使用済み太陽光パネルをどう活用するか?リサイクルとリユースの最前線から(vol.118) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

前回、太陽光パネルのリサイクル工場を訪れ、廃棄されたパネル処理の現状と課題についてお伝えしました。今回はその工場に、処理業務を委託している「R2ソリューション」統括部長である小野広弥さんから、太陽光パネルのリサイクルとリユースについて踏み込んでお話を伺いました。R2ソリューションは、太陽光パネルのリユース事業を手がけるネクストエナジー社と共同で、中古パネルの調査、販売も行っています。リサイクル、リユースの最前線の現場では何が起きているのでしょうか?

 

自然災害で壊れたパネル。使えるものはリユースに回される(©R2ソリューション)

 

・前回の記事はこちら

制度が阻むリサイクル・太陽光パネル廃棄問題はいま

・ネクストエナジーのリユース事業にいてはこちら

使われなくなった太陽光パネルの使い道は? 3万枚以上の使用済みパネルを再活用! ネクストエナジーの検査工場へ行ってみた!

 

◆トピックス

・リユース市場を広げたい

・ご当地エネルギーやRE100でも

・頻発する自然災害と中古パネルのリユース、リサイクル

・2030年代の大量廃棄問題に対策が間に合うか?

 

◆リユース市場を広げたい

 

高橋:R2ソリューションは、ネクストエナジーと共同で、廃棄パネルを徹底的に検査し、使えるものを中古品として販売しています。以前駒ヶ根の検査工場を取材させていただいた際、一枚一枚ものすごく労力をかけて検査している印象を受けました。なぜそれだけ力を入れているのでしょうか?

 

小野:国はいままでリサイクルありきという方針でしたが、検査したらまだまだ使えるものがたくさんあります。それなのに、わざわざいったん壊して原料に戻して新品としてまた売るのはもったいないし、ものすごくコストがかかってしまいます。私たちの元には、事業を途中でやめたからと5年しか使っていないパネルを大量に引き取って欲しいというリクエストが来ます。そういう使えるものを最後まで使って廃棄量を減らすというのが社会にとって大切だと考えています。

 

小野広弥さん

 

また、私たちには「ちゃんとした中古パネルを市場に出したい」というポリシーがあります。中古パネルの販売をしている事業者の中には、単に使用済みのパネルを右から左に流して売っているだけの会社もあります。見た目だけでは性能の劣化は判断できないので、故障しているものが含まれていることもあります。中古パネルを信頼して使ってもらうことができなければ、日本にリユース市場を広げることはできません。そのために徹底した検査を行っています。

 

高橋:中古パネルの流通は盛んになっているのでしょうか?

 

小野:いえ、まだまだ世の中に知られていません。リユースパネルを普及させる産みの苦しみといった段階です。太陽光パネルメーカーには、「リユースが増えると新品が売れなくなる」と思われてきたので、リユースは日の当たらない存在になってきました。でも自動車業界では、中古市場あるから新車も売れるという関係性ができています。太陽光パネルでも、そういう関係性をつくれるはずです。そのためにも、リユースの重要性を多くの方に知っていただきたいと思います。

 

中古市場があれば、これまでは捨てられていたパネルを活用できます。CO2排出量なども、新品のパネルを使うよりもずっといいことは確かですが、パネルによって年数や仕様が違うので、数字で単純に比較できないのが難しいところです。

 

パネルは検査前に丁寧に洗浄される

 

◆  ご当地エネルギーやRE100でも

 

高橋:ぼくが取材しているような、ご当地エネルギーをやっている会社で中古パネルを使う話は出ているのでしょうか?また、他にも有効に使える方法の提案などはありますか?

 

小野:まずは中古パネルを使って事業をすることを一般的なものにしていきたいと思っています。各地で市民発電所やソーラーシェアリングをやっている人たちとはつながっていて、まずはそれらの事業を中古パネルでできないか相談しているところです。設備工事を自分たちが参加して作っている団体などは、コストも安くなるので使い勝手は良いかと思います。また自治体の事業でも、これからは新品よりも中古パネルを有効活用した方が環境的にも良いのではないでしょうか。

 

最近ではSDGsやRE100が流行していて、企業活動で使うエネルギーの100%を自然エネルギーでまかなうことを目指す会社が増えてきました。私たちのグループ企業であるネクストエナジー社は、自然エネルギーを主体とした新電力事業「GREENaでんき」を始めています。

 

RE100を宣言しているアスクルは、その「GREENaでんき」から電気を調達しています。でも、多くの企業が現状では自然エネルギーでつくられた電気を購入するところでとどまっています。これからは中古パネルを導入して、自分でも発電するという動きが広がってくれば、さらなる協力体制ができるはずです。

 

高橋:中古パネルでもちゃんと検査していれば、10年以上発電は問題なくできるとのことですね。FIT(固定価格買取制度)の認定も受けられるのでしょうか?

 

小野:はい、実際に長野県駒ヶ根市にあるネクストエナジーの本社では、すべて中古パネルを使って出力40キロワットの発電所を自社研修で建設して保有しています。他にもネクストエナジーでは、今年(2018年)駒ヶ根市内で250キロワットの自社発電所を建設しました。もちろん中古パネルでも、型番によってはFITの対象になるので売電が可能です。またFIT制度が終わったあとも、中古パネルによる電力の自家消費モデルが成り立つので、売電だけというわけではありません。

 

高橋:中古パネルが広まれば、自然エネルギー事業もまた新たな可能性が増えそうですね。

 

長野県にあるR2ソリューションの発電所は、すべてがリユースパネルを使用している(©R2ソリューション)

 

◆  自然災害で増える廃棄パネルの行方は?

 

高橋:それでは、リサイクルの現状はいかがでしょうか?工場を訪れた際には、リサイクル技術はあるが、それに対して収集や運搬についての制度が整っていないため事業としては厳しいというお話でした。

 

小野:そうですね、そもそもいまは廃棄パネルの量があまりありません。いま出ているのは自然災害で被害を受けた地域のパネルです。熊本のときは地震だったので、一戸建てが壊れても太陽光パネルは使えるものが多く、リユースに回すことができました。また、北九州には新菱という会社がリサイクル事業を手がけているので、壊れたものはそこで処理をしてもらいました。

 

大変なのが水害で、西日本豪雨ではすごい量の廃棄パネルが出ました。水没してしまうとリユースには使えません。国では処理が追いつかず、私たちが提携している広島のリサイクル事業者を紹介させていただきました。

 

災害時の廃棄パネルを適切に処理する際に、問題点が2つあります。ひとつは制度的な問題です。災害時に壊れたパネルは、大規模な事業用のものなら産業廃棄物に指定され、私たちのような事業者がリサイクルに回すことができます。しかし、家庭用のパネルは自治体の持ち物である一般廃棄物として分類され、容易には処理できなくなってしまいます。最終的には産業廃棄物になるのですが、時間がかかる。

 

一方で被災した現場では、迅速に廃棄物の処理をしたいという事情があります。もたもたしていると埋め立てられてしまうのですが、リサイクルすれば資源になるのでもったいない。私たちはなるべく早くリサイクルに回せる対応をしてもらえるように、環境省に相談しているところです。

 

駒ヶ根の検査工場の前に並べられたリユースパネル(©ネクストエナジー)

 

2つ目の問題は、パネルメーカーが情報開示をしたがらないことです。太陽光パネルには、一部に毒性のある金属が使われているものもあります。廃棄処理やリサイクルを行う際には、その情報を知っていないと迅速で適切な処理ができません。しかし、メーカーの多くは企業秘密として成分の情報開示に消極的です。こちらも、改善してもらうよう環境省やパネルメーカーと話をしています。(参照:前回の記事

 

◆パネルに付加価値を付ける

 

高橋:災害時に限らず、リサイクルの流れをつくる上で困難な点は何でしょうか?

 

小野:多くのメーカーはいままで、「パネルの性能が良くて価格が安ければ、廃棄のことまで考えなくてもいいだろう」という姿勢でやってきました。例えば、業界が違いますが見た目の良さを重視して、プラスチックにいろいろな混ぜ物をすることで、リサイクルがしにくい製品もあります。そういうものは燃やして埋めるしかありませんが、これからはその流れを変えていく必要があります。例えば、某大手化粧品メーカーは、リサイクルしやすいように単一素材に変えてきています。こういうメーカーがもっと評価されるようにしていくべきです。

 

名古屋にあるパネルのリサイクル工場

 

太陽光パネルは、産業廃棄物の中で分類すると「処理困難物」にあたります。長期間屋外で使用するためアルミ枠、ガラス、シート類を強力に接着させて耐久性を持たせています。現在、太陽光パネル市場を席巻しているのは価格の安い中国製で、日本のメーカーがコスト競争で勝つことはできません。だったら、リサイクルできる素材で作って、きちんと廃棄のことまで考えていることを売りにして、少々高い価格でも買ってもらえばいいのではないでしょうか?性能が良ければ、リユース品になっても長く使ってもらうことができるので、その点でも付加価値をつけられるはずです。

 

高橋:名古屋の工場でも伺ったリサイクルについての制度的な壁は、どのようにクリアしていくのでしょうか?

 

小野:ようやく最近になって、経産省や環境省でもリサイクルやリユースを推奨するようになりました。作ったからには、出口のこともきちんと考えるのは当然のことです。おっしゃるようにリサイクルをめぐっては制度的な壁がありますが、自動車や家電のようなリサイクル法ができれば、もっとスムーズに進めることができるようになります。

 

数年以内に、環境省を中心としてリサイクル法をつくってもらえるよう説明を続けていきたいと思います。そしてそれを実現する段階では、どこかがビジネスモデルをつくっていかないといけません。まだリサイクル事業単体で黒字化できるような形になっていませんが、誰かがやらないと国は動いてくれませんから。

 

リユース品でも検査すればまだ何年も使えることは実証済み(©ネクストエナジー)

 

高橋:どうもありがとうございました。お話を伺って気づいたのは、リサイクル法をつくることが大前提ですが、制度さえできればすべて解決するわけでもないということです。これからはメーカーも消費者も、パネルを使った後のことまで考えて生産したり、選んでいくことが大切になってくるはずです。それが結果としてコストも下げ、多くの人にとってエネルギーがもっと身近なものとなる社会を近づけるのではないでしょうか。

 

なお、インタビューさせていただいた小野さん自身は、この後10月末をもってR2ソリューションを退社することになりました。しかし、転職先の企業でも「引き続き太陽光パネルのリユース・リサイクルを推進する予定だとのこと。「将来発生する廃棄パネルの適正処理を、関係各社と連携して構築したいと思っています」とのコメントをいただいています。ご当地エネルギーリポートとしても、パネルの廃棄問題については今後も継続的に取り上げていくつもりです。それではまた!

 

・前回の記事はこちら
制度が阻むリサイクル・太陽光パネル廃棄問題はいま
・ネクストエナジーのリユース事業にいてはこちら

使われなくなった太陽光パネルの使い道は? 3万枚以上の使用済みパネルを再活用! ネクストエナジーの検査工場へ行ってみた!

 

◆お知らせ:映画「おだやかな革命」上映しています!

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」(渡辺智史監督)が今年から全国で公開されています。当リポート筆者の高橋真樹は、この映画のアドバイザーとして関わっています。

詳しい場所と日程は映画のホームページの「劇場情報」、またはFacebookからご確認ください。また、自主上映会も募集中です。ご希望の方は、ホームページよりお問い合わせください。