寒い中古住宅を暖かく!断熱DIYワークショップ@逗子(vol.112) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

ご当地エネルギ−リポートでは、住宅やオフィスなどの断熱の重要性について伝えてきました。上手に断熱することで、省エネはもちろん、経済や健康にもいい影響を及ぼすためです。今回はその実践編として、一般の人が自分で家の断熱をDIY(Do It Yourself)で手がける参加型の取り組みを紹介します。ちなみに今回は工程の説明があるので写真が多めになっています。

 

 

「高断熱高気密の家」や「断熱リフォーム」というと、どうしてもお金がかかるイメージがあります。しかし、中古住宅をリノベーションしながら断熱について学んでいくこのワークショップでは、できるだけお金をかけずに効果的な改修をしています。

 

すでに事業化も始まっているというこの「断熱DIY」がどういうものなのか、WEBメディア「グリーンズ」が主催したワークショップを取材してきました。さらに、リノベーション後の家主の感想もお聞きしています。

 

※グリーンズの断熱DIYワークショップは、2018年4月までに7回開催。のべ80人が参加しています。なお、筆者が取材したワークショップが実施されたのは2017年2月です。

 

◆  トピックス

・  大工さんの自宅をリノベーション

・  窓・壁・床で寒さをシャットアウト!

・  断熱工事の効果は?

・  参加型家づくりの体験を広める

 

◆大工さんの自宅をリノベーション

 

断熱DIYワークショップは、プロの大工さんのアドバイスのもと、一般の人たちが自身が断熱改修にチャレンジするというものです。とはいえぼくは「一般の人がどこまでできるんだろう?」と思いながら、取材にでかけました。

 

ワークショップが行われた住宅

 

断熱DIYワークショップは、これまで神奈川や千葉、東北など各地で行われてきました。この日ぼくが訪れたのは、神奈川県逗子市にある中田さんのお宅です。築45年になる家は、冬は非常に寒くて、暖房しても室内が9度までしかあがらない場所もあったと言います。

 

この日集まった参加者は12人。大工仕事はまったく初めての女性から、愛用の道具を持参してきたDIY慣れした男性までさまざまです。朝の準備体操をすませると、さっそく作業工程がさくさくと説明されました。

 

家主の中田さんご夫妻は、お二人とも家の建築に携わる仕事をしています。普段から参加型の家づくりを手がけており、一般の方にはよく指導しているとのことでした(詳しくは最後の項目で説明しています)。今回は、自宅をDIYでリノベーションする際の断熱の部分を、ワークショップの場として提供した形になります。

 

当日は中田さんご夫婦の他にもうひとり大工さんが入り、合計3人の家づくりのプロが講師となりました。床や壁など結構大きな面積をDIYするので、大工さんが使う丸ノコなど、大きな刃物も使用します。ケガなどのないよう、道具の使い方もしっかり教わります。使う道具などを見ていると、ぼくが事前に思っていたより、結構本格的な大工仕事だなという印象を受けました。

 

 

一般的に家の断熱は、冬の寒さを暖かくするイメージですが、夏の暑さ対策にも大きな効果を発揮します。今回、参加者が手がけるのは窓と壁、そして床の3ヶ所です。参加メンバーを3グループに分けて、それぞれプロが一人ずつ入って作業を教えます。そして作業をある程度を進めたら、他のグループと作業を入れ替え、最終的には全員が3種類の作業を体験できるようにしていました。

 

◆窓・壁・床で寒さをシャットアウト! 

 

寒々としていたフローリングの床。床下は空洞で断熱材はまったく入っていない。

 

それぞれの作業を簡単に説明します。床は通常の断熱改修の工事では、床下に断熱材を入れるのが一般的です。しかし自分たちでやる場合は潜り込むのが大変なので、既存の床の上に断熱材を置き、その上から新しい床を貼ります。

 

丸ノコを使って角材をサイズに合わせてカットする

 

角材を床に留めていく

 

さらに断熱材と新しい床の間に、簡易式の床暖房も設置しました。この日の作業では、いまある床の上に等間隔で角材を設置、その間にスタイロフォームという発泡ウレタンでできた断熱材(厚さ30ミリ)を敷いていきました。さらにその上にベニヤを貼り、床暖房を入れる準備まで行いました。

 

角材の間に断熱材(スタイロフォーム)を貼る

 

その上からベニヤを貼る。この日の作業はここまで。

 

壁も同じように、今までの壁はそのままにして、スタッドボードという断熱材(厚さ50ミリ)を貼る作業を行いました。すべての壁に貼ると室内が狭くなってしまうので、特に寒さが厳しい北側だけ行いました。もともとの壁に木が打ってあるところを見つけて土台となる角材を固定し、その上からスタッドボードを貼るのですが、50ミリとなると厚みもあり、参加者も作業に苦戦していました。

 

北側の壁にスタッドボードを貼る。

 

そして驚いたのが窓の改修です。この日は和室にある障子窓の断熱を行いました。まずは障子紙をすべて取り除きます。そして木枠のサイズに合わせてポリカーボネイト板(プラスチック製)を切り抜き、枠にはめ込みます。さらにポリカーボネイト板の上に細い木枠をネジ止めます。

 

障子紙が取り除かれた状態

 

最後にポリカーボネイト板の前後に新たな障子紙を貼ります。これで、障子→ポリカーボネイト→障子という順番で3つの層が並ぶことになり、障子1枚に比べて飛躍的に暖かくなります。断熱効果もさることながら、障子の雰囲気を壊さない見せ方が斬新だなと感じました。

 

ポリカーボネイトをサイズに合わせてカットする

 

参加者は、当初は器具の使い方などおっかなびっくりでしたが、基本的には同じ作業の繰り返しなので次第に慣れていきました。仲間と一緒に楽しみながら、進めることができたようです。作業はこの日だけでは完成しませんでしたが、なにしろ家主が家づくりのプロなので、仕事の合間に手がけるとのことでした。

 

細い木枠をネジで留めていく。木が折れやすいので細心の注意が必要。

 

この日のワークショップに参加した塚越都さんは、築50年になる実家をリフォームできればと思い応募したといいます。

 

「実家がすごく寒くてなんとかしたいと思っていました。でも本格的なDIYをやったことがなかったので、これが良いきっかけになりそうです。また、断熱の考え方について講義もしていただいたので、体験を通して学ぶこともできました」。

 

◆断熱工事の効果は?

 

後日、改修が終わったお宅を再び拝見させてもらいました。奥さんの中田理恵さんは、実はワークショップ中は出産を控えており、その後生まれた娘さんと一緒に対応いただきました。

 

中田理恵さんと娘さん

 

中田さんがこの住宅を買ったのは、ワークショップを行う約1年前。当初は何もリフォームせずに住んだものの、冬は寒く、夏は暑くて耐えられませんでした。しかし本格的な工事はお金もかかり、出産も控えていたためできるだけ出費は控えたいという状況でした。そこで、意匠や間取りのリフォームと合わせて、自分たちでできる範囲の断熱をしようということになりました。

 

「将来的には建て替えも検討しています。でもしばらくはお金がかかるので、まずは中古住宅を手に入れ、簡易なリフォームで快適にすごす工夫をすることにしました」(中田理恵さん)。

 

リフォーム後の床。断熱材と床暖房の効果で暖かくなった。

 

リフォーム後の断熱効果ですが、夏も冬も、家の過ごしやすさは大きく変わったとのこと。いずれもエアコンの効きが以前よりはるかに良くなったので、快適になりました。特に冬は床下にまったく断熱材がなかったので、冷気が足元からたえず上がってきていました。それがなくなっのは大きな変化です。壁も、当初は北側が寒すぎてつらかったのですが、それもなくなりました。

 

スタッドボードを入れた壁。厚みは出たが、窓際も快適になった。

 

床や壁の内側に断熱材を入れたため、室内の空間は狭くなっています。しかし、窓付近や壁の近くの寒さが和らいだことで、有効に使える空間はむしろ増えました。

 

窓については、ワークショップでは障子の部分を改修しましたが、リビングの普通のアルミサッシには手を入れずそのまま使っています。その代わり、断熱効果のあるハニカムブラインドを購入して、室内側に備え付けました。ハニカムブラインドは、ブラインドの間に六角形の空気層が入っているもので、断熱効果があります。窓の断熱としては内窓を設置する方が効果は高いのですが、ブラインドのほうが安いので、手軽に設置できるメリットがあります。また、さらに、ワークショップでは手がけなかった天井も、断熱材のグラスウールを入れて断熱しました。いずれも暑さ寒さともに効果のある方法です。

 

アルミサッシにはハニカムブラインドを設置した。

 

◆ 参加型家づくりの体験を広める

 

最後に、家主であり、ワークショップの先生でもあった中田さんご夫妻の仕事について少し紹介します。ご夫妻は「中田製作所」という会社を設立、今回お話を伺った理恵さんは主に企画から設計までを手がけ、祐一さんは設計から施工までを手がけるという役割分担をしています。さらに中田製作所では、他の4つの工務店と共同で、「ハンディハウスプロジェクト」も実施しています。

 

庭にもウッドデッキをつけるなどきれいにリフォームした。

 

「妄想から打ち上げまで」をキャッチフレーズにしたこの事業は、家主の「あんな家にしたい」という要望の段階から、実際のリノベーション作業まで、お客さんと一緒に参加型で家をつくるというものです。その取り組みの中で、寒い家を断熱することは欠かせないもの、と考えるようになったとのこと。

 

「私たちは、建物を売っているのではなく、家をつくるという体験や過程を育んでいます。リノベーションする場合、普通の人は業者さんに依頼して、完成した家だけを見ることになるはずです。でも家ができあがっていく過程に自分が関わっていたら、見えてくるものがぜんぜん違うのではないでしょうか。昔の人は、当たり前のように自分の家を自分で直していました。そんなふうに、自分が過ごす住まいを、もっと自分たちの暮らしに近づけられるようになれば良いと思うんです」(中田理恵さん)。

 

和室と断熱障子。雰囲気を残しつつ夏も冬も快適に。

 

自分が住む家の一部を自分が参加してつくれるなら、その家に対する思い入れはまったく違ったものになるはずです。ワークショップなどを通じて、DIYの面白さややりがいに目覚めた人たちは確実に増えています。今後、中田さんたちの取り組みに共感する人たちの輪は、ますます広がっていくことでしょう。もちろん、その過程で断熱の重要性についても認識されていくと思います。

 

今回はここまでですが、次回はこの断熱DIYワークショップの生みの親である建築家の竹内昌義さんのインタビューをお届けします。お楽しみに!

 

◆お知らせ:映画「おだやかな革命」上映情報!

 

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画

「おだやかな革命」が全国で公開中です。(筆者の高橋真樹は、この映画のアドバイザーとして関わっています)2月に始まったポレポレ東中野での上映は、5月11日に終了しましたが、これからまた改めて東京、埼玉、神奈川、千葉など首都圏をはじめ、各地の映画館での上映も始まります。

 

詳しい場所と日程は映画のホームページから上映情報をクリックしてご確認ください。