「この上ない、この上ない、この上ない」
彼はおもむろに呟いた。それが何を意味するのかはさっぱりわからなかったが、無反応では相手に失礼なのではと思い、いくつかの選択肢の中から【微笑み返す】を選択し、彼に微笑み返す。
すると彼もまた、私に微笑み返してきた。どうやら私の選択は間違っていなかったらしい。少なくとも気分は害していないだろう。
彼が「この上ない、この上ない、この上ない」と呟いた時はとりあえず微笑み返せばいいのだと窓の外に視線を向けながらぼんやりしていると、また彼が今にも消え入りそうな声で尋ねる。
「それで、お約束の・・・」
「ああ・・」
私はここに来た目的をすっかり忘れていた自分に対して少し苛立ちながらコートの内ポケットから茶封筒をだす、目の前に座る彼の前に差し出す。
「お約束のお金は全てそろってます。お疲れさまでした。」
そして私はまた【微笑む】を選択する。
彼は一瞬安堵の表情を見せ、封筒を手に取る。しかし、すぐにまた不安げな表情に戻る。疑わしいやつだなと、心の中でイライラが募るのを感じる。強いものにはへこへこしてすぐに屈する小動物をみると無性に腹がたつ。この場で殴り倒したくなる衝動を抑えながら言う。
「心配なさらなくても、すべて本物お金で、これ以上私とあなたが関わることもありません。あなたからまた関わりを求める以外にですがね。金額を確認したいのであれば今ここでしていただいても構いませんよ。まだしばらく時間はありますから」
「い、いえ。決して疑っているわけでは。あ、ありがとうございます。失礼します」
そう言って彼は逃げるようにこの場から去っていこうとする。
「いい時間を」
私がそう彼の背中にむかって言うと片を一瞬びくつかせ彼は店から出て言った。
静まり返った部屋。目の前にはいっさい手をつけられていないコーヒーがそのまま置いてある。もったいないな。ハワイコナの一番ランクが上のコーヒーなのに。だが彼の選択は正解だ。不意に笑いがこみ上げてくる
「正解だ。つくづく運のいいやつだ。」
このコーヒーの中には毒が入れてある。もちろん飲めば確実に死ぬ量だ。彼はたくさんの選択肢の中から正解を選び、高額なお金を手に入れた。そしてまだ生きている。だが彼は一番最初にたった一度だけ選択肢を間違えている。担当に俺を選んだこと。そして、今日俺は機嫌が悪い。
「さてと、殺すか」
このセリフを口にだすと毎回心からわくわくする。自分の高揚が抑えられなくなる。いい感じだ。この瞬間がたまらなく好きだ。生きている事を実感できる。下半身が熱くなってくるのを感じる。まだだ。絶頂にはまだ達せない。もう少し我慢だ。
「・・あはは」
口から垂れたよだれを袖で拭い、隣の部屋へ行く。そこは窓がなく、空気がどよみ、まっくらだ。どことなく霞みかかっているようだ。電気をつけ、目的の場所へと向かう。
「今回はこれだ」
たくさんの道具の中らビデオカメラを手に取り、壁にかけてあるお気に入りの黒のリュックの中に入れる。今回は精神から殺してやる。じっくりじっくりと。あいつの奥さんはまだ若くてきれいで、それになによりあいつは奥さんのことを心から愛している。俺にお金を借りるぐらいにな。その女を他人に寝とられ続けらるとどうなるかな。ダメだダメだ。創造するだけでいっちまいそうになる。考える前にまず行動だ。
「いい日になりそうだ」
「今部屋を出た」
花島慶介は今さっき男から受け取った大きくふくらんだ封筒をバックにしまいながら報告する。
「了解。うまく騙せたか」
「今年のオスカー賞は俺だな。レッドカーペットの上をさわやかな笑顔で歩く自分の姿を創造できるよ」
「気を抜くなよ。これからが本番だ」
「オーライ」
「また進展があれば連絡を頼む。こちらはこちらからサポートを続ける」
「ああ」
電話を切り、まずは最初の目的地へと足をすすめながらさっきの男を思い浮かべる。とんだサイコ野郎だ。殺したい欲が前面に溢れている。うまく抑えているつもりだろうが見る人が見たら丸わかりだ。どんよりとしたコーヒーを思い出す。誰があんなもんのむかよ。せっかくの上等なハワイコナ。もったいないことしやがって。
「絶対に許さねぇ」
誰が悪者で誰がいい人が
正義がぶつかり合い
騙し合いが始まる
結末は全員死ぬ
世の中に本当に正義は存在するのだろうか。
そんな哲学の話はどうだっていいんだ
難しくて、おまけに答えはないらしい
そんなもん考えてられるかという話し。
今のこの生活に必要なことをぜひ教えていただきたい
生きとし生ける
自然に習おう
自然は偉大だ
ここにすべての答えが隠されているだろう。
難しい話は嫌いだ
頭が痛くなるからね
真実を知りたい。
凡人の自分でも理解できる方法でね。