第102回:100回のご当地エネルギーリポートを振り返る(with古屋将太さん) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

今回はいつもと趣向を変えて、これまで過去100回に及ぶ全国ご当地エネルギーリポートを振り返りつつ、今後のテーマなどについても考えていきたいと思っています。ゲストにお呼びしたのは、ぼくが自然エネルギーの取材を始めた当初からアドバイスをいただいている環境エネルギー政策研究所(ISEP)の古屋将太さんです。

 

古屋さんは、北欧など再エネ先進地域で研究を重ねるとともに、日本の各地域でいくつものご当地エネルギーを影で支えてきた人の1人です。過去のリポートの中で、古屋さんが興味を持った記事や、重要だと考えている事柄を中心にお話いただきました。

 

古屋将太さん

 

 ◆今回のトピックス

 ・進化するご当地エネルギー

 ・広がるデマと、現場に行くことの意味

 ・乱開発をどう防ぐか

 ・わかりやすくて発見があるリポートを

 

ISEP新オフィスの外観 

 

◆進化するご当地エネルギー

 

 高橋:過去の記事の中で、古屋さんが気になった記事はどんなものでしょうか?

 

 古屋:全国のご当地エネルギーについてはほぼ知っている取り組みなのですが、この4年間でそれぞれ変化、成長しているのが面白いと思います。ぼくは地域ぐるみで小水力発電に取り組んでいる石徹白(いとしろ・岐阜県郡上市白鳥町)にはまだ行ったことがないのですが、ネットで検索するとまずご当地エネルギーリポートが出てきますね。小水力発電には興味を持っている人が多いのですが、こうして丁寧な記事になっているケースが少ないので、貴重ですね。

 

 ❑岐阜県郡上市白鳥町石徹白集落:小水力による山間部の地域づくり(第21回)

岐阜県郡上市の山間部、石徹白(いとしろ)地区にある水車

 

 高橋:まさしく石徹白では何度も取材させていただき、その変化を追っています。ほぼ全世帯の住民が出資して、集落のエネルギーを担う発電所づくりを手掛けたのは本当にすごいことです。この記事を書いた2014年の段階ではまだ構想段階でしたが、2016年にはすでに稼働を始めています。展開が早く、行くたびに新しい発見があるのでとても新鮮です。

 

 古屋:過疎化の進む農山村の取り組みの代表例が石徹白だとして、対照的に都市のエネルギー事業もあります。東京の「多摩電力」を母体として設立された「たまエンパワー」は、DiO(Do it Ourselves)という参加型太陽光発電施工サービスを生み出しました。都市部では導入できるエネルギー種が限られていることに加えて、屋根上太陽光発電でもさまざまな課題があるのですが、創意工夫を凝らしてそういった課題を乗り越えようとする取り組みには注目しているところです。

 

 ❑多摩電力:都市部で発電して、全国のモデルに(第2回)

 

多摩電力が恵泉女学園の校舎の屋根に設置した太陽光発電と、多摩電力の母体である「多摩エネ協」が手がけた次世代リーダー育成プログラムに参加した学生たち

 

高橋:DiOは、建物のオーナーや一般の参加者が、プロと一緒に施工に参加して太陽光を設置する体験型の取り組みですね。多摩電力はご当地エネルギーリポートが始まってすぐに取り上げましたが、DiOの取り組みもあらためて紹介したいと考えています。こうしてみると、4年間で大きな変化、発展を遂げていますね。一方で、リポートで取り上げた地域の中には、停滞というか、あまり動きがない地域もあります。

 

 古屋:最初に目標としていた発電設備を導入すると、疲れ果ててしまってその次に進めないという状態になりがちです。マンパワーも限られているので仕方がない面もあるのですが、1回だけではなくどんどん発展させていくには何が必要か、ということをぼくたちも一緒に考えてサポートしたいと思っています。継続的に進めていく上では、当初描いたビジョンを見直す機会をつくることが重要かと思います。

 

 ISEPが主催したエネルギーアカデミーについても記事として取り上げてもらいました。この2年位はちょっとお休みしていましたが、新しい事業を考える上でインスピレーションやネットワークを得る場として改めてつくる必要があるかなと検討しているところです。

 

 ❑ISEPエネルギーアカデミー:ご当地電力を育てる試み(第17回) 

 

全国から参加したメンバーが活発に議論するISEPエネルギーアカデミーの様子

 

高橋:それは楽しみです。以前のアカデミーの卒業生も、各地でがんばっていますね。エネルギー事業を形にするのは時間がかかりますが、そうした卒業生の取り組みもこれから記事にできたらと思っています。

 

 ◆ 広がるデマと、現場に行くことの意味

 

 高橋:古屋さんは国内外のいろいろな例をご存知だと思いますが、ご当地エネルギーレポートの中で、発見や驚きがあった記事はありましたか?

 

 古屋:「へー、そうなんだ!」と思ったのは、廃棄されたパネルのリサイクル工場を訪ねた記事ですね。

 

 ❑廃棄された太陽光パネルはどうなるの?北九州市のリサイクル工場を直撃!(第97回)

 

北九州市と協力しながら事業者が手がける太陽光パネルのリサイクル事業

 

 高橋:みなさん結構気になっているけれど、現場で確かめた人がいないので、「そうだったのか!」という反響が多かった記事です。

 

 古屋:講演などに行ってもよく会場から質問されるのですが、「ソーラーパネルにはすごい毒があるから、廃棄は手がつけられない」とか、「10年後には廃棄物だらけで日本がすごい状態になってる」とか、検証されないままどこかから流れてくる情報を素朴に信じている方も結構います。やはりひとつひとつ現場に行って確かめることが大事だと思いました。

 

 高橋: ぼくが現場に行って感じたことは、事前にイメージしていたよりもかなりリサイクル技術のレベルが高かったことです。95%以上を資源として再利用に回せる技術そのものは、世界でもトップクラスと言えます。これからの課題は、うまく収集するための制度を整えることです。それは再エネに限らず、どんな工業製品を扱う際にも共通のことだと思います。

 

 再エネに関しては、いままで世の中に広がっていない、いわゆる馴染みのない工業製品だということで、そうしたデマが広まっているように思います。もちろん不法投棄などが行われる可能性もありますが、それは再エネならではの問題ではありません。マナーの悪い事業者に原因がある問題を、さも再エネそのものの致命的な欠陥かのように指摘するのは間違っていると思います。

 

 古屋:そうした誤解に基づいた情報という意味では、よく日本では「ドイツのエネルギー政策は失敗した」的な安易な批判が広がりがちです。それは完全な誤りなのですが、それについてもリポートではたびたび取り上げているので、参考にしてほしいですね。

 

 ❑ドイツは失敗したと伝える日本の報道の誤解(第70回)

 

ドイツは電気料金の高騰で企業が移転した?(第72回) 

 

ドイツで起きていることがなぜ日本で理解されないの?(第78回)

 

ドイツ在住ジャーナリストの村上敦さん

 

高橋:特にドイツ在住ジャーナリストの村上さんによる指摘「ドイツで起きていることがなぜ日本で理解されないのか」という話は、ぼくにとっても刺激的でした。もちろんドイツや北欧だってうまくいっていることばかりではありませんが、部分的にうまくいっていないことだけを拡大して、「これが本質だ」と見せるやり方はフェアではありません。でも日本ではそうした報道が広まってしまう傾向があるので、今後も誤解している人に向けて情報を届けていけたらと思っています。

 

 ◆ 乱開発をどう防ぐか

 

 高橋:デマの話をしましたが、山間部などでは、再エネ事業によって実際に大きな問題になっている事例もあります。大規模な太陽光発電の開発事業により山を削ったり、貴重な環境をつぶすようなことです。民家の近くに設置された風車などもこれにあたります。

 

本質的には、先ほどと同じように再エネの問題というよりも、ルール設定や環境意識の問題なのですが、あまりに一度に開発の数が増えたので、地方に行けば行くほど、太陽光発電の評判が悪くなってしまっています。 

 

古屋:もちろん、自然エネルギーは進めるべきですが無秩序に開発していいわけではありません。本来は、自治体を含む地域社会が土地利用のあり方を定めた上で、どのように自然エネルギーを活かしていくか、合意形成のもとに進めていくのがあるべき姿です。

 

しかし、いまは先に問題が起きて、その都度対応を迫られるので、なし崩し的に乱開発と反対運動の構図が生まれているように思います。 ドイツや北欧など自然エネルギー先進地域では、まったく問題がないわけではないのですが、それでも基本的な開発のルールが整備されているので、環境を破壊して自然エネルギーを設置するようなことはほとんど起きません。

 

やはり太陽光にしても風力にしても、「ゾーニング」というのが大事になってきます。データを元に、ここには作ってもいいけど、ここはダメだよ、ということをはっきりさせていくということです。以前のご当地エネルギーリポートでも、紹介されていますね。

 

 ❑データ提供でご当地電力をサポートする(第13回)

 

環境や鳥、社会的影響などを考慮した場合、どこに風車を設置するのがよいか、ゾーニングしていく(提供:分山達也)

 

 高橋:いま起きている乱開発は、かつてのリゾート開発と同じように映ります。日本の自治体は、その教訓を十分には活かせていないのかもしれませんね。日本で実際にゾーニングを元に自然エネルギーの立地を整理している自治体はあるでしょうか?

 

 古屋:日本では、先日公表された徳島県鳴門市の事例があります。これは鳴門市や地元関係団体とWWFジャパンが中心となって進めてきた陸上風力発電のゾーニングプロジェクトなのですが、予見されるさまざまなリスクについて、ひとつひとつ専門家の知見を参考にしながら地域のステークホルダーと理解を深めつつ、まとめたものです。

 

 他にも、ISEPもかかわっているのですが、北海道八雲町で風力発電のゾーニングを検討中です。野鳥保護が重要なポイントになるのですが、それだけでなく、地域の産業や経済と風力発電の関係なども含めて、自然エネルギーの立地に対する地域の考え方をゾーニングに反映させるべく、模索しているところです。

 

高橋:日本でも、開発についてそのようなことが常識になってくればよいですね。鳴門市や八雲町のケースも機会があればぜひ取材したいと思います。

 

 ◆わかりやすくて発見があるリポートを

 

 高橋:それでは最後に、これからのご当地エネルギーリポートへのメッセージをお願いします。

 

 古屋:継続は力なり。リポートが始まる前は予想もしていなかった取り組みが現実になっているというのは、面白いですね。まだまだ知らないことがたくさんあるので、どんどん取材して、突き詰めていってほしいなと思っています。

 

 一方でそうするうちに高橋さんが専門的になっていって、マニアックになってしまうと読者が置いてきぼりになってしまいます。ご当地エネルギーリポートは、一般の方にこの動きを知ってもらうという意義もあると思うので、専門家にとっては新しい発見があり、それでいて一般の方にもわかりやすい、というような両方をめざして欲しいなと思っています。ぜひ200回めざしてがんばってください(笑)! 

 

高橋:なかなかハードルが高いリクエストですが(笑)、おっしゃるとおりですね、がんばります。どうもありがとうございました。

 

ISEPの新オフィスで作業をする古屋将太さん

 

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