相次ぐ自然災害などにより、廃棄される太陽光パネルが増えています。太陽光パネルはどのように廃棄され、現場では何が問題となっているのでしょうか?およそ1年半前のリポートでは、北九州にあるリサイクル工場を取材し、リサイクルの技術はあっても制度が追いついていない、という課題を伺いました。
今回は、長年リサイクル事業を手がけてきた「リサイクルテック・ジャパン株式会社」の名古屋工場を訪れ、改めてリサイクル事業の現状や課題などについて伺ってきました。太陽光パネルが大量に廃棄されると予測されるのは、早くても2030年代後半から。まだ時間は残されていますが、それに向けて法律を整えなければ、将来問題になってくる可能性はあります。リサイクル事業で起きていることを現場から考えます。
リサイクルテック・ジャパンの小林直樹さん(左)と横井誠さん
◆トピックス
・パチンコ台から太陽光パネルまで
・求められるパネルメーカーの情報公開
・リサイクルより埋め立て?
◆パチンコ台から太陽光パネルまで
リサイクルテック・ジャパンは、2003年の創業以来、テレビの液晶画面やパチンコ台のリサイクルなどを手がけてきた企業です。太陽光パネルのリサイクル事業を始めたのは、2013年からです。パチンコ台をリサイクルしている企業が、なぜ太陽光パネルのリサイクルを始めたのでしょうか?
太陽光パネルは、大部分がアルミ枠とガラス、その他の金属からできています。テレビやパチンコ台のリサイクル工程でも、このような材料を解体、分別して、リサイクルに回してきました。そのため、太陽光パネルでも解体さえできれば、やることは今までと変わりません。
パネル裏側についているジャンクションボックス
まずは解体工程を見せていただきました。こちらの工場では、最初にパネル裏面に設置してある銅線と、電線などが配置してあるプラスチックの箱(ジャンクションボックス)を手作業で外します。次に、プレス機と人力を使ってアルミ枠を外します。
プレス機でアルミフレームを外す
次に登場するのが、このギザギザの回転ローラーがついている機械です。回転しながらパネルを送り出し、ガラスを細かく砕いて削ぎ落とします。非常にシンプルですが、この工程をなんどか繰り返すことで、シートからガラスがきれいに取り除かれていきました。作業自体は簡単なものですが、この機械は1年間に20種類近くの破砕機を試し、苦労の末に開発されたものです。
ガラガラと音と立ててシートとガラスが分離される
シートからガラスを剥離する方法は他にもいくつかあるのですが、この破砕機を使うと、コストは比較的安く済ませられます。また、いま集まってくる廃棄パネルの多くは、災害などで破損したパネルです。この破砕機は、そうした破損パネルでも問題なく解体分離できるというメリットがあります。
破砕したガラスの破片は、危険がないように角取りがされ、さらにサイズごとにふるいで分別されて、ガラスのリサイクル業者に運ばれます。リサイクル先では、溶かされて再び板状のガラスに生まれ変わります。
ガラスが剥離されたバックシートには、さまざまな金属が含まれています。これを金属のリサイクル業者に持ち込み、有用な金属を回収してもらいます。全体の作業工程は、アルミ枠を外すところから流れ作業で、パネル1枚を解体し終わるまで3〜4分です。
この工程が繰り返されて、ガラスとシートがきれいに分離される
◆求められるパネルメーカーの情報公開
リサイクルテック・ジャパン統括管理部部長の小林直樹さんより、現状を聞きました。この工場は規模が小さく、現在5人で運営しています。1日に処理しているパネルの数は平均で200枚ほど。重さでは1時間に500キロを解体しています。工場の最大処理能力は倍の400枚は可能です。工場がフル稼働できれば収益も上がりますが、現在はそこまでパネルが集まっているわけではありません。
外されたアルミフレームは、すべてリサイクルされる
大変なのは、手作業で行う銅線やジャンクションボックス、アルミ枠などを外す部分です。それ以外は、基本的には機械化されています。現状のリサイクル率は80%〜90%程度。金属を取り除かれたバックシートは、ゴミとして焼却処分されています。ほぼ全てが機械化され、95%の資源をリサイクルできている北九州の工場より割合は低いのですが、コストは割安とのことです。
「うちの工場はまだ発展途上なので、今後はもう少し手作業の部分を減らし、一人でオペレーションが全てできるようにしていきたいと考えています。また、リサイクル率も上げていきたいと考えています。将来的にはバックシートもリサイクルできる可能性はありますが、いまは金属とガラス以外を買い取ってもらうことはできていません」(小林さん)。
砕いたガラスはサイズごとに袋詰される
課題のひとつは、パネルの製造メーカーの多くがリサイクルに協力的ではないことです。発電するセルの部分は、さまざまな金属が混ざっています。特に、20年近く前に製造されたパネルの中には、鉛やカドミウムなど有毒物質が混ざっているものもあり、場合により産業廃棄物部として処理しなければなりません。
しかし、どのパネルにどんな金属が使われているかをメーカーに問い合わせても、多くの場合は企業秘密として情報を開示してもらえません。現在は、リサイクルテック・ジャパンが自ら測定業者に依頼して成分を調べていますが、それを続けていてはコストがかさんでしまいます。事業として自立していくためには、コスト圧縮が不可欠です。国の制度として、メーカーに情報公開を義務づける必要がありそうです。
細かく砕かれたガラスは砂のよう
◆ リサイクルより埋め立て?
長年に渡ってリサイクル事業を手がけてきたリサイクルテック・ジャパンですが、太陽光パネルの事業ではまだ収益があがっていません。そこには、リサイクルについての制度が未整備のままという問題があります。情報公開の問題に加え、リサイクル事業者の負担になっているのは回収と運搬にかかわるシステムの問題です。
たとえば、パチンコ台の場合はルールが設定され、処分する際も「廃棄物」ではなく「一般貨物」として扱われるようになっています。「廃棄物」の場合は県境をまたぐのが難しく、コストも多めにかかりますが、「一般貨物」の場合は広域認定されることでどの県に行ってもコストがかかりません。
ところが現状では廃棄パネルは「廃棄物」として扱われるので、移動するたびにコストが余分にかかってしまいます。リサイクルテック・ジャパンは、工場がある愛知県をはじめ、岐阜、三重、長野の中部四県については移動許可を得ています。しかしそれ以外の県から運ぶ場合には、やはり輸送費用がかかることになり、依頼主に負担してもらわなければなりません。
現在、「パネルを引き取って欲しい」と連絡が来るケースとしては、災害時のほか、新品を納品する際に余ってしまったということもあります。依頼主が遠方の場合、輸送コストと地元で埋め立てるコストを比較して、埋め立ての方が安いとなれば、そちらを選んでしまうことも少なくありません。
リサイクルテック・ジャパンへの問い合わせ自体は年々増加していますが、この輸送コストがネックとなり、リサイクルやリユースに回されないパネルも多数あるとのこと。
ガラスがきれいに取り除かれたバックシート
小林さんは、これから廃棄パネルが増えても制度がこのままであれば、リサイクル技術はあるのに、埋め立て処分が増えてしまうのではないかと懸念しています。逆に言えば、国が自動車や家電など他の分野と同じように、太陽光パネルについてもルールづくりを整備すれば、十分に対応が可能だということになります。小林さんは言います。
「太陽光パネルはクリーンなイメージで社会に増えてきましたが、出口の部分の問題にスポットが当たっていません。設置業者もどう廃棄するのかほとんど知らない現状は、さすがにまずいと思います。製造から廃棄まで、トータルでクリーンと言えるような仕組みをつくっていく必要があるはずです。私たちが、そこで貢献できるようであればありがたいと思います。ただ、私たちだけではどうしようもない面があります。国には早急に制度的な枠組みをつくって欲しいですね」。
太陽光パネルの廃棄処分の問題については、2017年9月に総務省が是正勧告を出してから、少しずつではありますが動き始めています。本当に持続可能な社会を作るために、今後もこの問題に注目していきたいと思います。
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