第101回:飯田哲也さんが語る、ご当地エネルギーの果たす役割(インタビュー後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回は、飯田哲也さん(環境エネルギー政策研究所所長)への100回記念インタビューの後編をお送りします。前回は、いまの自然エネルギーをめぐる状況について分析してもらいました。今回は、さらい詳しく問題点の整理と、どのようにすれば自然エネルギーの普及が加速するかについて取り上げています。また、開始から1年が経過した電力自由化についてや、ご当地エネルギーの取り組みがこの状況でどのような役割をはたすのかについても伺っています。

 

前列中央が飯田哲也さん。環境エネルギー政策研究所(ISEP)の新しいオフィスにて。

 

◆今回のトピックス

・国は送電網をめぐるルールをコントロールすべき

・電力自由化のカギも送電網にあり!

・ご当地エネルギーが果たす役割とは?

・物語を伝える「語り人」の重要性

 

◆  国は送電網をめぐるルールをコントロールすべき

 

高橋:後編では、固定価格買取制度(FIT)の評価についてからお聞きします。自然エネルギーの電源を20年間決まった価格で電力会社が買い取ることが決められているFIT制度が改正されました。これまでのFITの評価と、今後の課題についてはいかがでしょうか?

 

飯田:これまでの日本のFIT制度には、いくつか課題がありました。たとえば送電網に接続できる状態になるかわからないような事業者に、認定を与えてしまっていたことがひとつです。今回の経産省のルール改正では、電力会社と連系(送電網への接続)の契約をしてからでないと認定しないということになったので、大きな話としては良い方向性になったと思っています。

 

送電網を運用するルールを公正なものに

 

ただし問題もあります。連系の契約について判断をするのは電力会社だけで、本来なら制度の適切な執行の責任を持つべき経産省は何もコントロールせず任せっきりです。電力会社は先ほど言ったような理由から、送電網に空き容量がないとか、接続するなら時期が五年後になるといった無茶苦茶なことを言ってきている。だから発電事業者にとっては、接続は電力会社任せ、それが終わってから経産省マターになるという、変な形の二重規制になってしまっています。

 

本来であれば、電力会社が送電の部分でいかに認定を出すかについて、経産省がきちんとコントロールしなければいけません。FIT制度の本来の法制度では、自然エネルギーは送電網に優先接続するという扱いになっていたのですが、昨年の法改正で削除され、電気事業法の下で「早い者勝ち」になってしまいました。電力会社が空き容量ゼロと言っていますが、それは石炭発電所や原発を優先的に接続しているからなくなるのであって、自然エネルギーを優先接続にすれば、空き容量はいくらでもあるのです。そんなふうに、全体のプロセスを国が主導権を握ってコントロールする方向で組み直すべきでしょう。

 

◆電力自由化のカギも送電網にあり!

 

高橋:電力の小売自由化が始まってちょうど1年がたちました。そちらの評価はどうでしょうか?

 

飯田:400社近くの多くの事業者が登録して、その中で日本版のシュタットベルケをめざす福岡県みやま市の「みやまスマートエネルギー」などが登場してきたことはとても良いことだと思います。ただ、電力自由化についてもやはり送電網をどうするかという改革が不十分で、先行きが見えません。

 

高橋:発送電分離の話ですね。これまで発電から小売まで、すべて大手の電力会社が担っていたものを、発電会社、送電会社、小売会社と分社化するという流れです。全国的には2020年に実施されますが、東京電力だけは、すでに昨年4月に分社化されています。

 

飯田:東京電力管内では、発電会社と送電会社が別会社になったといっても、あくまで東京電力のホールディングカンパニーの下での分離(法的分離)です。いくら会社を分社化しても、グループ企業の中でお金が回ってしまう仕組みになっています。

 

そのため原発の廃炉費用など本来は発電会社が支払うべき費用を、送電網に上乗せして回収する(託送料金の一部)という形がまかり通っている。電力会社としては、託送料金が高ければ高いほど得をする仕組みです。そこの利害関係を切り離さないと、他の小売会社にとって公平な自由競争にはなりません。自由化の開始から1年がたって、そのことがはっきりしてきました。 

 

発送電分離を完全な別会社にする「所有権分離」という段階までやらないと、送電網のところで自然エネルギーを封じ込めることができてしまうのです。なぜ大手は自然エネルギーを増やしたがらないかと言えば、彼らはFITができないからです。よその事業者が自然エネルギーを増やせば、自分たちの売上が減るだけの構造になっているから、自然エネルギーを増やさないように邪魔をするという力学が働くのは、彼らの立場からすれば当然の反応だとは思います。

 

 

それに対して、送電網を利害関係のない会社として切り離す所有権分離をすれば、送電会社はどこに対しても中立に対応するようになります。そうなれば今の東電をはじめ発電と販売だけの電力会社は、FITでの発電ができるようになる。

 

実はドイツのRWEとかイーオンといった大手電力会社は、かつては日本の大手と同じように自然エネルギーを排除し、原発を推進していましたが、現在では公平な送電会社のもとで、自然エネルギーを増やそうと邁進するようになっています。東京電力の動きを見ていると、中途半端な発送電分離ではフェアな自由競争はできない、ということが証明されたように思います。

 

高橋:FIT改正にしても、電力自由化にしても結局は電力会社が所有する送電網(電力系統)をどこが所有するかという問題が鍵を握っているということですね。  

 

飯田:系統に関しては電力会社の奥の院なので、実は経産省でもなかなか踏み込めない部分なのです。でもそこにメスを入れなければ本当の改革はできません。 

 

◆ご当地エネルギーが果たす役割とは?

 

高橋:そのような状況下で、「ご当地エネルギー」はどのような役割を担うのでしょうか?

 

飯田:大きな流れとしては、地域分散型のエネルギー革命は間違いなく起きています。今後はそれを加速する方向で進めていくことです。先ほど言ったような低圧の発電所を増やしていくことや、電力ではない熱の部分を手がけるなど、やれることはたくさんある。バイオマスで発電だけではなく熱も同時に利用するコージェネレーションの取り組みも、もっと増やしたほうが良いでしょう。

 

匝瑳市の休耕地に設置された出力1メガワットのソーラーシェアリング(2017年4月)

 

農地の上で栽培しながら発電も行うソーラーシェアリングのように、エネルギー以外のものとのコラボレーションも登場してきています。エネルギーだけではなく、地域づくりの軸のひとつとしてエネルギーを活用するような例です。エネルギーをきっかけに多くの人が参加できる場をつくり、地域が自立する新しい社会モデルを築いていく、という方向性が見えてきたように思います。

 

グローバルなネットワークも着実に広がっています。2014年に、ISEPが主催して福島でご当地エネルギーの会議を開催しました。日本の私たちとしては、ドイツやデンマークはスゴイと思ってやってきたのですが、ドイツの人たちが「日本にもこんな動きがあるんだ」ということに刺激を受けて、世界の「自然エネルギー100%キャンペーン」を立ち上げるという流れができました。そこから、アップルや多国籍企業が自然エネルギー100%に切り替えるという動きにもつながってきました。

 

もちろん日本のご当地エネルギーの取り組みも、そのような海外の動きに刺激を受けてこの数年で大きく変わりました。3年前は「自分たちにもできるかもしれない、やってみよう」という段階だったのですが、いまでは完全に自分たちが当事者意識を持って自信を持って行動するようになっています。

 

日本の国の政策は問題だらけですが、面白いことが起きているのは間違いありません。国の中心からは変わることはありませんが、ご当地エネルギーの取り組みは、間違いなく大きなダイナミズムをおこしていると言えます。

 

この数年間で日本のご当地エネルギー会社も躍進した。会津電力もそのひとつ。写真は、会津電力の佐藤彌右衛門社長と、雄国発電所。

 

◆物語を伝える「語り人」の大切さ

 

高橋:最後に、「全国ご当地エネルギーリポート」100回を迎えてのメッセージをいただけますか?

 

飯田:エネ経会議と高橋真樹さんが協力して取り組まれてきたこのリポートは、非常に重要な仕事だと考えています。物語を伝える「語り人」は必要です。ご当地エネルギーの最前線で常に格闘しながらがんばっている人たちには、みんなそれぞれ物語があるじゃないですか? それをちゃんと伝えることが、これから取り組もうという人たちへの勇気にもなるし、また伝えてもらった人にとっての誇りにもなります。今後も重要になってくると思うので、期待しています。

 

高橋:どうもありがとうございました。これからも全国を回って自然エネルギーによって地域を盛り上げる人々の姿を伝え続けていこうと思います。

 

※次回は全国ご当地エネルギーリポートのこれまでの歩みを、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の古屋将太さんとともに振り返り、今後のご当地エネルギーの注目ポイントについても紹介していきます。お楽しみに!

 

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