二足の草鞋 -15ページ目

孤独な道標 【第十四章】~近道~

【第十四章】
≪近道≫

淳介が地方に行ってから間もなくして私も、今まで働いていた会社を出向という形で別会社へ配属になり、営業アシスタントとして忙しい日々を送っていた。

営業先や営業の担当者とも慣れ始めた1ヶ月半くらいが経ったころには淳介のブログの更新頻度も落ちていたから、すっかり向こうの生活に馴染み溶け込んでいるものだと思った。

私は、これまでになく仕事も捗りはじめ、みるきーとの生活もやっと地に足の着いた生活を送り始めていた。
そんなある日、久し振りに淳介のブログが更新された。
タイトル:転職します
 『やはり、母親の傍にいてやりたい。
 このままだと、7月にはもっと遠くに行かなければならない。
 東京で、また生活を始める。
 仕事は、俺の実力ですんなり決まった。
 この田舎ともあと少しでおさらばだ。』
なんで?公安は淳介の転職をどうして許したの?私は、ワケがわからなくなった。
何かあれば連絡をくれると言っていた公安だが、早く真相を聞きたくてまた自分から電話をした。
「あのう・・・彼、東京に戻ってくるんですか?」
「そのことですが、相場さんの家庭環境などを配慮した結果ですね。今までの会社へはこの事件のことは一部には知られていますが、新しい転職先へは一切ノータッチです。これは、相場さんにとってもかなり悩まれた結果だとこちらは判断しております。」
「じゃあ、どこの会社へ勤めるかはもう決まっているのですか?」
「そうですね、○○会社です。配属部署はまだ決まっていないようです。この会社は独身寮を設けているみたいなのでそちらへ入室する予定ですね。」

「そうですか・・・。」

「あと、貴女にお伝えしておかなければいけないことがあります。こちらの方で何日間か尾行させていただいた結果と、精神分析の結果、一旦捜査を打ち切らせていただきますね。ただ、東京に戻られても何かあればすぐ対応が可能なよう、管轄部署には連絡をきちんと入れておきますのでご安心ください。」

「彼は・・・捜査が打ち切られること知っているのですか?」

「いいえ、知らせることは致しません。ただ、賢い方なのでいずれ気づくかもしれませんが・・・。」

私は、メモに○○会社と書き記していた時にふと気づいた。この○○会社・・・うちの取引先で仕事を請け負っている会社だ。まさか・・・私がこの部署に出向になったことを知っているのかな?
慌てて公安に質問した。

「あ、あの・・・この○○会社、私の会社と取引があるみたいなんですが、彼はそれを狙って転職したと思うんですが。」
「そうですね、こちらは転職の相談は受けましたがそれを狙ってすぐそれが叶うかっていったら違いますからね。あくまで彼の実力も多少はあるのではないでしょうか。それに、万が一、貴女の会社へ相場さんが出入りすることがあっても、以前のような手荒なことはできないでしょう。その度に転職を繰り返す訳にもいかないでしょうし、まだ公安に目をつけられているということは百も承知のはずですから。大丈夫です、安心して下さい。」
公安の人は、そう言うけれどなんだか電話を切ったあとも不安だった。
淳介はそんな容易い人ではない。公安でさえも欺かれたのを気付かないんだ。淳介にとって転職は母親の傍にいる口実なんて嘘だ!東京にいるときだって、一ヶ月に一度くらいしか帰ってなかったのに都合よく病気が悪くなってくれたとしか思っていないに決まってる。
近道だ・・・私の傍にいたい想いが生んだ近道。
地方に行っていたときは、淳介らしくない心中に同情していたけど、いざまた近くに来るのかと思うと無性に苛立たしくなった。せっかく、みるきーと穏やかな生活を歩んでいたのに、また転げ落ちた気分だった。