「みらいいろ‥3月11日‥」


(二)

その日、バイトは全員帰らされた。

帰り道、駅前を通ると、人の波で混み合い、通るのに時間がかかった。

何人か、携帯を取り出して連絡を試みようとしている人が居た。

恐らく繋がらないだろう。

そんな事を思いながら、僕は人波をかき分けた。

その間にも、何度かの揺れに襲われた。

駅前を抜け、見慣れた路地に出る。

そこは既に、馴染んだ場所ではなかった。

所々、塀が崩れ落ちている。

未だに揺れてる電線。

アパートに着くと、慌てた顔の大家さんが出迎えてきた。

「良かった。無事だったんだね。」

僕を見ると、安心したように息を吐いた。

大家さんの話では、どうやらアパートの住人は、全員無事みたいだ。

幾らかの安心を覚えながら、僕は部屋に戻った。
「みらいいろ‥3月11日‥」


(一)

「じゃ、これ運んだら上がって良いから。」

「あ、はい。」

店長が差し出してきたコーヒーを運ぶ。

僕のバイト先は、割と早い時間帯から始まる。

今日は朝から2時半までバイトが入っていたけど、平日なのに客の入りが多く、定時では上がれなかった。

何だかんだ、15分程過ぎた頃、店長から上がっても良いと言われた。

まぁ、忙しいのも悪くはなかった。

お客さんも、良い人が多いし。

コーヒーをテーブルに運ぶ。

その時。

「あれ?」

不意に足下がぐらついた。

立ち眩み?目眩?

気付けば、天井からぶら下がった電球が僅かに揺れていた。

地震かな?

そう思った瞬間、足下が大きく揺らいだ。

僕はたまらず、その場に倒れた。

地震だ、大きいぞ。

一瞬遅れて、誰かがそう叫ぶ声が聞こえた。

食器が割れるような音も聞こえる。

立ち上がれない程の揺れ。

頭を過ぎるのは、恐怖ばかり。

どれくらいの間揺れてたんだろう?

その数分が、途方もなく長かった。

徐々に揺れが収まってきた。

床に座り込んだまま、ぼんやりと店内を見回した。

床に割れた食器が散乱している。

壁に飾られていた写真も、所々外れていた。

電球は未だに揺れていて、傘がずれているやつもあった。

消えているやつもある。

「大丈夫ですか?」

不意に声をかけられた。

顔を上げると、男の人の心配そうな顔が目に入った。

「怪我してますよ。」

男の人はそう言った。

その時初めて、僕は左手の甲に切り傷があり、血が滲んでいる事に気付いた。

運んでいたと思われるカップの残骸が、側に転がっている。

きっと、転んだ時に、破片で切ったのだろう。

僕はぼんやりと、大丈夫ですと男の人に答えた。
竜太朗さん、お誕生日おめでとうございます*

貴方の歌声、世界観、笑顔、佇まい、生き方全てに憧れます。

本当に、出会えて良かった。

良き1年になりますように。