「2019年問題」で太陽光発電との新しい付き合い方を(後編:vol.124) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回も引き続き、杉本完蔵さん(太陽光発電協会幹事)と高柳良大さん(PV−Net副代表)のお話を元に、2019年問題とどう向き合うべきかについてのポイントをお伝えします。太陽光発電設備は、家庭の小さな設備であっても、地域や国のエネルギー問題に貢献する重要な再生可能エネルギー資源であることに変わりがありません。その設備を有効活用するための新しい付き合い方についても紹介いただきました。

 

前編はこちら

◆  トピックス

・電気自動車は「走る蓄電池」

・災害時に役立つ「自立運転」モード

・自分のめざす暮らしにふさわしいシステムを選ぶ

・「太陽光発電所長」としての自覚を

 

◆電気自動車は「走る蓄電池」

 

前回の記事では、「高額な蓄電池ビジネスにご注意を」という話をしました。とはいえ、蓄電池は何かあった時に便利なことは確かです。出力の小さな蓄電池を導入するという手もありますが、どうしても大きな出力の蓄電池に興味があるという場合は、電気自動車(EV)という候補もあります。

 

価格は、新車であれば200万円以上するので、蓄電池の目的をメインにして購入するのは得策ではありません。しかし、ちょうど自動車を買い替えるタイミングであれば、十分に検討の余地はあります。

 

 

例えば日産リーフは、容量40キロワット時の蓄電池を搭載しています。10kWh前後の家庭用蓄電池でも200万円近くするので、自動車と合わせて買ったと考えると大幅に割安感が出てきます。この容量は、家庭で使用される電力量のおよそ3−4日分にのぼります。普段は自動車として使い、いざ停電が起きた場合には、昼間に太陽光発電から充電して夜にEVの電気を活用することが可能です。

 

注意点としては、EVから家に電気を送るためには、そのためのV2H(Vehicle to Home)という設備が必要です。現在はその設備だけで40万円以上するので、EVを中心とした蓄電システムを検討するなら、その費用も合わせて検討する必要があります。なお中古車であれば、さらにコストパフォーマンスは上がるはずです。

 

◆災害時に役立つ「自立運転」モード

 

なお蓄電池がなくても、停電したときに太陽光発電があれば電気を使うことができます。普段は余った電気は売電されていますが、「自立運転モード」に切り替えると、太陽が出ている昼間の時間帯はパワーコンディショナーなどに設置されているコンセントから、最大1500ワットまでの電気を使用することができます。

 

家庭用パワーコンディショナー

 

実際、2018年に起きた北海道胆振東部地震では、太陽光発電を設置している多くの家庭で自立運転モードが活用され、役に立ちました。震災後、JEPAが会員向けに行ったアンケート調査では、428件のうち85%にあたる364件の家庭で自立運転モードが活用されていました。それにより「冷蔵庫の中の食材を腐らせずに済んだ」「炊飯器でご飯を炊くことができた」「携帯電話を充電することができた。また、近所の方も充電することができた」といった声があげられました。

 

停電時に自立運転に切り替えるスイッチ

 

一方で、「自動で切り替わると思っていた」「コンセントがどこにあるかわからなかった」との理由から活用できなかった方もいました。長めの延長コードが必要となったり、電圧が天気によって不安定になるため繊細な機器には適さないといった課題もあります。

 

このパワコンには、横にコンセント差込口がついているが、機種によっても異なる。

 

機器によってもスイッチやコンセントの位置、操作方法が若干異なるので、災害が起きる前に、どのような方法で自立運転ができるのか一度訓練してみることをオススメします。

 

停電時の自立運転への変更の仕方については、こちらのJEPAのサイトで紹介されているので参考にしてください。

 

◆  自分のめざす暮らしにふさわしいシステムを選ぶ

 

買取価格は10年で下がりますが、太陽光発電パネルは適切にメンテナンスをしていれば20年以上発電し続けるものです。まだ使えるものを最大限有効活用できるように、利用し続けてほしいと思います。

 

注意してほしいのは、パワーコンディショナーの寿命が10年から15年なので、調子が悪くなったら早めに交換する必要が出てくることです。パネルの状態も含めて、毎月の発電電力量のデータを保存して確認する習慣をつけておけば、早めに異常に気づくことができるでしょう。太陽光発電所ネットワーク(PV−Net)では、点検の仕方も含めて、全国の発電所の所有者をサポートする仕組みをつくっています。

 

PV−Netの高柳さんは、「太陽光発電に何を求めるかを考えて選ぶ時代になった」と説明します。「高いお金を払って最新設備を入れるのがエコ、というわけではありません。太陽光発電に求めるものが経済性なのか、環境への貢献なのか、自分のめざす暮らしや考え方にふさわしいシステムを選び、そこに投資してもらえたらと思います」(高柳さん)

 

高柳良大さん(PV−Net副代表)

 

高柳さんによれば、主な方向性は「経済性」「環境性」「安心感」の3つです。経済性を優先して、できるだけ家計の足しにしたいのであれば、1円でも高く買ってもらえる会社を選び、販売するのがオススメです。

 

環境性を優先したいなら、価格優先ではなく、再生可能エネルギーの普及をめざす会社と契約し、取り組みを応援するのがいいでしょう。ただ、ホームページに「再エネ普及をめざす」と書いてあっても、実際には環境を破壊して大規模設備をつくるような会社もあるので、選択の際は実情をよく調べる必要があります。ちなみに、太陽光発電でつくった電気を送電網を通じて地域に流すこと自体、環境価値があるという面もあります。送電網に流した太陽光の電気は近くで消費され、その分だけ地域全体の化石燃料の消費量を抑制することにつながっているからです。

 

そして災害が起きた場合の安心を優先したい場合は、蓄電池や電気自動車などによって自家消費の割合を増やす選択肢もあります。しかしこれについてはこれまで述べたように、必ずしも大型蓄電池がなくてもそれなりの対応はできます。そのため、できるだけ大きな出費につながらないよう、慎重に検討したいところです。

 

 

これら3つの選択肢は、どれかひとつしか選べないわけではありません。自分がどのような暮らしをしたいのかを考えながら、バランスをとって組み合わせるのがよいのではないでしょうか。

 

◆「発電所長」としての自覚を

 

杉本さんは、発電所の所有者は誰もが「太陽光発電所長であるとの自覚を持って、変化する状況に向き合ってほしい」と語ります。「国は、住宅の太陽光発電も主力電源のひとつとして挙げています。そのため、買取が終わる太陽光発電の設置者は、社会インフラを支える電力のプロシューマーとして、重要な役割と責任を担っているのです」

 

杉本完蔵さん(太陽光発電協会幹事)

 

プロシューマーとは、プロデューサー(生産者)コンシューマー(消費者)を合わせた造語で、消費者でありながらつくる側にも関わる人のことを差しています。太陽光発電を所有している人は、これまで自分が「発電所長である」という意識が薄かったかもしれません。でも、何も考えずに単に売電だけしていればいいという時代は終わりました。

 

これからは、自分が太陽光発電を設置している意義を考え、どのように付き合っていくかを積極的に決める時代になったのです。2019年問題は、売電先をどうするかということを考えるだけではなく、もっと本質的に太陽光発電との新しい付き合い方を模索するきっかけにしていくのが良いのではないでしょうか。

 

今回のまとめ

①   蓄電池ではなく、電気自動車という選択肢も検討する

②   災害時に役立つ自立運転モードを試してみる

③   「経済性」「環境性」「安心感」のバランスを取って、自分に最適なシステムを選ぶ

④   太陽光発電所長としての自覚をもつ

 

※  買取満了の説明については、太陽光発電協会(JEPA)のホームページも参考にしてください

※太陽光発電所ネットワーク(PV−Net)のサイトはこちら


◆お知らせ:ご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」公開中!自主上映会も募集しています
 

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