2022. 6. 5 (日) 19 : 00 ~ サントリーホールにて
ロボダ:レクイエム ~果てしない苦難にあるウクライナに捧げる (クレーメル・ソロ)
シルヴェストロフ:セレナード (クレーメル・ソロ)
ヴァインベルク:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 Op.53
シューマン:子供の情景 Op.15より 第1曲「見知らぬ国と人々について」
J.S.バッハ:イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV808より 第5・6曲 ガヴォット I・II
スカルラッティ:ソナタ 二短調 K.141 (L.422) (以上アルゲリッチ・ソロ)
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲 第2番 ホ短調 Op.67
(アンコール)
シューベルト: 君はわが憩い D776
ロボダ: タンゴ「カルメン」
ピアノ:マルタ・アルゲリッチ
ヴァイオリン:ギドン・クレーメル
チェロ:ギードレ・ディルヴァナウスカイテ
久々にサントリーホールまでやってきた。
今回の公演は2020年3月に新型コロナで中止となった公演が2年ぶりに実現したもの。この時のチケットも購入していたので残念だったが実現してうれしい限り
フライヤーのデザインは一緒だけど、演目がやや違う。プロコフィエフやシューベルトも聴いてみたかったなぁ。
アルゲリッチは別府アルゲリッチ音楽祭のため、東京、水戸、そして大分県での演奏活動や行事出席などのスケジュールをこなし熱海では能と共演 (!)し、この公演前もイヴリー・ギトリスを偲ぶコンサートやって・・という過密スケジュール。一方のクレーメルも先日の仙台国際音楽コンクールのヴァイオリン部門の審査員をしたり、この公演後も仙台フィルとの共演もあり・・とおふたりともさぞかしお疲れのことと思う。
昔から共演を何度も重ねて録音もたくさんあるおふたり。私がおふたりの共演を聴いたのは、2014年5月の第16回別府アルゲリッチ音楽祭なので、もう8年前。年を重ねたおふたりの音楽はどんな風に聴こえるかなととても楽しみだった。
20分前くらいにホールへ行くと入り口前に長蛇の列。私自身はこんなに並んだことはないな~というくらい。会場はほぼ満席だった。シャルル・デュトワさんもお見かけしました~
私はこの日と翌日の両公演を聴いたので、今日は主に演奏そのものについて、翌日分には作曲家にも注目して書きたい。
演奏は言わずもがな、めちゃめちゃ素晴らしかった~
アルゲリッチは別府と大分で聴いたばかりだったので、素晴らしさはもうあらためて言うまでもない。
私がこの日特に感銘を受けたのがクレーメル
私がクレーメルを聴くのはまだ3度目だが、前回聴いた前述の2014年のアルゲリッチ音楽祭の時は、”鬼才”クレーメルも正直年齢的な衰えはあるのかなぁという印象だった。
でもきっとその時は私の耳がちゃんと聴き分けられてなかったのかもしれない.
最初の2曲はクレーメルのソロだったが、いずれもとても素晴らしかった!
ロボダの曲は初めて聴いたが後半くらいに主旋律とともに左手が弱音で弦をはじいていて、これが最後には左手単独で出てくる。そして消え入るように何度かはじいた最後にちょこっと強めにポンっとはじいて終わった。私にはこれがまるで心臓の鼓動のように思えた。最後の最後に命の炎が最期の輝きのように燃えた後ついに燃え尽きるかのように思えた。
シルヴェストロフのセレナードも聴きようによっては単純な旋律なのに、どうしてこんなに心に迫ってくるんだろうという音色。クレーメル自身が謳っているかのようだった。
そんなクレーメルとアルゲリッチのふたりで奏でられるヴァインベルクだもん。素晴らしくないわけがない。
以前、クレーメルでヴァインベルクの無伴奏ソナタを聴いたことがあるが、長い割に(たしか40分くらいあったかな~)正直よくわからなかった 奇怪な曲という感想しかなかったんですけど、このヴァイオリン・ソナタ第5番はすごく聴きやすくてこの曲だけは(?)大好きだ。
かつてふたりがベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集で個性を激しくぶつけ合い、ねっとりと絡みつくかのような情熱的で濃い音楽を聴かせてくれたのとはまた違って、今の年齢のふたりだからこそ聴ける滋味あふれる包み込むような音だと思った。
ただそこはアルゲリッチ。第4楽章の途中のピアノソロでは溜まっていたものを爆発させるかのような恐ろしいような迫力!そしてそれを微動だにせずじっとみつめるクレーメル。その直後からのふたりの駆け上がっていくようなところが鳥肌が立った。
でもって、ふたりつながりでショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番の方を先に書くとやっぱりすごくよかった たぶん私の席のせいなのか、ヴァイオリンとチェロではどうしてもクレーメルの方に耳がいってしまう。
この第2楽章は、昨年北九州で藤田真央、辻彩奈、佐藤琢磨さんのトリオ(以下若者トリオw)でアンコールで演奏されてその時もすごいなと思ったが、今回の演奏を聴くと若者トリオとはやはり全然違う。
素人目線で恐縮だけど、若者トリオは「うまいな~、すごいな~!」という感想だったが、アルゲリッチやクレーメルは、もはやうまいな~、すごいな~というレベルではないんです。
こちらがすごいな~と感じる以前に即音楽そのものに強く引き寄せられるのだ。
演奏がうまい云々というより、作曲家、そして彼が書いた作品そのものに吸い寄せられる感じ。
これはヴァインベルクと同様、ふたりだからこそ、そしてふたりの相乗効果の所以ではないかと思った。
とにかく両者の音が深い、深すぎる!第3楽章の冒頭のアルゲリッチの和音の強打。ゆっくりと何度も弾かれるたびにより深淵にひきずられていく。そしてクレーメルの哀愁ある、ときにはすすり泣くような音。彼の声を代弁しているかのよう。
家に帰ってアルゲリッチ、クレーメル、マイスキーの若いころの録音を聴いてみたが、全然違うんですよね~。第2楽章なんかぶっちぎるほど速くて汗がほとばしるよう。
ただ私的には今回生で聴いた演奏の方が、彼らの年齢ならではの深みがあるようで好きでした。
今回気付いたことがある。
別府や大分で聴いているアルゲリッチとの室内楽は大抵アルゲリッチが主導権を握って弦の方々を扇動してる感じ。それは今年に限らず大体毎回なのだけど、それはひとつはアルゲリッチの個性があまりに強いためで、ただそれはそれで大変面白い。
ただ私が心から欲していたのはこれだ!!ということ(あくまで主観)。
クレーメルのヴァイオリンはアルゲリッチと完全に対峙していて、ピアノとヴァイオリンの語り合い、支え合いが私の心の琴線に触れまくった。(面白いのがアルゲリッチは頻繁にクレーメルの方を見るが、クレーメルはまず彼女の方を見ない。)
クレーメルは若い頃のようなとんがったところがいい意味でなくなって、私たちに語り掛けるような音色。今のクレーメルにしか出せない音なのかも。今回あらためて彼の音が大好きになった。
you tubeにこの曲のアルゲリッチらの演奏があったので載せておくが、個人的にはこのカプソンよりクレーメルのヴァイオリンの方がめちゃめちゃいいと思った(ただし動画と生ではだいぶ違うでしょうけど)。
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番 (30分40秒)
/ マルタ・アルゲリッチ(Pf), ルノー・カプソン(Vn), エドガー・モロー(Vc) (2016年10月)
後半最初のアルゲリッチのソロも書いておかねば。
アルゲリッチ、今回もすぐ登場しましたよ~w だいぶソロで弾くのが嫌な気持ちが薄まってきたんだろうかw だとしたらいいな。
曲目未定ということだったが、弾き始めたのが子供の情景の第1曲。これは大分公演と一緒。だとしたらこのあとはまたバッハのパルティータ第2番か?と思ったら、大分公演のアンコールで弾いたイギリス組曲の方だった。で、そのあとがスカルラッティ!これ最近彼女の演奏をツイッターで見てたばっかりだったので、おおー!!となっちゃいましたw
これらを間髪おかずに続けて弾いた。 頭や身体を左右に揺らしながら楽しそうに弾いているアルゲリッチを観ていると、まさに彼女=音楽と思えてくる。
唯一無二のひと。ピアノを愛しピアノに愛されている人。大げさなようだけど彼女は神様が私たちにくださった宝物だと思う。
そしてこの日はアルゲリッチの81歳のお誕生日
![下差し](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/526.png)
というわけで、アンコール最初はクレーメルとディルヴァナウスカイテさんによる”ハッピーバースデー♫” の演奏。
途中、”ハッピバ~スデ~、ディア マルタ~~♪”のマルタ~のとこで哀しげな短調に転調w
するとアルゲリッチが「あらまぁ」的な悲しげなジェスチャー(客席笑い)。するとそのあとの”ハッピバ~スデ~、トゥユ~!”の最後のユ~のとこでまた長調に転調してクレーメルがユ~~~~と長めに引き延ばしつつ華々しく終わってお客さんも盛大な拍手
最前列の方がハッピーバースデーの横断幕を持ってらして、アルゲリッチも嬉しそうだった。
コロナじゃなければお客さんみんなで合唱してあげることもできたのになぁ。
そのあとシューベルトと最後は再びロボダ。
シューベルトの際のアルゲリッチの寄り添うような美しい伴奏、そしてそのピアノに乗ってチェロとヴァイオリンの独奏がぐっときてまた涙
3人は舞台の端っこから端っこまで手をつないでご挨拶してくれた。
来てよかった! 翌日分は作曲家のことも書きたいです。
どうかいつまでもお元気で