「みらいいろ‥3月11日‥」


(一)

「じゃ、これ運んだら上がって良いから。」

「あ、はい。」

店長が差し出してきたコーヒーを運ぶ。

僕のバイト先は、割と早い時間帯から始まる。

今日は朝から2時半までバイトが入っていたけど、平日なのに客の入りが多く、定時では上がれなかった。

何だかんだ、15分程過ぎた頃、店長から上がっても良いと言われた。

まぁ、忙しいのも悪くはなかった。

お客さんも、良い人が多いし。

コーヒーをテーブルに運ぶ。

その時。

「あれ?」

不意に足下がぐらついた。

立ち眩み?目眩?

気付けば、天井からぶら下がった電球が僅かに揺れていた。

地震かな?

そう思った瞬間、足下が大きく揺らいだ。

僕はたまらず、その場に倒れた。

地震だ、大きいぞ。

一瞬遅れて、誰かがそう叫ぶ声が聞こえた。

食器が割れるような音も聞こえる。

立ち上がれない程の揺れ。

頭を過ぎるのは、恐怖ばかり。

どれくらいの間揺れてたんだろう?

その数分が、途方もなく長かった。

徐々に揺れが収まってきた。

床に座り込んだまま、ぼんやりと店内を見回した。

床に割れた食器が散乱している。

壁に飾られていた写真も、所々外れていた。

電球は未だに揺れていて、傘がずれているやつもあった。

消えているやつもある。

「大丈夫ですか?」

不意に声をかけられた。

顔を上げると、男の人の心配そうな顔が目に入った。

「怪我してますよ。」

男の人はそう言った。

その時初めて、僕は左手の甲に切り傷があり、血が滲んでいる事に気付いた。

運んでいたと思われるカップの残骸が、側に転がっている。

きっと、転んだ時に、破片で切ったのだろう。

僕はぼんやりと、大丈夫ですと男の人に答えた。