それは悲しい物語になりそうなはじまりの文句ね。
彼女はどこか嬉しそうに、少し茶目っ気まじりにそう言った。
「どこがですか?」
「どこがって全部よ。あなたが今私に話してくれたこと」
一瞬、僕は彼女に何を言っただろうかと考える。
取るに足らないことを言ってみたはずだ。
取るに足らないことでも、彼女に話せばどこか足るに至る気がしたからだ。
「あなたの人生がもしも”死がない”のなら、それは人類初の快挙よ。私には想像もつかないわ。私には"死があるもの"きっと。」
「あ、その死ではないです。」
「あら、詩(うた)の方だったかしら」
「そっちの詩は僕には無縁です」
「あら残念。それはお気の毒に」
「毒ですかね?」
「"死がない"あなたには必要かもね」
「毒がですか?」
「そうよ。ドックンドックンする毒がね」
「よくわからないです」
「そうよ。所詮その程度のことなのよ。悲しい物語が始まりそうでしょ?」
彼女はまた少し茶目っ気まじりにそう言った。