第16回:鹿児島県いちき串木野市・さつま自然エネルギー〜中小企業の「環境維新」(九州・太陽光) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

■設立のきっかけ – 川内原発15キロ圏内から、自然エネルギーで町おこしを

 あけましておめでとうございます!ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。ひとつひとつの活動は決して大きくはありませんが、こうした活動が全国に広まることで、徐々に結果が現れているようにも思います。今年も多くの面白いプロジェクトが動き出しているので、バリバリと全国の取り組みを伝えていきたいと思います。

 2014年最初に紹介するのは、鹿児島県の「合同会社さつま自然エネルギー」です。さつま自然エネルギーは、鹿児島県いちき串木野市の会社経営者の方たちのネットワークでできた合同会社です。
 「株式会社パスポート」という川崎市に拠点を置く会社がその事務局を担っています。パスポートは、事業の一つとして太陽光発電事業も行っており、パスポート社長で、さつま自然エネルギーの代表もつとめる濱田総一郎さんは、いちき串木野市を地元にしています。


西薩中核工業団地内にある西薩クリーンサンセットに設置された太陽光パネル(提供:さつま自然エネルギー)

 この事業をはじめようと動き出したのは、東日本大震災が起きる以前からです。いちき串木野市の人口は3万人。全国の地方と同様、高齢化が進み、このまま何もしなければ市は疲弊していくだけなので、「何とかしなければ」という濱田さんをはじめとする地元経営者たちの思いが一致して、「再エネを利用した町おこし」というプランに結びつきました。最終的には、1億3000万円の出資金が集まっています。

 また、経営者の間では福島第一原発事故が起きて以降、「人間の手に負えないような原発に依存したままでいいのか」という議論もされてきました。この町は、鹿児島県川内原発から15キロ圏内にあり、改めて、持続可能な多様なエネルギー源を子孫に残したいという思いが活動の目的に加わりました。 
 

さつま自然エネルギーのロゴマーク

 さつま自然エネルギーは、2012年4月に食品産業を中心とした地元事業者や団体、いちき串木野市など10の組織が出資金6350万円で設立。2013年10月時点では、参画している企業等は15社に増え、出資金も1億3000万円になっています。また、行政も市が管轄する遊休地を貸し出したり、広報に協力するなどのバックアップをしています。

 第一弾設備として工業団地や市内各所に設置した設備は合計約3メガワット(3000kW)。震災発生以前から動いていたということもあって、一部は再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が実施された初日(2012年7月1日)から売電を開始するという迅速な動きとなりました。費用も太陽光発電設備を、大量に一括購入することで、単価を安くすることが出来ました。2013年10月時点では、このような仕組みを利用した一般家庭の屋根への設置もスタートしています。

■特徴 — 地域の名士の呼びかけに集った工業団地のネットワーク
 
 いちき串木野市は他の地方と同様に、人口流出と高齢化が進み、雇用がないという状態が続いています。地域の主要産業は食品関係で、太陽光パネルを設置した西薩中核工業団地は、蒲鉾の加工工場や、焼酎の製造などを行っている場所です。そこで中心的な存在になっている濱田酒造が、周囲の企業に声をかけたことが、多数の企業が出資するさつま自然エネルギーの設立に結びつきました。ちなみに、事務局を担っているパスポートは、濱田酒造の関連会社としてスタートした会社です。

 西薩中核工業団地は、普段は閑散としていますが、毎年10月中旬にここで開催される「地かえて祭り」(いちき串木野商工会議所主催)という地域のイベントには、10万人以上が参加します。さつま自然エネルギーでは、今後はそこにエネルギーという要素を加え、町おこしを進めていこうと考えています。


2013年の地かえて祭りで実施した自然エネルギー工作親子教室(提供:さつま自然エネルギー)

 2013年10月26日~27日に開催された『地かえて祭り』では、さっそくさつま自然エネルギーとして出展。小学生を対象にした『次世代エネルギーのまち いちき串木野市の未来絵画コンクール』を開催したり、親子で参加するソーラー工作を行い、ペットボトルエコライト作りが好評となりました。

 活動には企業だけでなく、「エネルギーで町おこしをしよう」という主張に賛同した地元の金融機関や、自治体が協力しています。また、地元の設置業者の雇用を生むという効果も期待されています。課題としては、地元企業が母体になって突き進んできた分、まだまだ一般市民に認知されていないので、どのように広げていくかという部分があります。

 市民出資については、長野県飯田市で活動するおひさまファンドからアドバイスをもらい、全国で募集しました。10年間で年利2%で配当するものです。 一口30万円で500口募集しましたが、宣伝が十分でなかったこともあり、集まったのは129口でした。その辺りも今後の課題と言えるでしょう。
 しかし、全国で初めて地場産品等で配当をする仕組みを組み込むなど、地域ならではの取り組みも進めてきました。こうした取り組みは、これから全国で広がっていく可能性があります。


2013年の地かえて祭りで実施した自然エネルギー工作親子教室(提供:さつま自然エネルギー)

■設置設備は、工業団地と市の施設に

 事業の第一弾として、西薩中核工業団地に約2メガワット、それ以外の学校法人や酒造会社、市の遊休地など市内各所に約1メガワット、合計3メガワットの太陽光発電設備を設置しました。総事業費は約9億円で、その一部は2012年7月1日から売電をはじめ、2013年末現在はすべて稼働済みです。

 費用は企業からの出資と地銀からの融資に加えて、一部市民出資(集まった金額は3870万円)が入っています。出資した企業はほとんどが自らの工場などに設備を設置している会社で、賃料と配当が入ってくる仕組みになっています。出資金は、1kwあたり2万円で、出資額に合わせて賃料を得ることになっています。メンテナンスはさつま自然エネルギーが担当します。
 
■町おこしにどうつなげるのか

 現在の状況は、まだエネルギー事業を担う母体ができたという段階です。この存在を今後どのように活かして、実際の町おこしを進めるのかはこれからの活動次第だと言えるでしょう。

 そうした目的に向けて、すでに小学校などで環境教育を行ったり、遠足のコースとして工業団地のパネル見学を入れたりといったことも始まっています。
 また、市民出資の出資者ツアーや、グリーンツーリズムのように自然エネルギーを観光に結びつける取り組みを、売電収入を元手にできないか構想しているところです。一方、エネルギー面での取り組みでは、発電だけでなく、工業団地という特徴を活かし、冷凍や冷房のエネルギーをコントロールする方法なども調査中です。

■キーパーソンからのメッセージ

さつま自然エネルギーの漆原道友さん(株式会社パスポート太陽光発電事業本部九州営業所所長)からは、このようなメッセ—ジをいただきました。


さつま自然エネルギーの漆原道友さん

さつま自然エネルギーが目指すのは、日本で最も環境負荷の小さい工業団地を実現し、将来的には次世代エネルギーと地域資源を結びつけた地域の魅力を発信し、企業誘致と交流人口の増加を図ることです。
いま私たちが何もしなければ、少子超高齢化と経済構造の変化によってまちが衰退の一途を辿ることは、様々なデータによって明らかです。それは日本の地方都市が抱える同様の課題でもあります。だから、私たちは「環境維新」を掲げて、将来の世代が豊かで安心できる環境モデル都市の実現に取り組んでいます。
まちおこしに必要不可欠なものは、本物の志と持続可能な経済性のある事業です。地元中小企業、行政、地元金融機関そしていちき串木野市民が結集したことはとても大きな意義があると思います。

■感想として - 地方都市共通の課題を越えられるか
 
 ぼくがいちき串木野市を訪れたのは平日の昼間でした。住宅は多いのに、どこまで行ってもほとんど人と出会うことのないような状況に驚かされました。もちろん平日だから働きに出ている人が多いのでしょうが、かつて漁業がさかんだったという活気はどこにも見られず、高齢化と人口減少が続いている様子を実感しました。この地域に来れば、漆原さんのコメントにあるように「いま何かをしなければ」という気持ちになるはずです。
 
 いちき串木野市だけでなく、日本の地方都市は全国で同じような状況に陥っています。そうした地域では、さつま自然エネルギー取り組みが参考になるでしょう。市の産業の中心を担っている工業団地のネットワークを活かして、自然エネルギーを進めていくプロジェクトは全国でもはじめて。本文にも書いたように、はじまったばかりの活動で、告知も決してうまくいっているというわけではありませんが、お祭りへの関わりなどを通じて、少しづつ認知度をあげています。原発のお膝元で、環境維新を起こせるか、これからの活動に期待していきたいと思います。


2013年の地かえて祭りで実施した自然エネルギー工作親子教室(提供:さつま自然エネルギー)

※さつま自然エネルギーは、12月に経産省が主催する「平成25年度新エネ大賞」で「経済産業大臣賞」を受賞しました。おめでとうございます!

 さつま自然エネルギーの活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の情報などはこちらのリンクからどうぞ。

合同会社さつま自然エネルギー

株式会社パスポート