今回も半身動作研究会中島章夫先生がレポートを書いてくださったので、掲載させていただきます。
第二回骨盤おこし(股関節トレーニング)セミナーが、8月30日、31日と開催された。毎度、レポートは苦手なので思い付いたことをどんどん書いてゆこう。
●胸椎を動かす
今回、もっとも印象に残ったのは「骨盤をおこすこと」と共に「胸椎を前に押し出すこと」。
このことは前回のセミナーでも講師の中村考宏さんは言っていたのだが、今回はそのときはあまりよくわからなかった。
し かし前回セミナー後、骨盤おこしのことをあれこれ考えて、骨盤おこしは肩甲骨の間にスッキリとした「谷間」ができることと不可分だと感じていた。つまり胸 椎が「猫背」とは逆に弓なりに凹むということである。これは以前、甲野先生が「背中を抜く」と言っていた状態であろうと想像していた。
それが今回「胸を押し出す」「胸椎を押し出す」という言い方で、はっきりしたようだ。
これに関して中村さんが言ったこと。
「現代日本人は腰椎と頚椎を動かすのは得意だけど、股関節と胸椎を動かすのが苦手」
「股関節と胸椎が動かない分、腰椎と頚椎は余分に動かないといけない。それでそこを痛めることが多い」
「腰椎と頚椎のヘルニアはよくあるが、胸椎のヘルニアはあまり聞かない。それだけ胸椎は固めて動かすことがないということである」
「セミナーでやっているのは、腰椎、頚椎の動きに、股関節と胸椎の動きを足してやること。そうすれば腰椎、頚椎の負担が減って、体幹部が働くようになる」
「股関節、腰椎、胸椎、頚椎がきちんと動いてはじめて体幹部が働いているといえる」
特に「これまでの動きに、股関節と胸椎の動きを足してやる」というのは、前回は言っていなかった気がする。なんせ基本的にメモを取らない主義なので、自分が覚えていないだけかもしれないが。
これを強調するのはとても大切なことで、ともすると骨盤おこしが、股関節のトレーニングだと思われがちだが、すべての関節が動くようにするトレーニングなのだということが今回分かった。
これも前回から中村さんは言っていたと思うが、「聞く耳」がなかったのだろう。
●「横座り」
前回、懇談会の席で話題になった、「正しく横座りや脚の組み方をすれば、からだを歪めることはない」というのを実際に指導してもらった。
これは整骨、カイロなどの多くの治療法で「横座り(女座り)」や、イスに座っているときに脚を組むことがいけないとされていることについて、骨盤おこしの立場からの提案であった。
「横座り」については、タイ女性の伝統的な座法ということで、わたしの想像とは違うものだった。
わたしは骨盤をおこした姿勢での正座から、ただ横に腰を落とすものかと思っていたのだが、実際は正座の片方の足に体重を乗せ同じ側の手を床に付いてからだを支え、反対の足を横に崩すというものだった。
つまり「半分だけ正座」なのである。そしてある程度の時間が経ったら、左右を入れ替えるのである。
●「脚を組む」
「脚を組む」では同時にスカートの女性がキレイに座る方法も行った。
本来は骨盤幅に膝が開いているのが良い。すくなくとも骨盤をおこして座るトレーニングのときは、腰幅と両膝の間隔が同じで、膝の向きと足先の向きを揃える。
こうして骨盤をおこして座る感覚が掴めたら、足下を揃える(靴の内側を付ける)。足下はくっつけるが、両膝は軽く開いたままでそこに両手を重ねて置くと、膝をピッタリ付けなくてもキレイな座り方になる。
その座り姿勢で脚を組むと、骨盤がおきているために姿勢が崩れることがない。それでも時間と共に組む脚を入れ替えることが大事。
●ポジションと方向
講師の中村さんは、ことあるごとに「大切なのはポジションと方向です」と言う。
それはたぶん、自然な骨の位置とそれを保つ筋肉、自然な関節の動きとそれらを保証する筋肉の動く方向ということじゃないかと思う。
たとえば大テーマである骨盤を考えてみると、後傾している場合は筋肉が引っ張る(緊張する)ことでそういう傾きになっている。
骨 盤をおこす(わたしの感覚では前傾させるといった方がいいが)というのは、反らせることではない。本来あるポジションに持っていくだけなので、それを保つ 筋肉が、もっともリラックスできるのだと言える。はじめおこすのがけっこうきつく感じるのは、後傾になれて縮んだ筋肉を動かさないといけないからだ。その ためには前傾する方向に動いて行くしかない。
腕は自然に垂らせば、手のひらが前方を向くが、それが側面や手の甲が前方を向くとしたら、 肩を内側に巻き込むように筋肉を使っているからで、それは腕の付け根を外旋させるだけでは済まない。胸が肩より前に出るようなポジションにする必要があ り、それには固まっていた(筋肉で固めていた)胸椎が自由にアーチを前方に作れないといけない。胸椎を自然なポジションに置く必要があり、それには筋肉が その方向に動かなくてはならない。
つまり「自然な姿勢を保つ」ことがすでに運動ということだ。
逆に不自然な姿勢を保つには、筋肉はその姿勢のために収縮し固めているということで、そこには自由な運動がないことになる。
「自然な姿勢」が伸びやかに感じられるのは、そういうことだったのか、今さらながら思う。
●小指
前の日記にある「あやしい足指」の写真だが、ただ面白がってやっているのではなく、ちゃんと理由があるところがセミナーたる所以である(笑)。
わたしの場合はただ面白がってやるだけである。
手の小指側の重要性は武術・武道をやっている人間なら誰でも知っている。
大きなペットボトル(たぶん1リットル)のキャップがなかなか開けられないという年配の女性がいたが、そういう人はキャップを摘まむ親指、人差し指、中指に力を入れて、薬指、小指は力を抜いている場合が多い。極端な人は小指を立てていたりする。
そうするとキャップを摘まむ三本の指だけでキャップを回そうとする。そこで薬指、小指をキュッと握り込んでキャップを回してみると、三本の指はキャップを掴むためだけに使い、回すのは腕の力を使えるようになる。
このように薬指、小指(特に小指)は腕の動きと関係している。
簡単な実験をしてみよう。
かるく拳を握り、最初は親指、人差し指、中指を強く握り込んで、バンザイをするように腕を振り上げてみる。
次に、薬指と小指をギュッと握りしめ、バンザイをしてみる。
どうだろうか。薬指、小指を握った方が腕が楽に上がったのではないだろうか。
だからこそ剣の握りはこのふたつの指で握るし、拳も小指できちんと締めることが重要だと言われるのだと思う。
話は骨盤おこしセミナーに戻って、中村さんは足の指もきちんと小指が働くと、股関節がよりよく動くという。
●足の指で拳をつくる
まずは足の指を握れるかどうか。
足の指で拳をつくるのは、甲野先生の得意技で、本当に拳になる。そういう意味では中村さんの足でさえ、拳になりかけである。しかし甲野先生のようないろいろと妙な人と比べてもしかたない。
わたしは甲野先生の足を見て練習したので(笑)、握り拳が作れるが、驚いたのはセミナー参加者のほとんどの人が拳になっていたことだ。ふつうに握れるものなのかあ、と思っていたら、これだけ握れる人が多いのは珍しい、とのこと。
ひとつには武道・武術の経験者が多いこと。あとこの日はプロアマ含めてダンスをする人が多かったためかもしれない。
しかし一見握れている足の拳も、中村さんが小指をひょいと挙げると伸びてしまう。握れていると思っていたわたしの小指も、動いてしまう。中村さんの足の拳はしっかり握り込まれていて、小指もビクともしない。
また小指が全然動かず、握った形も作れない人もいた。現代人は足の小指をほとんど使わないので、神経が通い難くなっているからだという。
中村さんによれば、小指の骨が無くなっている人もいるそうで、小指の爪がすごく小さくなっているのも、小指を使わないためなのだそうだ。
そういえば爪は、骨のない指先をしっかり働かせるための支えなのだという話を聞いたことがある。使わない足の小指の爪が退化するのは当然かもしれない。
●中村式下駄の履き方
足の指を鍛える方法として下駄を履くのがいいという。しかしただ履けばいいというわけではなく、履き方がある。
下駄といえば親指、人差し指を浅く鼻緒に入れて摘まむようにして歩くのは常識である。しかしこのことさえ知らない人がいて、草履でも雪駄でも鼻緒に指を深く指し込んで、カラカラ、ペタペタ歩く人が多く、もはや常識とはいえないのかもしれない。
以前から中村さんに鼻緒を摘まんで、ということは聞いていたが、セミナーで実演してみせてくれた「摘まみ方」は想像していたものと違っていた。
このセミナーではびっくりしてばかりだ(笑)。
その下駄の履き方は、鼻緒は親指と人指し指で摘まむのだが、他の指もグッと握り込んで拳を作って履くのであった。
上の写真ではあまり握っているようには見えないが、それは用意した下駄がわたしの下駄で、中村さんには鼻緒がきつかったためである。
わたしにとっても足指全部を握り込んで履くには、もう少しゆるめでもいいくらいである。
つまり中村式だと、下駄に足指の腹ではなく頭を押しつけて歩く形となる。
さらに下駄でのトレーニング法として、二枚歯の前の歯だけで歩くのがいいそうだ。(この場合、高下駄の方が適していると思う)
一本歯の下駄より、二本歯の前の歯だけで歩く方が、骨盤おこしの立場からはよいトレーニングになるのだとのこと。
その理由は、握った足の指の拳頭に当たる部分(MP関節)の真下に前の歯があるためである。
そ の場所できちんと地面を捉えながら歩くと、重心が落ちるべき位置(腹の重さが落ちる位置)がわかるようになるのだそうだ。骨盤おこしでは運動方向が常に前 へ前へと向かうためだろう。これは常に前のめりになっているという意味ではなく、いつでもすぐ動き出せる体勢にあるということである。
まあ考えてみると四足動物ではここがカカトなわけだから、わからないでもない。しかし中村さんは、ここで重さを受けることが大事なのであって、ここで地面を蹴ってはいけないと言っていた。下駄の前の歯だけで歩くと、この受けるだけで蹴らないという感覚がわかるだろう。
●中村式靴の履き方
下駄は歯があるためにそういうトレーニングになるが、草履などの歯がない履物も拳を作って履き、足指の頭が履物に接するようにする。
靴も拳を作り、靴の底に足指の頭が付くようにする。
このとき最も大切なのは、小指の頭がしっかりと履物に接することである。言いかえると、小指をしっかり握って指頭で地面を捉えながら歩くということである。
小指を握り込もうとすれば、他の指も自然に握ることになるので、ともかく小指を意識する。
これは足のアウトエッジで歩くということでもある。
いまの日本人、特に女性は内側に力を入れて歩く人が多く、それが外反拇指や扁平足の原因だと中村さんは言う。そのためスニーカーしか履かないのに外反拇指になる人が増えているらしい。
しっかり指を握ることで足のアーチを作る助けにもなる。
そしてハイヒールもこの足で履くのだと言う。確かに指の頭でギュッとからだを支えるのは良いかもしれない。
足の拳の小指で地面を捉える本当の意味は、そのことによって股関節が動きやすくなるからである。小指が利いてはじめて足は十全に動くのであって、この歩き方で小指を鍛えるわけである。
●しっかり掴めてから離す
セミナー後のよもやま話で、中国武術では足指で地面をしっかり掴むといわれるが、日本の剣術では武蔵をはじめ、足指を浮かせるものがけっこうある、という話が出た。
し かし考えてみると、わらじは指先とカカトをはみ出させて履くものだし、足半などははじめからMP関節の下専用の履物のようなものだ。つまり昔の日本人は足 指でしっかり地面を掴んで歩いていたのだろう。その前提の上で足指をすこし浮かせるという身体操法が、意味あるものとなった可能性がある。
最近甲野先生が、カカトを浮かせる方がより不安定になって早く動ける、と言い出したのだって、しっかりカカトを付ける動きをしてきたからであって、はじめからカカトを上げてみても、ただ安定を求めて動きに制限を加えてしまうことになりかねない。
やはりこうしたもは、質が転換する過程を抜きにして結果だけ手に入れようとすると、痛い目にあうだろうと思うのであった。
良いものがそんなに間単に手に入るはずないのである。