最大のカギは土地利用のあり方を見直すこと/ISEP山下紀明さん(後編:vol.109) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

新年あけましておめでとうございます!2018年も、全国を飛び回って「ご当地エネルギー」のいま、これから、乗り越えるべき課題などさまざまな角度からお伝えしておきます。もちろんエコハウスをはじめ省エネについても欠かせません。

 

さて太陽光発電を中心とした各地で相次ぐ開発トラブルをどうすればよいのかというテーマでお送りする二回目です。今回は、トラブルの背景にある日本の土地利用をめぐる制度の問題や、ドイツの事例を紹介しながらどうすればこのような問題が改善できるかについて、ISEP(環境エネルギー政策研究所)の山下紀明さんに引き続き伺いました。

 

前編はこちら:どうする?急増するメガソーラーのトラブル

 

◆トピックス

・環境アセスは有効なのか?

・根底には土地利用方法の課題が…

・ドイツでトラブルが起こらない理由

・日本でも始まったゾーニング

 

 

◆環境アセスは有効なのか?

 

高橋:トラブルになる要因であり、解決のカギでもある2つの要素のうち、1つ目はFIT制度を改善することでした。では、トラブルが起きる背景の2つ目について教えてください。

 

山下:大きいのは、日本の土地開発をめぐるルールがきちんと設定されてこなかったという問題です。再エネに限らず、日本の土地の利用法は、土地の所有権を持っている人の自由度が圧倒的に高く、たとえ周囲の迷惑になるようなものであっても簡単には周りが止められない仕組みになっています。

 

例えば川の上流の人が土地を売って利益を上げる。でも工事によって土砂災害が発生した場合、その被害を受けるのは下流の人たちです。利益を得る人とリスクを引き受ける人が違うケースが多くても、土地を持っている人にすべての権利があるのが問題です。また制度として、市区町村が土地規制できるようになっていないので、もし自治体が強引に工事を止めた場合、開発者から訴えられると負けてしまう可能性があります。

 

高橋:自治体は環境アセスメント(環境影響評価)を適用して意見を言うことはできますね。

 

山下:確かに環境アセスで問題点が指摘されれば、強制性はないものの知事の意見などがつくので、開発のハードルは上がります。しかし環境アセスは、50ヘクタールの規模以下であればやらなくていいことになっています。およそ東京ドーム1個分ですね。事業者もアセスの正式な調査をするには時間とコストがかかるので、それを避けるために49.9ヘクタールの土地で開発している場合もあります。

 

これは制度が間違っていると思う人もいるでしょうが、日本の法律で他の開発行為には50ヘクタール以下はやらなくていいのに、太陽光だけは1ヘクタール以上はアセスをするとなると、特定の事業者だけ不公平ということになってしまいます。 

 

 

◆根底には土地利用方法の課題が…

 

高橋:問題は太陽光、あるいは再エネに限ったことだけではないということですね。

 

山下:「いまこれをやったら儲かる」という開発ブームは、実は10年に一回くらいきています。ゴルフ場だったりリゾート開発だったりするのですが、それがいま太陽光になっているということになります。かつてのゴルフ場やリゾート開発も問題にはなりましたが、社会全体としては止められませんでした。

 

土地利用と開発との関係を考える上では、いまたまたま太陽光が問題になっているから、そのためだけに規制をつくるのではなく、日本でもそろそろ土地開発をめぐってどのようにすべきか、ということを含めて包括的に検討すべきではないでしょうか。

 

 

高橋:土地利用をめぐる問題は根深いですね。現状では、行政が止めたい事例があっても難しいということになりますか。

 

山下:改正FIT法で法令遵守は義務付けられていますので、自治体が適切な条例を定めることは重要です。それが間に合わない場合に最大限できることとしては、自治体の首長(市長など)が認めないという姿勢を見せるくらいですね。

 

それでも、開発がすでに始まってしまったものを完全に止めることは(現行の法令上問題がない限りは)ほぼできません。あとはいくつか開発に関する条例をつくっている地域もあります。兵庫県内での大きな開発については、知事の同意が必要となっています。

 

◆ドイツでトラブルが起こらない理由

 

高橋:再エネ先進国のひとつ、ドイツではこのようなトラブルの話を聞きません。それは土地利用の方法が日本と違うからでしょうか?

 

山下:ドイツは、基本的に開発が不自由なんです。やっていい場所といけない場所がはっきりしている。たとえ土地を所有していても、国が決めた範囲にしか大きな設備は建てられないから、日本で問題になっているような何十メガとか何百メガという規模の発電所はほとんどできません。

 

再エネに関しては、国として2050年までにどれくらいまで増やすかという目標値と各自治体ごとにどのくらい導入すべきかという数値が連動するようにしていますから、開発に消極的なわけではありません。自治体はその数値も考慮して、自分の町でこれくらいやるなら、このエリアは開発するべきではなく、ここは適地として残すというようにゾーニングをしていきます。

 

高橋:開発できるゾーンを絞り込んでいくんですね。

 

山下:ドイツのゾーニングには、ネガティブマップとポジティブマップがあります。日本でもゾーニングをやっているケースもありますが、ほとんどはやっちゃダメなところ(ネガティブマップ)を決めるだけです。そして国としてどれだけ増やそうという方針が定まっていないので、単純に農地や市街化調整区域を全部ダメとかやってしまうと、どこにも建てられないという結論になったりする可能性もあります。

 

山下紀明さん

 

でもドイツは、ここには適地として進めようというポジティブマップもちゃんと作るんです。大枠は国でゾーニングしているのですが、そこから市町村が重ねて細かくゾーニングしていきます。ドイツは北部は風力が盛んです。農地に設置しているケースもよくあります。南は太陽光が比較的多くなりますが、屋根に設置しているものや他に使い道の無い土地がほとんどですね。

 

風力発電は必要な条件が多く、やれるところが限られているのでそれではっきりします。そして太陽光はたいていの所でできるので、余った所でしかやりません。ドイツでももちろんメガソーラーはありますが、例えば旧東ドイツの使われなくなった飛行場跡などにある。

 

日本のように山を切ってメガソーラーやるなんてありえません。日本は、山を切っても事業が成り立つ買取価格が付いていることもあってやってしまっているのですが、ドイツでそんなことをしたら自然保護法に抵触するでしょうし、仮に自然保護法がなくても大きな反対運動が起きてとても事業ができないと思います。

 

長野県のメガソーラー建設予定地の下流に流れる川は、農業用水など生活に欠かせない。設置の仕方によっては、水源の汚染や土砂の流入につながるケースも

 

◆日本でも始まったゾーニング

 

高橋:日本でも、そのような取り組みは始まっていると伺いましたが?

 

山下:北海道八雲町では、環境省のモデル事業として風力発電のゾーニングを進めています。風車が建てられる条件には、主に4つあります。まずは風が吹くかどうかという物理的条件、2番目に渡り鳥が通るかどうかなど自然環境条件、3番目は人への影響など社会的な条件です。

 

最後に、事業化ということを考えると近くに送電線があることも大切です。そういった条件でエリアを絞り込んでいくと、最終的にどこでできるかという判断は、地域性とか町や住民がそこに風車を建てることをどう考えるか、という話になってきます。同じ場所に建てるケースでも、人によって解釈の範囲が違ってくる。

 

例えば、いまはただの草地だけれど、町を開拓したご先祖様が住んでいた大切な場所に風車を建ててよいのかどうかという話があります。人によってはむしろそういう場所にこそ、新しい取り組みを始めるのに良いのではという意見もある。

 

そのような数字に現れないような部分も含めて、どういう土地の使い方をすれば受け入れられるか、という話を丁寧に進めていくことが大切だと思います。

 

最適な設置場所をゾーニングする例(提供:分山達也)

 

ただ、実際の合意形成は本当に難しいので、どんなに丁寧に進めても反対する人はいます。多くの人が賛成していても、もちろん少数派を無視していいわけではありません。とはいえ、一人でも反対していると物事が決められないようでは何もできなくなってしまう。

 

長い目で見て、その取り組みが町全体の思いになるのかどうかという判断は、ひとつひとつのケースですべて違ってくると思います。最終的に、反対している人が「心理的に風車は嫌だけど、お前らは信用してるよ」みたいに言ってくれるケースもあります。

 

高橋:ゾーニングの取り組みもまだまだ始まったばかりです。これから日本がやるべきことは多そうですね。

 

山下:はい、事業者がきちんとすることはもちろんですが、現時点では制度的な不備がいろいろあることは確かなので、国と自治体は時間をかけてでも土地利用法について取り組んでいくべきでしょうね。ISEPとしても、問題のある事例を調査しつつ、そういった例を少しでも減らせるように提言していきます。

 

また一口に「再エネ」といっても、きちんとしたものからずさんなものまでいろいろあります。反対運動の中にも、まっとうなものから、必ずしも的を得ていないものもある。一般の方はそれらを見極める視点を持って、賢い消費者になるしかないのかなと思います。

 

懸念していることのひとつは、乱開発などが起きていることで、再エネを全否定するような極端な人たちが出てきてしまっていることです。どんな設備だって「夢のエネルギー」などということはありえません。そのうえで、より良いものを選ぶとしたらどうするのか、ということを一緒に考えてもらえたらと思います。

 

ドイツでは、国が力を入れて一般の方向けに再エネのQ&Aサイトをつくっています。ISEPでもいまつくろうと準備をしているところです。

 

高橋:どうもありがとうございました。簡単な解決策はありませんが、ひとつづつ、事実を踏まえた上でどうすれば将来の地域のためになるのか、という議論を続けていくことが大切だと感じました。

前編はこちら:どうする?急増するメガソーラーのトラブル

 

※なお、ISEPはメガソーラー開発に関わるトラブルに対する提言として以下のような書面をまとめています。ぜひ参考にしてください。

資料はこちらからダウンロードできます

 

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