どうする?急増するメガソーラーのトラブル/ISEP山下紀明さん(前編:vol.108) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

2017年も残りわずかですね。今年も一年、大変お世話になりました。自然エネルギーをめぐる状況も刻々と変化しています。残念ながら、再エネによる問題事例も増えていますが、年末年始にかけて、そのあたりを掘り下げて考えていきます。

 

日本各地で大規模な太陽光発電事業などの開発をめぐり、トラブルが相次いでいます。ISEP(環境エネルギー政策研究所)の山下紀明さんは、そのような問題になった事例を調査し、自然エネルギーの設備の設置が適切な形ですすむよう、国や自治体、事業者に提言を行っています。開発をめぐってトラブルが起きる背景には何があるのでしょうか。また、欧米の事例を参考に自治体はどのような対策をすればよいのでしょうか?前後編に分けてお伝えする1回目は、乱開発の実態とFIT制度の課題についてお伝えします。

 

◆トピックス

・外部の事業者による乱開発か?

・地元の反対で撤退した事業も

・FIT制度がもたらしたずさんな開発は、今後減っていく?

 

ISEPの山下紀明さん

 

◆ 外部の事業者による乱開発か? 

 

高橋:さまざまな規模のトラブル事例を調査されていますが、どのような事業者に多いのでしょうか?

 

山下:よくイメージされるのは、地域外から来た事業者が乱開発をするというものですが、開発をめぐるトラブルという点では必ずしも当てはまりません。私たちの調べた50件のトラブル事例のうち、15件くらいは地元の土建会社がずさんにやっていました。もちろん、外部の受注を受けて地元業者が工事をしているケースもあるので、はっきりと分けられるものでもありません。「ご当地エネルギー」の取り組みのように、地域密着型でなおかつ公益的な意識でやっている所が増えればよいのですが、まだまだ少数派というのが現状です。

 

傾向としては、地元業者の中でもともと再エネを手がけてきた事業者がもめるケースは少なくて、ここ数年でできたベンチャー企業とか、異業種からの参入者が強引な開発をすることが多い。長年やってきた所はどういう点を抑えるとうまくできるか、ということがわかっているのですが、新規参入だとそれがないからでしょう。山を切り開いて、その土砂で沢を埋めるような工事をしているのは、たいていこういう事業者です。そうなると土砂が流出して、雨のときに増水が心配だという声があがります。 

 

50件のうち、もめていても半分くらいはそのまま事業が進んでいます。つまり反対者の懸念を反映していない事業です。残りの半分は、中止になったケースと、反対している人たちの納得する形で粘り強く交渉や措置をしたケースになります。

山の斜面に設置されたずさんな事業

 

◆地元の反対で撤退した事業も

 

高橋:撤退したケースと交渉の末、懸念点を対処しながら進めているケースには、どのようなものがありますか?

 

撤退した事業で一番規模が大きかったのは、長野県富士見町で計画していたR社のケースです。地元の反対運動のグループが粘り強く活動したのも大きかったと思います。自治体(富士見町)の方でも、もともとあった環境条例を基に、周辺地域の合意がないと認められないという立場を取りました。土地の所有権をもっている人は賛成していましたが、周囲の4つの自治区が反対決議をしたので、撤退したということになります。会社としては、そこまで反対されて事業をすすめるのはリスクが大きいと判断したのだと思います。また、大手の事業者だったので、ここを撤退しても他にも数多くのプロジェクトを抱えており、そこまでこの事業にこだわる必要性もなかったのかもしれません。

 

対応しながら進めている例は、大手商社のM社が、九州でメガソーラーを計画したケースです。その土地は、工業団地用に自治体が造成したのですが売れなくなり、結果的に植物が生えてビオトープになりました。そこにメガソーラーができるというので地元の環境団体は反対したのですが、M社は話し合いの末、開発によって貴重な生物が減るかどうかのモニタリングを、環境団体と一緒にやることにして話がまとまりました。意外に思われるかもしれませんが、都市部の大手企業は比較的ちゃんとしているというか、事業のツボを抑えている事が多いですね。過去にいろんな開発をしてきたので、知見が積み重なっているのだと思います。

 

◆FIT制度がもたらしたずさんな開発は、今後減っていく?

 

高橋:このような問題事例やトラブルになる開発が増えている要因は何でしょうか?

 

山下:大きく分けて2つの要因があります。ひとつは、FIT(固定価格買取制度)によってこれまで儲からなかった再エネ事業が儲かるようになっていろんな事業者が参入しました。しかも制度が緻密に設計されていなかったために、丁寧に向き合うよりもずさんな開発の方が、手広くやったほうが儲かる仕組みになってしまっています。

 

長野県諏訪市のメガソーラー建設予定地に流れる川。予定ではここも埋め立てられる。

 

また、制度に関連するのですが、実際に設備が計画通りにできているのかをチェックする仕組みがないことも問題です。書類上ではちゃんとやりますとしておいて、手抜き工事をしてもバレにくい。風力など他の再エネの設備は、たいていは大きいし数も限られているのでそういうことが起こりにくいのですが、太陽光は小さいものがたくさんできているので、対応が不十分になってしまっています。制度の問題だけではなく、発注する側の問題もありますが、今のところ大きな業界団体がないので、業界としてやっていこうという形になかなかならないのが現状です。

 

※ISEPは、FIT制度について以下のような改善の提言を出しています。

 FIT制度:平成29年度以降の買取価格および制度改善への提言(ISEPホームページ)

 

 

 

高橋:FITの買取価格は毎年下がっていますから、今後はこのような乱開発は減ってくると考えてもよいのでしょうか?

 

山下:確かに、今後は本気でやろうという所しか残らないでしょう。これまでは、新規参入の数が一気に増えて、経験がなかったためにずさんな工事をしてトラブルを起こすケースが増えました。そうした目先の収益しか見ていない安かろう悪かろうという事業者は、今後はある程度自然淘汰されて減っていきます。

 

ただ、これから工事が計画されているものの多くは、設備認定の権利を2013年や14年の売電価格が高いときに取得したものです。これらはいろいろな理由で、まだ施工していないけれど、その価格で売れる権利だけ持っているんですね。

 

それでいまは太陽光パネルの価格も下がってきているし、施工も慣れてきたということで、今つくるとすごく儲かるんです。自分のところでやらずに、土地だけ抑えて売る業者もいるので、粗雑な開発が進められる可能性は十分にあります。制度としては、所有者が変わっても価格は維持されるので転売が繰り返されている場所もあります。制度的にはこれも問題ですね。

 

高橋:今後はFIT制度を改正し、そうしたおかしな状況を変えていく必要がありそうです。ただ、山下さんは、FIT制度を改正すれさえすれば、このような乱開発が防げるとは限らないとも言います。2017年の最終回となる次回は、乱開発が起きる2つ目の理由である、日本の土地利用をめぐる課題について紹介します。

 

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