「monophobia」

(みらいいろ:記憶回路)


(六)

地元に着くと、僕は公園に向かった。

ベンチに座り、空を見上げる。

高くなった青空。

僕はしばらく、空を見上げていた。

ふと、話し声が聞こえて、浮遊していた意識が戻ってきた。

地元の中学校の制服を着た男子が数人、喋りながら公園に入ってきた。

不意に、中学生が足を止める。

ひそひそと喋る声。

それに続く、抑えた笑い声。

それを聞いた瞬間、さぁっと血の気が引いた。

中学生の一人が振り返る。

その、笑った視線と目が合った瞬間、冷や汗が吹き出した。

僕は逃げるように公園を出た。

膝が震えて、上手く歩けない。

僕は無我夢中で歩き続けた。

とにかく、一人になりたかった。

無意識の内に、早足になる。

顔が火照って熱い。

気付けば、古びた倉庫の前に来ていた。

昔は、電車の倉庫として使われていた場所だった。

今では、僕らの秘密基地と化した場所。

高校に入ってからは、ここに来るのは初めてだった。

中に入ると、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

しんとしていて、誰も居ない。

無性に、悔しくて仕様がなかった。

僕は、倉庫の壁を思いっきり蹴り上げた。

鈍い音が、倉庫の中に響く。

肩で息をする程、息が上がっていた事に、初めて気付いた。

悔しい気持ちは消える事無く、もやもやと僕の中で渦巻いた。

気付けば、涙が滲んでいた。

あいつら、僕を笑いやがって。

いつもそうだ。

みんなは僕を見ては、軽蔑して、嘲笑う。

畜生、頭にくる、イライラする。

何で、何で僕ばっかり。

僕ばっかりがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。

みんな死ねばいい。

ぶっ殺してやる。
「monophobia」

(みらいいろ:記憶回路)


(五)

午後の授業を抜け出して、屋上で空を見上げる。

相変わらず学校は窮屈だったけど、最近は、そこまで嫌な気分にはならなかった。

この間、カナデと会ったからかな。

そんな事を思いながら、僕は寝転がった。

少しずつ暑くなり、いよいよ夏本番となってくる。

夏は苦手だった。

暑いのは苦手なんだ。

何より、傷を隠せなくなる。

自傷行為の事は、誰にも言ってなかった。

みんなには、言えるわけない。

なんでこうなったんだろう。

いつもの自問自答。

問いかけは頭の中でぐるぐる回り、答えは出なかった。

人と関わる事で、僕は嫌な思いを沢山してきた。

気分が悪くなるような話を、自慢げに話してくるような奴は何人もいた。

吐き気がするよ。

でもきっと、僕も同じなんだ。

きっと、知らず知らずの内に、周りを不愉快にさせてたりする。

まぁこんな、前髪が長くて猫背の、どこから見ても陰鬱な奴にしか見えないような奴なんて、そんなのの代表格だろう。
「monophobia」

(みらいいろ:記憶回路)


(四)

学校は息苦しいけど、かと言って家に帰る気にもなれなかった。

僕はそのまま、地元をふらふらと歩き回った。

何となく、中学の時にみんなで遊んだ公園に寄った。

ベンチに座り、ぼんやりと空を眺める。

僕は空が好きだった。

この時だけは、穏やかな気分になれる。

不意に、僕の前を一人の男が通り過ぎようとした。

男は僕を見ると、「あっ」と声を上げた。

「リュウ、久しぶり。」

笑いながら僕の隣に座る、茶髪のそいつ。

一瞬、誰だか分からなかった。

「久しぶり、誰だか分からなかったよ。」

僕はカナデに笑いかけた。

カナデに会うのは、少し久しぶりだった。

茶髪にしていた事も知らなかった。

夜闇のような黒髪が特徴的だったカナデが茶髪にするなんて、結構驚いた。

僕らはたわいもない事で笑い合った。

カナデは、学校での事を話してくれた。

フジとは相変わらずな事。

カイトと一緒に、文化祭でバンドをやった事。

彼女が出来た事。

楽しげに話すカナデを見てると、僕まで楽しくなってきた。

だけど、それと同時に感じる、妬ましい気持ち。

今カナデにあるものは、どれも僕にはないものだった。

こんな嫉妬、みっともないって分かってる。

だけど、どうしようもなかった。

ここで僕は、カナデが制服ではなく、私服である事に漸く気付いた。

どうしたのかと問いかける。

「ここ数日、熱出して休んでたんだ。だいぶ良くなったから、散歩に出かけたんだ。」

カナデは病弱だった。

季節の変わり目で、体調を崩しやすいんだろう。

今更ながら、僕は申し訳なくなった。

僕はカナデと別れると、帰路に着いた。