「エとセとラ」

(みらいいろ・回想録)


(六)

スタジオから帰る途中、空を見上げた。

満天の星と、月明かり。

寒くなった空気に、星が震えてるように見えた。

何だかカナデみたいだなって、月を見ながら思った。

いつも近くに居てくれるけど、僕には手の届かないところに居る。

僕にとっての月は、カナデなのかも。

迷ったら、道を照らしてくれる。

変わらずに、そこに居てくれる。

僕は月を見た。

カナデも見てるのかな?

同じ月を、僕らは見てる。

何度も世界を揺さぶって確かめるんだ。

君が光だって。

僕らの光だって。

変わらずに、そこに居てね。

寒くなった夜空の下を、僕はアパートに向かった。


end
「エとセとラ」

(みらいいろ・回想録)


(五)

「フジ。」

病室からフジが出てきた。

心なしか、強ばった表情をしているように見える。

「今寝てるよ。熱が酷くて、ちょっと危ない状態みたいだって。」

僕は病室に入った。

白いベッドの上で、カナデが寝てる。

熱のせいか、頬が赤い。

その反面、血の気の無い顔をしている。

細い腕に打ってある点滴が、何だか痛々しい。

カナデが熱を出したのは、もう一ヶ月以上前。

上がったり下がったりを繰り返し、二週間程前に高熱で入院した。

無理してたのかな。

丈夫じゃないのに、カナデは頑張り過ぎる事がある。

弱音を吐く事はあんまり無い。

知らず知らずの内に、体に負担がかかっちゃったんだな。

僕は椅子に座ると、カナデの顔を覗き込んだ。

二人乗りで揺らしていた心は、片方抜けてしまった。

ねぇ、一人じゃ意味が無いんだよ。

僕は迷子だよ。

帰ろうにも、辿った道が分からない。

乗る人の居ないブランコは、ただ寂しく揺れるだけ。

待ってるからさ。

僕の後ろは空いたままだから。

君が帰ってこれるように、空けておくからさ。

それまで、一人分の自転車を漕ぎ続けるよ。
「エとセとラ」

(みらいいろ・回想録)


(四)

「帰ろう、冷えるよ。」

しばらくして、僕はカナデに言った。

カナデは素直に頷いた。

「乗ってきなよ。」

僕は自転車の荷台を指した。

今日は、何となく自転車の気分だった。

カナデは最初は遠慮したけど、最終的には、荷台に跨った。

カナデの手が、僕の肩を掴む。

本当に細いな。

僕は自転車を漕ぎ出した。

何だか、カナデと居ると落ち着くんだ。

カナデは、同性異性関係なく、人を惹き付ける。

救われるみたいっていうのかな。

本当にそんな感じ。

カナデとの関係は、傷の舐め合いみたいなところもある。

僕らは、世界や自分が嫌になって、どうしようもなくなった。

だから僕は、カナデの事が放っておけなかった。

カナデとはそうやって、これからも二人乗りしていくんだろうな。

病弱で傷だらけなカナデを荷台に乗せて、僕は自転車を漕いでいく。

変な関係だなって笑いながらも、これが僕らにはちょうど良いのかも。