解釈するの?」
「いえ、いや、はい」
「やっぱりあなたは面白い」
「面白いですか?」
「実は、私はあなたのコントラストが好きよ」
彼女は微笑んだ。
僕は初めて頬が”赤くなる”という感覚がわかった気がした。