RE100に加盟!脱炭素をめざすリコーの環境拠点へ(vol.119) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる「RE100」という枠組みが、国際的に広がっています。RE100とは、「Renewable Energy 100%」の頭文字をとって命名されています。

 

2017年4月、日本企業として初めてRE100に加盟した会社が、大手複写機メーカーのリコーです。11月15日に行われたエネ経会議の視察ツアーでは、リコーの環境事業の拠点となっている環境事業開発センターを訪問しました。ツアーに同行し、環境への取り組みについて伺いました。

 

リコーの環境事業開発センター(©リコー)

 

◆トピックス 

・遊休地を環境事業の拠点として再生 

・OA機のリユース・リサイクルを推進 

・冷暖房はバイオマスボイラーで

 ・配管で発電するマイクロ水力発電 

・課題は電力消費が大きい工場の対策 

 

◆遊休地を環境事業の拠点として再生

 

 富士山の裾野にあるこの環境事業開発センターは、1985年に設立されて以来、複写機やプリンターを生産するメイン工場として活用されてきました。しかし、生産拠点の海外移転の流れの中でコストが見合わなくなり、2013年には生産が終了。それから2年間閉鎖されました。

 

 この遊休地を活用する話が持ち上がったのは、2015年です。リコー創業から80周年の記念事業として、この工場を有効活用して環境関連事業の拠点にしていこうという構想でした。そして1年の準備期間を経て、2016年4月から「環境事業開発センター」として運営を再開。

 

このセンターで手がけてうまくいったことを、他の生産拠点に広げていくことにしました。現在は850名の人員がここで働いており、より持続可能な社会に貢献することを掲げて、OA機器の再生をはじめ大学や自治体とも提携しながら研究開発を行っています。 

 

複合機のリユース・リサイクルの流れの展示

 

センターの建物で使用するエネルギーの省エネ化は、2017年から順次進められています。全館の照明をLED化するとともに、一部には、人感センサーや温湿度センサーを設置して、必要な電気だけが点灯するようになっています。また、空調の効率も大幅に改善されました。また今後は、建物そのものの断熱化についても、二重サッシ(内窓)の設置、窓ガラスへのフィルム貼り付け、断熱塗料を塗るなどといった対策も検討しているとのことです。

 

 ◆OA機のリユース・リサイクルを推進

 

 このセンターの主な事業は、コピー機やプリンターなどOA機器のリユース・リサイクル事業です。リユースやリサイクル事業は、かつて全国12ヶ所の工場に分散していましたが、現在はほとんどがこのセンターに集約されています。

 

オフィスで使われるOA機器は、回収されると機器の状態によっていくつかのカテゴリーに分類され、状態の良いものから優先的にリユース品として生まれ変わっていきます。完成したリユース品は、見た目では新品と変わらないくらいきれいになっていました。

 

コピー機の状態に合わせて搬送ロボットが自動で分別

 

センター内では、回収された機器の状態ごとに並べられ、天井のWEBカメラで確認して、搬送用ロボットが自動で次の作業工程に運んでいました。ここでOA機器は、数千もの部品に分解・点検されて、使える部品は修理を加えてリユース品として再び組み立てられます。 

 

分解、修繕、組み立てなどの作業はほとんどが手作業で行われています。中には、とても細かい基盤の整備なども含まれていて、熟練工の業が求められていました。中でも新品で製造すると費用が高かったり、重量が大きい部品は、特に優先してリユースに回されます。それにより、環境面や経済面でのメリットを生み出しています。 

 

新品のように生まれ変わった再生品。リサイクルの前に、環境負荷の低いリユースを手がけることは重要だ。

 

なおトナーの汚れをとるために、従来は洗浄液を使用していましたが、廃液処理には大きな環境負荷がかかっていました。そこで、液体を使わない乾式の洗浄方法を開発。現在は、プラスチックの粒をぶつけて洗浄する方法で、廃液処理が不要になりました。 

 

◆冷暖房はバイオマスボイラーで

 

 センターでは、施設の冷暖房にバイオマスボイラーの熱を活用しています。日本製のバイオマスボイラー2台は、2016年12月に導入されたものです。木質燃料は、地元の御殿場市と連携して、箱根山系の間伐材をチップにしたものを燃やしています。その熱で温水(夏は冷水)をつくり、パイプを通して暖かい空気を工場内に送っています。

 

 出力200キロワットと500キロワットの2台のバイオマスボイラーの導入費用は、建物や導管などを含めておよそ2億2000万円がかかりましたが、そのうち設備費用の3分の2は国からの補助金でまかなったため、リコーの自己負担は軽減できました。

 

通常の補助金は設備の3分の1ですが、この施設は地元の御殿場市と木質利用について連携していることが評価され、補助率がアップしました。設備の燃焼効率は高く、含水率の比較的高い木材でも完全燃焼させられるため、燃やした後には灰はほとんど残りません。

 

冷暖房をまかなう2台のバイオマスボイラー

 

 センターでは、このボイラーによって年間の冷暖房の約4割をまかなっており、光熱費の削減額は年間で470万円ほどになりました。光熱費削減額だけで見てしまうと採算を合わせるのは簡単ではありませんが、地域の山の整備やCO2削減量といった環境価値も合わせて考えると、設備の価値は高まります。

 

 設備効率だけを考えたら、24時間稼働させ続けるのが理想的です。しかし、このセンターはリユースとリサイクルのみを扱いそこまで稼働させる必要がありません。昼間だけで業務が終わってしまうので、夜の間は機械を止めなければなりません。OA機器の新規製造工場などでは、3交代制で24時間稼働しているところもあり、そのような場所ではさらに効率的な運用ができるはずです。

 

温水や冷水はこの断熱性の高いパイプを通して運ばれる

 

 バイオマス利用の課題は、山の管理をしながら木質チップの供給とバイオマスの需要とのバランスを長期的にとっていくことです。御殿場市ではチップ供給のルートが確立されてきましたが、チップの需要はまだ限られています。

 

そこで御殿場市は市内の温浴施設などにもバイオマスボイラーを導入して、チップの需要を増やそうと考えています。 またリコーは、このバイオマスボイラーを御殿場モデルとして構築して全国に展開していこうと考えています。 

 

◆配管で発電するマイクロ水力発電

 

 実用化に向けて実証実験中のプロジェクトも紹介いただきました。ひとつは、従来は使われてこなかった小さな農業用水路や、工場の配管に流れる水の力を活用したマイクロ水力発電機です。小さな水路での発電は、これまでは落ち葉などが詰まりの原因となり実用化が困難でしたが、名古屋大学と連携してプロペラを樹脂製にして軽くしたことや、プロペラの中をくり抜いた「中空プロペラ」といった新しい形状の開発によって、課題がクリアされつつあります。

 

さまざまな形にくり抜かれた中空プロペラ。実証実験の中で、どの形が効率よく発電できるかを確認する。

 

実用化されれば、その電力を農家の電気柵に使用したり、このセンター内の無人車の充電に活用することになっています。 もうひとつは、室内の光でも発電できる高効率の太陽電池(室内光環境発電素子)です。従来から電卓などではこのような電池が使われていましたが、リコーが開発した製品は、これまでのものよりも2倍の発電効率があります。エネルギー効率改善への取り組みが、新しいビジネスにつながっています。 

 

◆課題は電力消費が大きい工場の対策

 

 RE100に加盟しているリコーでは、事業で使うエネルギーによる温室効果ガスの排出を2030年までに30%削減、そして2050年にはゼロにすることを目指しています。今回見せてもらったように、御殿場にあるこのセンターでは創エネや省エネについてさまざまなチャレンジを実施しています。そこでの成功事例も、うまくいかなかったことも含めて知見を積み重ね、他の拠点に広げていくとのことでした。

 

修繕や洗浄はすべて手作業で行われる

 

工場には、その日に再生された機器の数、CO2削減量、資源回収料などが表示される

 

 ツアーに同行したエネ経会議の鈴木悌介代表は、このように振り返りました。「リコーさんの消費しているエネルギー量全体からすると、この工場で使う電力は少ないので、まだまだ課題が多いとお聞きしました。それでもリコーさんのような大企業が、低炭素ではなく脱炭素に向けて大きく舵を切っていることがよくわかりました。私たち中小企業としても、このような動きを応援したり連携していくことで、日本社会を変えるきっかけをつくりたいという思いを新たにしました」。

 

 このセンターでは、リユース品の修繕、組み立て作業が主体ということもあって、それほど多くのエネルギーが使われているわけではありません。全社でRE100を実現する上で課題となるのは、トナー部品を生産している沼津工場で莫大なエネルギーを使っているので、そのエネルギーをどのようにまかなうかということでした。 

 

また、御殿場のセンターでリユースされている台数は、全工場で生産される新品のおよそ10分の1程度と、全体からするとその量はまだ限られたものとなっています。その量を増やしていくことも今後の大きなチャレンジなるでしょう。 それでも、2016年にこのセンターを立ち上げてから急速に環境への取り組みを本格化させているリコーが、RE100の実現に向けて試行錯誤を進めている姿勢を感じることができました。

 

このような地道な行動が、日本の社会全体の環境への取り組みを牽引することになるのではないかと思います。持続可能な社会の実現に向けて今後どのような展開をしていくのか、注目していきたいと思います。

 

センターの入口には御殿場に生息する月輪熊をかたどった「ウェルカムベアー」。使用済みLANケーブルでつくられている。

 

◆お知らせ:ご当地エネルギーの映画「おだやかな革命」を上映中!

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」(渡辺智史監督)が今年から全国で公開されています。当リポート筆者の高橋真樹は、この映画にアドバイザーとして関わっています。

詳しい場所と日程は映画のホームページの「劇場情報」、またはFacebookよりご確認ください。また、自主上映会も募集中です。ご希望の方は、ホームページよりお問い合わせください。