「monophobia」

(みらいいろ:記憶回路)


(三)

校庭の隅っこに座って、僕は携帯をいじっていた。

この場所は、校舎や校庭からは死角になっている。

生い茂った草や木なんかが、強くなってきた日差しを遮ってくれてる。

どこかのクラスが、午後の体育をやっているのか、時々号令が聞こえてくる。

その声を遠くに、僕は体育座りしながら、食い入るように携帯の画面を眺めた。

見ているのは、俗に言う自殺掲示板。

いつからか、僕の日課になっていた。

誰かに見られれば、途端に軽蔑の眼差しを向けられるだろう。

別にどうでも良いけど。

掲示板には、多種多様な人達が、自分の身の上話や自殺の動機なんかを、それはもう有象無象に書き連ねていた。

世の中には、行き場を無くした人なんかが、こんなにも居るもんだ。

共感出来る話も多い。

僕にとっては、退屈な授業を受けてるより、よっぽど有意義な時間だった。

平日の午後は、電車も空いてる。

学校に居るのが息苦しくなり、僕は早退した。

ドアの近くに立ち、顔を伏せる。

不意に、後ろで笑い声が上がった。

思わず振り返る。

大学生くらいだと思える女子が数人、笑い合っていた。

心なしか、時たまその視線が、僕に向けられてるような気がした。

慌てて顔を戻す。

僕を笑ってるのか?

いや、違う。

ほら、ただ昨日見たドラマの話をしてるだけじゃないか。

ただの被害妄想だ。

その後も、何人かが訝しげに僕を見てる気がしたけど、気のせいだと自分に言い聞かせた。
「monophobia」

(みらいいろ:記憶回路)


(二)

いつも考えるよ。

何で、こうなったんだろう。

中学の時は、こんなんじゃなかった。

僕にも、年相応の明るさや無鉄砲さがあった。

授業を抜け出して、カナデと屋上や校庭の隅っこに行って、くだらない話で笑い合った。

フジと屋上で、好きな音楽の話で盛り上がった。

校庭の隅っこで、ヒロからお勧めの音楽を教えてもらった。

放課後の教室で、タケに勉強を教えてもらった。

毎日毎日、馬鹿みたいに笑ってた。

今となっちゃ、遠い昔の出来事みたいだ。

僕は自室のベッドに座ると、右手にカッターを握った。

少しずつ増える、左手首の切り傷。

刃物が食い込む瞬間の痛みだけが、自分の輪郭を確かめられる唯一の瞬間だった。

その時だけは、僕が僕で居られる。

だけど、すぐに襲ってくる罪悪感。

馬鹿げてるとは分かっていても、こうするしか、自分を保つ事が出来なかった。
「monophobia」

(みらいいろ:記憶回路)


(一)

目が覚めた。

カーテンの隙間から、朝日が漏れる。

また一日の始まりだった。

しばらくは起きる気になれず、僕は毛布にくるまった。

いっその事、サボってしまおうか。

そんな事を考えたけど、時間が迫ってくると、行かないとって急かす僕が現れ始めた。

やれやれと思いながら、僕は気怠い体を起こした。

カーテンを閉め切ったまま、登校の準備を始める。

高校に入学して、一年とちょっと。

特にこれといって、変わり映えのない毎日を過ごしてる。

朝起きて、学校に行って、帰ってきて寝る。

本当に、そんな感じ。

たまに、みんなとスタジオに行ったりするけど、高校に入ってからは、そんなに頻繁ではなくなった。

正直、退屈な毎日だった。

だからといって仕様がない。

面倒な気持ちを抑えつつ、僕は学校へと向かった。

屋上で座りながら柵にもたれ、空を見上げた。

青い空は、少しだけ高くなってきている。

午後の授業に出る気がなくなった僕は、屋上へと逃げてきた。

ここに来たからと言って、別に何も無いけど。

中学の時だったら、カナデとフジが居た。

だけど、今は一人。

まぁでも、あの息が詰まりそうな教室で、退屈な授業を受けるよりは、だいぶましだった。

不意に風が吹き抜ける。

微かに、夏の匂いがした。