2011年の福島原発事故の衝撃をきっかけに、福島県会津地方で設立された会津電力株式会社。ご当地エネルギーの代表格とも言えるこの取組について、当リポートでは何度か取り上げてきました。今回は設立から6年を迎え、太陽光発電だけではなく、念願の小水力発電やバイオマス熱利用などにも広がってきた取り組みについて紹介します。
会津電力の雄国(おぐに)太陽光発電所
会津電力のこれまでの記事はこちら
※なお、会津電力についてはご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」でも詳しく描かれています。こちらの劇場情報もご参照ください。
◆トピックス
・太陽光発電所を80ヶ所まで増設
・小水力発電所を設置して起きた変化
・バイオマスでホテルの暖房と給湯を
・小さな一歩を積み重ねる
◆太陽光発電所を80ヶ所まで増設
現在、東北電力管内では送電網への接続制限がされているため、大型の発電所を増設するのが簡単ではありません。そこで、会津電力は地域の人たちと協力して、小さな設備をコツコツと増やしていきました。
2019年4月現在、グループ会社の設備と合わせた太陽光発電所は合計で80ヶ所、総出力は5,443キロワットにまで増えています。これは、一般家庭の電力としては約1,600軒分に匹敵します。同社は太陽光発電設備を、100ヶ所まで増やしていきたいとしています。
80ヶ所の中でもっとも大きな設備が、以前の記事でも取り上げた雄国(おぐに)地域にあるソーラーパークです。出力はおよそ1,000キロワット(1メガ)あり、環境への影響が少なくなるよう地形を整地せず、なだらかな斜面に合わせてうねるように設置されています。発電所が設置されている丘からは、会津の田園風景と雄大な飯豊連峰(いいでれんぽう)を見渡すことができます。
佐藤彌右衛門さん。2019年5月からは会津電力の会長に就任した。
発電所の少し下の畑では、会津電力を創設した佐藤弥右衛門さんや、この5月に新しく社長に就任した山田純さんらが手がけているぶどう畑もできました。ここで育てられたぶどうを使ってワインをつくる試みも始まっています。
丘の上には、「雄国大学」と名付けられた建物が建っています。この場所では、地域の子どもたちや、全国から来訪する見学者に向けて、会津電力の取り組みを説明しています。
◆小水力発電所を設置して起きた変化
太陽光発電で事業の基盤を固めた会津電力は、設立当初から調査を続けてきたバイオスと小水力発電の利用に取り掛かりました。川の流れをせき止めずに発電する小水力発電は、ダム式の水力発電所に比べて環境負荷が少ない方法です。
しかし、小水力発電は長い間日本で普及してこなかったため、国産の設備がほとんどなく、工事をできる技術者もほとんどいません。また制度が整っていないことや、水利権をはじめとした権利問題など、数々のハードルが課題となっています。
設置のための調査を続ける中で、会津若松市内の土地改良区から、小水力発電所ができる場所を紹介されました。土地改良区とは、農地や農業用水の開発を行う地域の組合のことです。その場所は、発電の規模が小さく収益は見込めませんでした。しかし、会津電力としてまず最初の設備をつくることが必要と考え、開発する決断をします。
会津電力の戸ノ口堰小水力発電所の外観
川から水を取り込む取水口
会津電力の常務、折笠哲也さんは言います。
「太陽光だって、ひとつ成功させたら周囲の認識や事業のスピードが変わりました。水力もまずは1ヶ所つくってみようと。ノウハウも蓄積できるし、実績があるのかないのかではまるで違いますから」
そして、およそ2年かけて苦労の末に会津電力初の小水力発電設備となる、「戸ノ口堰(とのくちぜき)小水力発電所」が完成しました。設備は、2018年末から稼働を始めています。出力は31キロワットと小型ながら、24時間発電を続け、東北電力に売電しています。
折笠さんは、設備ができたことで、すでに変化も現れていると言います。
「結果として、会津地域で初めて大手資本ではない地元企業による小水力発電所になりました。一つできたことで、いままで調査を断られていた団体から許可をもらえるようなるなど、すでに変化が起きています。欧米では小さな小水力発電所でも事業として成り立つ仕組みになっているので、日本でもそうなるような流れをつくっていきたいですね」
発電機本体
◆ バイオマスでホテルの暖房と給湯を
バイオマスでは、市内のビジネスホテル「ガーデンホテル喜多方」に2台のペレットボイラーを設置し、2018年3月より稼働を始めています。
こちらは電気ではなく、以前はガスボイラーを使用していたホテルの暖房と給湯の熱供給を行っています。導入にあたっては、徳島のご当地エネルギー会社である「徳島地域エネルギー」から技術協力を受けました。一台あたりの出力は50キロワット。
仕組みは単純で、まずはペレットをボイラーで燃焼させ、タンク中の水を温めます。温められたお湯は熱交換機を通して、館内に張り巡らされたパイプの水を温めます。それにより、暖房や給湯をまかないます。年間のCO2排出量は、事業所全体でおよそ38%(66トン)減らすことができた計算になります。
2台のペレットボイラーでホテルに熱を供給する
木質ペレットとは、乾燥した木材を粉砕し、圧力をかけて固めた燃料です。薪やチップよりも燃焼効率がよく、自動で投入できるのがメリットです。
現在ここで使用しているペレットは、価格が安いため京都の事業者から購入しています。年間にかかるペレットの燃料費は、以前使っていたガス代とほぼ同じ金額です。
本来は、地域の木材を使いたいところですが、地元の林業が盛んでないことやペレット製造業者がいないため、簡単ではありません。
また、設備の導入費用の半分は補助金を利用しています。単純に自己資金だけで導入した場合は、いまのところ採算は合いません。折笠さんは、これも小水力発電と同じように最初の一歩としての投資と位置づけます。
「もともとホテルがこういう設備を入れる設計になっていないので、ペレットを運んで送る手間にも苦労しています。この規模では採算が取れませんが、温浴施設などある程度大きな施設に入れたり、台数が増えてくれば、採算性も上がります。そのためにも、自治体と一緒になって公共施設への設置を相談しているところです。もちろん、いずれは地元の木材を使いたいと考えています」(折笠さん)
ペレットは自動で送り出される仕組みになっている
◆小さな一歩を積み重ねる
会津電力は、風力発電の建設計画もあります。現在は2021年の秋頃に、3本の風車を稼働させる準備をしています。これまでは、東北電力の送電網の容量に空きがないとされ、風車事業を始めるメドが立ちませんでした。
しかし、福島の原発の廃炉が決まり海岸線沿いの送電網の容量が空いたことで、多数の事業者が風車を設置することになりました。今回の会津電力の風車事業は、そのうちの3本を他の会社と協力して手がけることになります。
会津電力常務の折笠哲也さん(photo:片岡和志)
会津電力の発電所は、グループ企業全体の出力を合わせると、およそ6000キロワット(6メガ)まで増えています。震災後に立ち上がった地域の電力会社が実績を積み重ねたことで、「自分たちにもやれるんだ」と刺激を受け、他の地域でご当地エネルギーを立ち上げる人たちも現れました。折笠さんは、その意義をこう語ります。
「100メガや200メガの発電所を持っている大企業からすると、会津電力の存在はちっぽけなものかもしれません。でも、うちの目標はお金儲けではなく、地域の自立です。そのような意味では、僕らみたいな素人の集団が始めたことでも、現実を変えていけると示せたのではないかと思います。事業としてはまだまだですが、ようやく基盤となる発電所ができてきたので、つくった電気を自分たちで活用するなど、本来やりたかったことにチャレンジできる段階に入ったのかなと考えています」
エネルギー事業を通じて、地域の自立をめざす会津電力。その高い志は、一歩ずつ前進しています。
◆お知らせ:ご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」公開中!自主上映会も募集しています
日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」(渡辺智史監督)の上映はまだまだ続いています。当リポート筆者の高橋真樹は、この映画にアドバイザーとして関わっています。
詳しい場所と日程は映画のホームページの「劇場情報」、またはFacebookよりご確認ください。また、自主上映会も募集中です。ご希望の方は、ホームページよりお問い合わせください。