第100回記念インタビュー:飯田哲也さんが語る、自然エネルギーのいまと未来(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

おかげさまで、全国ご当地エネルギーリポートが100回目を迎えることができました!!

 

2013年に始まったこのリポートを4年間続けることができたのも、エネ経会議の皆さんをはじめ、多くの方たちのご支援があったからこそです。どうもありがとうございました。これからも、ひとつずつ丁寧に地域の声やエネルギーと暮らしのつながりを伝えていくことを心がけていきたいと思っています。

 

今回は100回記念インタビューとして、環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長の飯田哲也さんに激動する自然エネルギーをめぐる状況について伺いました。飯田さんは、自然エネルギー分野の第一人者であることに加え、この全国ご当地エネルギーリポートを始めるきっかけをつくったおひとりでもあります。

 

ISEPの新しいオフィスを紹介する飯田哲也さん(提供:ISEP)

 

飯田さんから見て、いまの日本のエネルギーをめぐる状況はどのように映っているのでしょうか? 最新の映画「日本と再生」の話から、電力会社による接続制限の問題、電力自由化の評価、そしてご当地エネルギーの果たす役割などなど、多岐にわたって答えていただきました。2回にわたってお伝えします。

 

◆今回のトピックス

・映画「日本と再生」−世界はダイナミックに動いている

・太陽光発電は増えたけれど・・・

・電力会社の接続制限にどう対処するか?

 

◆映画「日本と再生」−世界はダイナミックに動いている

 

高橋:飯田さんが企画・監修された映画「日本と再生 光と風のギガワット作戦」(河合弘之監督)が公開され、全国でも自主上映会が始まっています。エネルギー問題は一般の方にとっては難しいイメージがありますが、世界各地の動きを映像で伝えるこの映画は、エネルギーの講演会などに来ないような方にとっても理解がしやすいように思います。

 

飯田:そのような感想を言っていただく方が大勢いますよ。「日本と再生」は、監督をされた河合弁護士の前作「日本と原発」の中で最後に私がチラッと自然エネルギー未来の頭出しをするのですが、その「宿題への回答」とも言える映画です。ですから、一昨年(2015年)5月に河合「監督」から電話で依頼されたときに二つ返事でお引き受けしました。

 

映画「日本と再生」

 

それから、基本的なコンセプトや全体の骨格、ストーリー、詰めるべき論点などを組み上げ、自然エネルギー先進地など国内外の取材先のアポから現地でのレンタカー運転まで私がすべてアレンジしました。自然エネルギーの「源流」であると同時に最先端の地であるデンマークとカリフォルニア、今や世界で最も伸びている中国や中東、そして日本では誤解され歪曲されて伝えられることの多いドイツの現状などを取り上げながら、世界がダイナミックに変わっている様子を伝えています。

 

残念ながら、日本のエネルギー政策は逆向きに進んでいますが、その事実についても、ドイツなどと対比しながら紹介しています。そんな日本中でご当地エネルギーの取り組みが増えてきたことは重要です。この映画の中でも、北海道から九州までご当地エネルギーに取り組む様々な人たちをそれぞれ顔が見える形で一気に映し出すことで、ご覧になった人たちが希望を持ち帰れる重要なシーンとなっています。なお、ご当地エネルギーにさらに焦点を当てた「おだやかな革命」(渡辺智史監督・2017年秋公開予定)という映画の制作が進んでいますので、世界全体と日本のダイナミックな動きを伝える「日本と再生」と、日本のご当地エネルギーに焦点を当てた「おだやかな革命」を、セットで見るととても良いのではないでしょうか?

 

映画「おだやかな革命」は、現在クラウドファンディングを実施中!

 

◆太陽光発電は増えたけれど・・・

 

高橋:FIT(固定価格買取制度)の開始からまもなく5年、「全国ご当地エネルギー協会」が立ち上がってからも3年半がたちました。この間に自然エネルギー設備の数は大きく増えた一方で、さまざまな新しい課題が浮かび上がってきています。日本の自然エネルギーの現状について、評価と課題についてお伺いします。

 

飯田:おっしゃる通り、まず量的にはFITの効果で電力量が圧倒的に増えました。この間に増えた設備容量は32ギガワットで、累積ではドイツを越え、驚異的に成長している中国に次ぐ世界2位の設置量を誇ります。発電量でも2010年の10%から2016年に15%へと5ポイント増え、この100万キロワット級の原発で言えば6〜7基分を、ほぼ太陽光発電のお陰でまかなえるようになったわけですから、全体的に見ればとてもすごいことが起きているわけです。

 

それにより、たとえば去年の5月の晴れた昼間には、日本全体の電力供給の約30%、四国電力や九州電力では50%以上を太陽光発電がまかないました。また、太陽光発電のコストが安くなってきました。FITの値段も40円から21円になりました。5年で半額になったのはすごいことです。とはいえ日本の設備の建設コストなどは世界的にはまだまだ高いので、今後はさらに安くしていくことが必要です。

 

 

高橋:一方で課題としては、地域にメリットが残らない外資や都市部の大企業だけが儲かる事業が多いという問題が顕在化しています。まさに飯田さんが長いこと訴えてきた、単に自然エネルギーを増やせば良いのではなく、地域が主権を持つべきということがより重要になってきているように思います。

 

飯田:特に太陽光事業で目立ちますが、地域にメリットが少なく自然破壊も心配される「植民地型」の事業が大半を占めているのは問題です。現在も山形や福島で、1基で100メガワットを越える大規模の太陽光設備の建設計画が出ています。これはかつて地方で頻繁に起きていたリゾート開発や不動産投機の問題とまったく同じ構造で、資源収奪が行われてしまっているのです。地域密着型の事業も、以前と比べると増えてはいますが、まだまだ足りません。

 

高橋:改善していくためには、どんなことが求められるのでしょうか?

 

飯田:環境や地域主権という意味では、自治体の役割が大切です。土地利用計画をしっかりとつくり、自然エネルギーを開発する際もその計画に基づいて進めることを前提に行うようにするべきです。

 

土地利用計画を見直すということは、何も自然エネルギーの開発に限った問題ではなく、さまざまな地域社会の課題とも結びついている問題です。いままでそこをしっかりやってこなかったツケが、無茶苦茶な事業者による太陽光発電の開発問題として表面化してきていると言えます。自然エネルギーそのものの問題ではなにのですが、現在の社会システムで抜け穴のようになっている部分に、歪みが現れてきているのでしょう。

景観などでも地域のメリットにならない発電所も目立ってきた

 

◆電力会社の接続制限にどう対処するか?

 

高橋:電力会社による送電網への接続制限によって、新たに自然エネルギーの発電所をつくろうとしても、つなげないといった問題も全国で起きています。

 

飯田:電力会社の所有する送電線につなげないという問題は、これまでは風力が対象でしたが、このところ太陽光や小水力など他の電源にも適用されるようになってきました。

 

大きく3つの問題があります。「接続可能量」という事実上の総量規制、送電線の空き容量ゼロという問題、そして過大な接続負担金の3つです。

 

「接続可能量」は、日本が欧州では廃れた「ベースロード電源」という旧式の考えに固執しながら、原発を復活させ、自然エネルギーを封じ込めることに利用する考え方です。

 

しかし、昨年5月に8割近い自然エネルギー電源を導入できた電力会社の実績から言えば、欧州と同じ「柔軟性」という考え方に立てば、そもそも「接続可能量」という考えは不要ですし、仮に「接続可能量」を設けるとしても、「無制限・無補償」ではなく「無制限・補償付き」にするだけで問題はクリアされます。

 

2つめの送電線の空き容量ゼロという問題は、電力会社は送電線の空き容量がないから、つなぐことができない(接続制限)と言っていますが、実際には容量は空いているはずですし、本当に空きが無い場合でも、系統を増強すれば良いだけです。その際に、あらためて自然エネルギーの優先接続を復活させる必要があります。

 

3つめの過大な接続負担金は、たとえば3億円程度の1メガソーラー事業に対して6億円ものとんでもない負担金を請求するような問題が、全国で頻発しています。しかも、お金を支払っても、完成は何年も先だという訳です。

 

送電網をめぐる公正なルール作りが求められる

 

これは、送電線の整備費用を誰が負担するか、という問題です。送電線は、いわば高速道路と同じ公共的インフラですから、利用者や社会全体で負担することが当然なはずです。

 

それなのに、日本では「原因者負担」の立場で、ほとんどの費用を自然エネルギー事業社に押しつけるルールとなっています。これでは、まるで高速道路の整備を私費でやれと言っているようなものですし、すべての費用を消費者に上乗せしてきた原発とは真逆のダブルスタンダードです。

 

これらの問題は、急激な変化を望まない電力会社が、自分たちの「奥の院」である送電網を使って自然エネルギーの封じ込めをしているという側面があるのでしょう。自然エネルギーの増大に対して、既得権益の反発が非常に目立ってきたということです。

 

高橋:ご当地エネルギーに関わる人々は、接続制限に対してどのように対処したら良いのでしょうか?

 

飯田:厳しい状況ですが、いまできることは2つあります。ひとつは、ISEPもやっているように、データを集めて国や電力会社に対してきちんと異議申し立てをしていくことです。

 

接続可能量がゼロと言っていますが、具体的な根拠があるわけではありません。情報公開がされていないので、検証することができないのです。そのことは国会でも問題になっているほどなので、質問主意書などを使って申し立てをしたり、送電網運営の監督をする電力広域的運営推進機関(OCCTO)などに情報公開をしっかりすべきだと訴えていく必要があります。

 

もうひとつは、出力の小さな50キロワット未満の低圧の設備に関しては、まだ封じ込めがほとんどないので、低圧分散型モデルのビジネスをどんどん広めていくことです。低圧分散型というのは、50キロくらいの設備を各地にバラバラにつくっていくことで、ISEPが関わっている地域では福島県飯舘村や宮城県、新潟、熊本で協力しています。

 

高橋:いずれは低圧分野も制限をかけられる可能性もありますか?

 

飯田:しばらくは大丈夫だと思いますが、増えてくればその可能性はあります。そうなればこんどは送電線に頼らず、自家消費やオフグリッドでやっていこうという方法も選択肢として出て来るかもしれません。この先数年で、そうした意味での大きな転換点が来るように思います。

 

※今回の内容はここまで!次回は、電力自由化や送電網の問題をより踏み込んで聞いています。また、そのような中で各地のご当地エネルギーが果たす役割につてもコメントしてもらっています。お楽しみに!

 

各地で公開中の映画「日本と再生 光と風のギガワット作戦」についてはこちら

 

ご当地エネルギーのいまを伝える映画「おだやかな革命」は、現在クラウドファンディングを実施中!