第15回:島根県浜田市・中国ウィンドパワー〜中小企業、風車を建てる・後編(中国・風力) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

❒中小企業がチャレンジする風力発電

 ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く、全国ご当地電力レポート!」。2013年最後の紹介となる第15回は、前回につづき、島根県の石見地方で風車を13基建てた、中国ウィンドパワー社長の矢口伸二さんへのインタビューです。

 矢口さんはエネ経会議の会員さんでもあります。前回は、最初の1本目の風車建設で苦労した話を聞きましたが、その後も苦労しながらの運営が続きます。どうやって乗り切ったのか、そして中小企業でも風車建設はできるのか、についても伺っています。苦労話とともに、おおらかでアイデア豊富な矢口さんからつぎつぎと飛び出るユニークなアイデアに目からウロコのインタビューとなりました。

江津の風車を下から眺める

❒さまざまな課題への対応

高橋:難航したスタートですが、その後はどうだったのでしょうか?

矢口:当初はなかなか計画通りには発電してくれなかったので、自然を相手にする難しさを日々感じていました。最近は「自然には逆っても仕方ない」と達観するようになりましたが(笑)。

 平均風速は統計でだいたい予測できるのですが、瞬間の風はいつどの方向から、どの様な風が、どんな強さで来るか、全くわかりません。普段は羽の向きを自動調整して対応しているのですが、風があまり強かったり、風向きが突然変わったりすると、大きく振動して止まってしまうのです。当初は1キロワットあたり約10円の売電費用でも採算がとれる計算をしていましたが、いざやってみると難しかったですね。

高橋:他にも風車には騒音問題などがつきものですが、苦情などはありましたか?

矢口:騒音と景観については当初かなり言われました。11基の風車が建っている江津(ごうつ)市の風車は側に集落があって、建てる以前から何度も説明会をやってきました。また、できるだけ音が小さくなるように、風車に工夫をしたり、改良をほどこしました。
 
 風車の音といっても、風切音とか、ファンとか、音の出る場所は色々とあり、何が気になるかは人によって異なります。苦情があった時はまず行って、どんな音がどんな状況で気になるかを聞き、対策を立てました。それによって確かに音が下がったと評価してくれる人もいます。それでも気になるという方もいるので、そういうご自宅の窓をペアガラスに変えさせていただいた事もあります。普通のペアガラスでは効果があまりないようですが、2枚のガラスの厚みを変えて、防音効果の高いものにして、それを使っています。また、建設当初から地域の自治会が主催している海岸清掃に運搬車を出して、高齢者の方々のゴミを運び一緒に汗をかいたりと、信頼関係づくりも重ねてきました。

 そうしたこともあって、この一年は全く苦情が来なくなりました。ただ、苦情がなくなったからまったく問題がなくなったというわけではないと思います。今でも我慢されている方もいると思うんです。今後もできることはやっていきたいと思っています。

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山口県宇部市で開催されたコミュニティパワー国際会議2013でスピーチする矢口伸二さん

❒柱は環境と経済、そしてローカルへのこだわり

高橋:原発の代替エネルギーをつくりたいという意識は当初はなかったと聞きましたが、それが変わったのはいつ頃からでしょうか?

矢口:そういう意識になったのは3・11の震災があってからですね。私の場合は、そういうものが必要だという意識はありましたが、事業をはじめたころは風力は「刺身のツマ」のようなものだと思っていました。でも、震災以降はもっと本気で、風車のような自然エネルギーによる発電を主流にしていかなければならないと思うようになりました。あともうひとつ強く思ったのは、中小企業でも、ローカルでもエネルギーを生み出すことができるんだということを示したいということでした。
 
 自分の中には2本の大きな柱があります。それは環境保全と経済活性化です。この2つに貢献するような事業を続けていきたいと思ってやって来ました。エネルギーというテーマなら、環境と経済の両方を変えることができます。実際、世界でも風力発電が盛んな地域では、火力発電の炊く量を減らせています。風車が盛んになれば、ダイレクトに燃やす量を減らせるんです。また、遠くから送電するとロスで効率が悪くなりますが、ローカルにやれば送電する距離が近いので、ロスも減らせます。

 そして、何かあって電気が来なくなっても役に立ちます。実際、江津の風車は単独でも風車が回る仕組みになっているので、停電時に地域の非常用電源になります。そういうことをできるのが、ローカルでやる強みですね。今はまだ風力発電の価格が高いと言われていますが、数が増えれば性能も上がるし、価格も安くなることは海外の例からも証明されています。

 環境の面から言えば、地球温暖化を防ぐためのコストは何兆円かかかると言われています。しかし、このままほうっておいて、ゲリラ豪雨やスーパー台風が増え、高潮や浸水の被害が出ると、そのコストは何十倍にもなるそうです。それを考えれば、備えるためのコストは安くすむのです。その辺を認識して、皆が行動を起こすべきときだと思います。いま人類は真綿で首を絞められてる事に早く気付き、速やかに対応すべきです。

❒中小企業にも風力事業はできるか?


ユニークなイラストが描かれた江津の風車(提供:中国ウィンドパワー)

高橋:風車には、独特のイラストが描かれていますね。

矢口:石見地方で伝統的に行われてきた神楽のキャラクターが描かれています。大蛇とか、恵比寿様とかですね。地元の人にとって愛着をもっていただけるようにという想いからです。ちなみに、一番目立つ場所にある6号機には神楽とは関係ないのですが、石見地方に伝わるお話で「よさみ姫と人麻呂の悲恋」をテーマにしたイラストを描いています。2人は離れ離れになってしまったのですが、風車の上くらい一緒にさせてやろうという私のアイデアで、地元の人に絵を書いてもらいました。こうしたイラストは、地元自治会でスタンプラリーをやる際にも活用してもらいたいなど、色々と考えています。


風車に描かれた人麻呂とよさみ姫のイラスト

高橋:風力事業は他の中小企業でもできるようになるでしょうか?

矢口:私としては、全国でやりたい人の参考になれるよう、できるだけ努力していきたいとは思っています。しかし、現時点では法制度なりファイナンスの関係上、まだまだハードルもリスクも高い事業だけに、一緒にやりましょうとは軽い気持ちでは言えません。FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)が始まって、太陽光は安定した事業になりました。そこで我々も、浜田でメガソーラー事業を検討しています。

 でも風力は、今のFITの価格でも中小企業には難しい。最近できた法律で、風車建設には3年の環境アセスメントがあって、1億円くらいその調査にかかるようになりました。我々のようなところが1億円払って3年待った挙句「接続できません」と言われたら大変なことになります。リスクが高すぎて、大手でさえ躊躇している状態なので、このままではなかなか広がっていきません。(※)


コミュニティパワー国際会議2013で中国ウィンドパワーの風車を紹介

 FITの風力発電による価格は、2013年末現在は1キロワットあたり23円です。それについても我々はFITができる前から、かなり厳しい金額で回せるように設定しているので、FITの導入によって何とかなるようになりました。しかし今から新設しようとすると、中小企業には厳しい価格だと思います。

 国にリクエストするとしたら、ローカルな中小企業に対して、もう少しハンデを付けて欲しいということです。もともと田舎と都会とではインフラも違いますし、これから地方で始めようという人に少しくらいハンデを与えても、不公平ではないはず。スタートラインが都会とは違うのですから。
 風車建設資金の借入に関して、債務保証を国がしてくれるという制度も、以前はあったのになくなってしまいました。今の政策は大手のことしか見ていないという感じがします。

 大企業を優遇すれば、日本全体の数字が上がっていくのは確かです。でも、地方も含めてみんなの幸せにつなげるためには、企業の9割以上を占めている中小企業を育てていく環境をつくらないといけません。それが地域活性にも結びつきます。大企業優遇、都会優先のシステムは、狭い日本をもっと狭く使うやり方で、無理があります。もっと広く使う方法を国が定めないといけないと思うのです。

 エネルギーは、そういうことを解決する突破口として大きなチャンスだと思います。現時点では、中小企業にとって不確定なリスクが大きすぎる風力事業ですが、そうした制度が一つずつ変わっていけば、中小企業でも風力事業は十分手がけられるようになると思います。地元に密着する中小企業だからこそ、苦情も減らせます。

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江津東ウインドファームで整備を担当する萩田芳夫さん(左)と、中国ウィンドパワースタッフの佐々木裕美さん(右)。佐々木さんは矢口さんの娘で、2012年に中国ウィンドパワーの社員となった。矢口さんは「後継者がいなくてなくなっていく中小企業が多い中で、娘が手伝ってくれる私は幸せものです」と語る。

 環境問題を意識し始めた頃は、人間がいない方が環境は良くなるくらいに思っていました。そして風車だったら誰もいなくても勝手に回ってくれるからいいよなとか(笑)考えていたんです。でも、やってみたらメンテナンスもマメにしないといけないし、地域の皆さんの協力も必要だしということで、結局大事なのは人なんですよね。私の事業でも、最初に地元の皆さんの出資がベースにあったからこそできた事業です。そのお陰で次のステップに移れるようになってきました。地域の皆さんに感謝ですね。もう少し軌道に乗ってきたら、地域にお返しとなる事業をもっともっと手がけていきたいと思っています。(インタビューおわり)

※環境アセスメントについては2013年末現在、環境省が規制緩和を検討している

❒おわりに

高橋真樹です。
矢口さんの二回にわたるインタビューはいかがでしたか?厳しい現実に向きあいつつ、新しいチャレンジを続ける島根の中小企業を参考に、できることがいろいろあると思っていただけると幸いです。

2013年のレポートはこれが最後となります。年明けは、1月10日頃の掲載を予定しています。今年一年お世話になりました。来年も続々と、全国で自然エネルギーを活用するユニークな取り組みに新しい展開がありそうです。ぼくも精一杯伝えさせていただきますので、よろしくお願いします。2014年が皆様にとって良い年でありますように!それではまた!!

高橋真樹のご当地電力を紹介する著書
『自然エネルギー革命をはじめよう~地域でつくるみんなの電力』(大月書店)

エネ経会議代表、鈴木悌介さんのインタビュー集
『エネルギーから経済を考える』(合同出版)