暑くて寒い日本の家なんとかしたい ― 断熱先生・竹内昌義さん(前編/vol.113) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

前回の記事で紹介した「断熱DIYワークショップ」の生みの親である、竹内昌義さんにお話を伺ってきました。竹内さんは、建築家ユニット「みかんぐみ」の主宰者として、省エネで快適なエコハウスを手がけてきました。そして新築だけではなく、それぞれの環境や予算に応じて省エネで快適な暮らしを実践できるようにと、DIYによる断熱改修を実践されています。

 

現在は、「エネルギーまちづくり社」という会社も立ち上げ、参加型で家をリノベーションする事業も始めています。省エネ型の社会を作る上で欠かせない、住宅の断熱の重要性とそこに家主自身が参加してつくる意義について伺いました。

 

「断熱先生」こと竹内昌義さん

 

◆本日のトピックス

・震災後も暖かかった山形エコハウス

・中古住宅の「暑い」「寒い」を解消したい

 

◆3・11の震災後も暖かかった山形エコハウス

Q: 断熱性能を重視したエコハウスの建築はいつごろから手がけているのでしょうか?

 

ヨーロッパなどで、外がマイナスの寒さでも、エネルギーをあまり使わず室内が暖かい家があることは知っていました。とは言え、頭で理解していただけで、いまひとつイメージができていませんでした。従来の日本の家との違いを体感したのは、2008年に知り合いの住むエコハウスを見学させてもらったことです。冬でも寒くないので、いいなと感じました。そして2009年に、僕が教えている東北芸術工科大学が主体となって、環境省事業でエコハウスを建てることになりました。その設計を僕がすることになったんです。

 

そのときつくった「山形エコハウス」は、天井に40センチ、壁に30センチの断熱材を入れて、窓はトリプルガラスにしました。自然エネルギー設備は、屋根に太陽光発電と太陽熱温水器、地下にペレットボイラーを設置しました。

 

そこでペレットを燃やし、暖房と給湯をまかないます。でも実は、そこまで自然エネルギーを使わなくても、断熱効果が高いので、適温になるのです。実際、東日本大震災のときに、この地域は2日間停電して暖房設備が動きませんでしたが、室内は平均18度を保ち続けました。春先の山形はとても寒いのに、室温が下がらなかったことは大きな自信になりました。

 

山形エコハウスの経験をもとに竹内さんが設計した高断熱高気密の一般住宅

 

この経験からも、それまで自分がつくってきた家とは全然違うなと実感しました。以前は家のエネルギーまでコントロールできるなんて思ってもみませんでしたが、「やればできるんだ」と思いました。断熱と気密がしっかりしていれば、設備機械に頼らず日射や通風を工夫するだけで、快適な空間がつくれます。それはどう考えても住む人のメリットと言えるんです。

 

◆中古住宅の「暑い」「寒い」を解消したい

Q:中古住宅を断熱することは、なぜ大事なのでしょうか?

 

山形エコハウスはいわゆる補助金でつくった家で、結構なお金がかかっています。もちろん一般の住宅ならもっとコストダウンできますが、それにしても新築しかできなければ「お金持ちしか省エネできない社会」になってしまいます。そこで、新築のエコハウス建設と同時並行で、断熱リノベーションを手がけるようになりました。

 

日本の中古住宅は、39%が無断熱です。そして「昭和55年基準」というほぼ無断熱に近いものが37%あります。合わせると、日本の既存住宅の80%近くはほとんど断熱がされていません。そういう家は、年間の暖房負荷でドイツの家と比較すると、10倍も浪費しています。これから新築住宅の断熱性能があがっていくとしても、これら中古住宅をなんとかしないと、日本のエネルギー問題は改善されません。

 

寒い家を建て替えたいと考える人も多いのですが、ぜんぶ新築に置き換えるのはお金もかかるし、資源やエネルギーも無駄になる。それを解消するためには、リフォームに合わせて、断熱工事をすることです。

 

断熱DIYワークショップでは、竹内さんから理論も学べるので好評だ

 

◆断熱DIYの広がり

Q:断熱DIYワークショップはいつ頃始まり、どんなところで行われてきたのでしょうか?

 

住宅業界では、新築の断熱のレベルが上がってきています。でも僕は、トップレベルをさらに上げるよりも、無断熱の家を少しでも改善していく努力をしたいと思いました。なにしろ、80%の既存住宅が断熱されていないわけですから。DIYだから、プロのやる工事のようなレベルではできないと思います。それでも今より暖かくなれば、何もしないより全然いい。

 

2015年冬に、戸建ての六畳一間の一室だけを実験的にセルフリノベーションするワークショップをやりました。4日間かけて、畳の下に断熱材を入れ、壁の中には毛糸とか、いらなくなったダウンジャケットを詰め込み、その上に気密シートを貼りました。即席でしたが、部屋はすごく暖かくなりました。

 

ワークショップでは自ら指導する

 

現在は、グリーンズ主催のワークショップの他、千葉県南房総市のグループが主催しています。また、岩手県紫波町では自治体と共同でエコハウスを作っているので、その関連でワークショップを行うこともあります。南房総市のグループは、主要メンバーの家をどんどん断熱仕様に改修しています。その他では、北九州(福岡)、逗子(神奈川)、熱海(静岡)などで開催してきました。僕が知らない間に盛り上がって、どんどん広がっているような部分もありますね。これは、楽しみながらできるからだと思います。

 

※後編では、竹内さんのご自宅を断熱リフォームした話やまちづくりにも広げていこうという構想について語っていただきます。

 

竹内昌義さんへのインタビュー後編はこちら!

 

断熱DIYワークショップの様子はこちら!

 

◆お知らせ:映画「おだやかな革命」上映情報!

 

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画「おだやかな革命」が全国で公開中です。(当リポート筆者の高橋真樹は、この映画のアドバイザーとして関わっています)

 

詳しい場所と日程は映画のホームページから上映情報をクリックしてご確認ください。