憲法改正して国滅ぶか | ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思ふ 「東京編」

ロンドンで怠惰な生活を送りながら日本を思ふ 「東京編」

ロンドン・東京そしてNYといつの間にかいろんなところを転々とそしてまた東京に。海外なんて全く興味なかったし今もないという予想外の人生でした。今は東京に戻りしばらくお休みしていましたが少しずつ再開してみようかと思ってます。よろしくお願いします

総選挙は想定されていた通りに自・公の圧勝に終わった。投票率も予想通り過去最低のレベルだった。民主党に「一回」任せて大失敗した経験から多くの国民は今の政治に違和感を覚えながらも無投票、もしくはなんとなく自民党に投票したということだと思う。

安倍首相の最優先課題は憲法改正だという。まあ、僕自身、昔から憲法改正すべしと考えてきたし今もその気持ちに変わりはない。

だが、実際に憲法を改正するには今の日本の状態ではかなりの政治的労力が必要だろう。メディア・野党からの批判も高まるはずで、おそらくそのほかの分野での改革を相当程度犠牲にしてやっていかないといけないはずだ。もちろん、連立相手の公明党を納得させるためにも。

そう考えると、おそらく安倍政権が掲げている「第三の矢」=規制緩和や行政改革、そして財政再建のための社会保障の削減(まあ、そもそもやる気はなさそうだが)などはおそらく後回しにされるだろう。いや、メディアや野党、連立相手の公明党の反発をさけるために、そして自民党を支持する利権団体の反発もだが、これらの分野では痛みのある改革のペースはさらに遅くなっていくことが想定される。

まあ、そもそも現状でもほとんど前に進んでないのが実情だが…。

現状の憲法で国民の生活に日本経済に何か重大な支障があっただろうか?もちろん、アメリカからの押し付けの憲法であるからおかしいとの論に僕も異論はない。しかし、戦後50年以上たち、この憲法がアメリカによる日本支配の象徴だとか、押し付け憲法で日本人は独立の精神を失ったなどといわれてもピンとこない人が今や多いのではないだろうか。

憲法9条は問題だが、解釈改憲で集団的自衛権は行使できるようになった。自衛隊はどう見ても軍であるから9条はまやかしだらけだが、実効的に問題が生じているわけではない。これを改正せずとも問題は生じない。

そして、多くの国民が経済状態をなんとかしてほしいと考えている。実際、安倍政権成立以降、日本経済はまったくよくなっていないのが実情だ。下のグラフにあるように日本経済はむしろひどい状態に落ち込んで行っている。



Zero hedge より)



リーマンショック・大震災といろいろあったが、その後の反発は極めて弱いし、世界経済は緩やかに回復を続けているにもかかわらずこの成長しかできていない。実際にはほぼゼロ近傍、そしてマイナスの潜在成長率が低着しつつあると僕は考えている。潜在成長率の低下は財政政策でも金融政策でも押し上げることができないのは経済学の基本だ。

だが、安倍政権は当面はだれの痛みも伴わない金融緩和、そしてバラマキという財政政策に注力するだろう。選挙は勝ったものの、おそらく経済成長は停滞が続くことははっきりしている。安倍政権の責任でないにしても格差の問題は全世界的な問題なので解決することはない。安倍政権の支持率は今後低下することが想定されるので、憲法改正に向けて彼はますます躍起になって金融緩和と財政政策に傾注していくことは容易に想定される。

いつも書いているように金融政策も財政政策も国民の勤労意欲をそぎ、市場機能を通した適切な資源配分をゆがめるために潜在成長率の低下要因であることは言うまでもない。このモルヒネが日本経済をさらにダメにし続けてきたのだ。

安倍政権は株価が政権の経済の通信簿と考えているようだが、アメリカでも成長は2.5%程度と非常に弱弱しい一方で株価の上昇はとどまるところを知らない。バブルという側面もあるだろうが、背景には企業収益がグローバルからもたらされている部分が多くなっていること(たとえばS&P500の企業の売上の1/3は海外からだという)、加えて、GDPを所得面から見たときに労働者の取り分の割合は過去最低レベルな一方で企業収益は過去最高レベルなのだ。GDPの伸びが鈍くても株価が過去最高をどんどん更新する理由がここにある。

だから、株価は必ずしも日本経済の実力と一致しないし、国民の経済政策への信頼度を表してもいない。

少し長くなってしまった…。

憲法を改正してもしなくても日本の状態は大して変わらない。その割には憲法改正には非常な労力がかかる。日本の潜在成長率はゼロ近傍に落ち込んでいるので潜在成長を上げるための政策が必要になっている。だが、憲法改正という難題(仮に自公で2/3の議席をとっていたとしても)に取り組むために、痛みを伴うような改革は労力・支持率維持の観点から先送りされることが想定される。それどころか経済の停滞が続けば支持率維持のための金融政策・財政政策がますます行われ却って日本の潜在成長率は毀損されていく。

こういうところだろう。

もちろん、規制緩和や行政改革だけでなく「財政再建」も先送りされる可能性が高い。

大局観なき、憲法改正優先の政権運営が今後行われていくのだろう。そのことが今回の自民党の大勝でより確定づけられた。憲法改正は政治家にとっては歴史に名を残せるという観点からもやりがいのある課題だろうが、日本という国のことを考えた場合には現状では利益はほとんどな。

その間に日本経済の停滞はまだまだ続く。それだけならいいのだが、アメリカの景気回復も6年が過ぎた。通常の景気サイクルは8年前後だからそろそろ景気後退が見えてきてもおかしくない時期だ。欧州ではドイツ経済が変調をきたし、ユーロ圏全体は停滞したまま。お隣の中国も勢いは全くなくなっている。加えて原油価格下落でアメリカのシェールバブルの崩壊と産油国経済の悪影響も免れなさそうだ。

そうなればますます日本経済は落ち込んでいくだろう。それだけならいいのだが、今の金融政策・財政政策のやり方だと、世界経済が景気後退→日本経済も後退→税収が大幅に減少→日本の財政懸念が発生となりかねないだろう。


経済に興味があるものとしてはこれから何が起きてくるのか怖いもの見たさの楽しさがある。だが、日本人として、日本の将来を憂うものとしては暗い気持ちにしかならない。想定されていたし今の日本人の身の丈に合ったレベルではあるが、そういう選挙結果だったといえるだろう。