2019. 5. 31 (金) 19 : 00 ~ ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール(別府市)にて
<室内楽コンサート>
ハイドン:ディベルティメント 変ホ長調 Hob.IV:5
(豊嶋泰嗣(Vn), 向山佳絵子 (Vc), ラデク・バボラーク (Hr))
ベートーヴェン:モーツァルト「魔笛」の二重唱《恋を知る男たちには》の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WoO46
(小菅優(Pf), 向山佳絵子 (Vc))
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 Op.53 「ヴァルトシュタイン」
(小菅優(Pf))
《スペシャル・ファミリー・プログラム》
ウラジーミル・ズヴェルドロフ=アシュケナージ:グラン・ママ
ショパン:ワルツ第6番 変ニ長調 Op.64-1 「子犬のワルツ」
(デービット・チェン(Pf))
ラフマニノフ:6手のピアノ作品より ワルツ、ロマンス
(マルタ・アルゲリッチ, リダ・チェン・アルゲリッチ, デービット・チェン (Pf))
シューマン:「幻想小曲集」 Op.73
(マルタ・アルゲリッチ(Pf), ラデク・バボラーク(Hr))
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ短調 Op.66
(豊嶋泰嗣(Vn), 向山佳絵子 (Vc), マルタ・アルゲリッチ(Pf))
(アンコール)
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 より 第3楽章
(豊嶋泰嗣(Vn), 向山佳絵子 (Vc), マルタ・アルゲリッチ(Pf))
ラヴェル:マ・メール・ロワ
(マルタ・アルゲリッチ, デービット・チェン (Pf))
ピアノ:マルタ・アルゲリッチ、小菅優、リダ・チェン・アルゲリッチ、デービット・チェン
ホルン:ラデク・バボラーク
ヴァイオリン:豊嶋泰嗣
チェロ:向山佳絵子
もう10日以上経ってしまいましたが・・・
5月18日に続いて別府アルゲリッチ音楽祭に行った。
今年の同音楽祭は「悠久の真実~ベートーヴェン」というテーマで6月2日まで行われた。
5月18日は大分市でのオーケストラシリーズ、この日は別府市での室内楽シリーズ。
盛りだくさんの出演者で大満足の演奏会となった。
前半最初はハイドンの「ディベルティメント 変ホ長調 Hob.IV:5」。
なんといってもバボラークさんのホルンのうまさが光っていた。バボラークさんは昨年もこの音楽祭で水戸室内管を指揮者として振っていたが、今年はホルンが聴けて幸せ
次はベートーヴェンの「モーツァルト「魔笛」の二重唱《恋を知る男たちには》の主題による7つの変奏曲」。 小菅優さんのピアノを聴くのは昨年のソロ・リサイタル以来。 向山さんのチェロももちろんうまいのだが、小菅優さんのピアノに耳がいってしまった。
前半最後はその小菅優さんが弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタ21番「ワルトシュタイン」。
昨年、今回と小菅さんのピアノを聴いてみて、音はどちらかというと硬質な音色だと思う。今回のこの曲の演奏に関しての率直な感想は、全体的に極端なピアニッシモからフォルティシモ、あるいはその逆、のずっと単調な繰り返しで正直あまり面白味がなかった。特に第1楽章はとても長く感じて飽きてしまった。ただ、指回りは本当に圧巻で強靭な打鍵と迫力はすごい。 この曲をもしアルゲリッチが弾いたとしたらどんな風になるのかなとふと思ってしまった。
後半最初にこの音楽祭の総合プロデューサーの伊藤京子さんがご挨拶され、この日<スペシャル・ファミリー・プログラム>として3曲が追加されることを紹介された。
で、その<スペシャル・ファミリー・プログラム>は、アルゲリッチの長女のリダ・チェンとその次男(よーするにアルゲリッチの孫)のデービット・チェンが登場!
ここでちょっとアルゲリッチの家族のことを説明しときます。
アルゲリッチには3人の娘がおり、3人とも父親が違います。次女は指揮者のシャルル・デュトワとの娘のアニー・デュトワ、三女はピアニストのスティーブン・コバセビッチとの娘のステファニー・アルゲリッチ、そして長女が作曲家で指揮者のロバート・チェンとの娘のリダ・チェン・アルゲリッチです。
この長女のリダ・チェン・アルゲリッチの夫がウラジーミル・ズヴェルドロフ・アシュケナージで、あの巨匠のウラジーミル・ダヴィドヴィチ・アシュケナージの甥っ子なのです。日本でもリサイタルなどしておられるようです。ズヴェルドロフの母親はダヴィドヴィチ・アシュケナージの妹のエレーナ・アシュケナージ(2017年に他界)だそう。で、リダ・チェンとズヴェルドロフ・アシュケナージの息子(次男)がデービット・チェン(2008年生まれ)です。
デービット・チェン(11歳)は、父方の祖母であるエレーナ・アシュケナージにピアノを習い始め、現在はジュネーブ音楽院上級プログラムでセルゲイ・ミルシュタイン(!)に師事しているそうだ。
そのデービットくん、めちゃめちゃかわい~~~ お母さんのリダよりもお父さん似かな。
お腹にちょこっと手を置いての中途半端なお辞儀がまたかわいい~~
そして2曲を披露してくれた。「小犬のワルツ」とお父さん作曲の「グラン・ママ」(これはアルゲリッチのことかな、それともエレーナ・アシュケナージのことかな?)。
演奏はめちゃうまかった!! 「グラン・ママ」は最初はアラビアのようなメロディーでアルゲリッチってこういうイメージなのかな~と面白く思った。
演奏が終わってお辞儀をしていると、客席の後ろの方から同年代くらいの日本人の男の子がだーっ!とダッシュしてきて、舞台下からデービットくんにプレゼントを渡して、グッジョブ!とやって再びだーっ!と帰っていった。デービットくんは「これもらった~
」と嬉しそうに舞台袖に小走りで帰っていった
そして次はおばあちゃんのアルゲリッチとお母さんのリダとの3世代での演奏。ラフマニノフの「6手のピアノ作品からワルツとロマンス」。左(低音部)からアルゲリッチ、リダ、デービットくんの順で座って演奏した。リダは元来はヴィオラ奏者で、ピアノを弾くのを観たのは初めてだった。
アルゲリッチの表情がいつもよりとても柔らかくて微笑ましかった。
演奏後、デービットくんはお母さんとおばあちゃんのお辞儀の仕方を見ながら一生懸命お辞儀していてその姿もかわい~
デービットくん、アシュケナージとアルゲリッチの血を引いているなんてほんとにすごいことだ!
11歳、「子犬のワルツ」、そしてこの別府ビーコンプラザ!とくると、「ピアノの森」のカイくんが小学5年生のときに出場したコンクールのことを思い出した。(別府のこのホールがモデルになってるんです。隣の別府公園もマンガの中で描かれています。)デービットくんもカイくんみたいに立派なピアニストになってね!
すっかり癒されたあとは、シューマンの「幻想小曲集」Op.73。
この曲は元々ピアノとクラリネットのために書かれたものだが、今ではピアノとチェロで演奏されることが多い。昨年はこの音楽祭のアンコールとして、アルゲリッチのピアノとセルゲイ・ナカリャコフのトランペットで聴いた覚えがある。そしてこの日はチェロではなく、バボラークさんのホルン
とにかくバボラークさんがうますぎる。 いつも思うのだが、難しい旋律もまるで口笛でも吹くかのようにさらっと吹いている。この曲、管楽器にとっては息継ぎやら駆け上がっていく音階を持続させることとかきっとすごく難しいと思う。このふたりの演奏が聴けて幸せだった。
最後がメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第2番。 昨年は第1番をしいきアルゲリッチハウスで聴いた。第2番を演奏するのはこの音楽祭では初めてだそうだ。
そしてこの演奏がこの日の白眉だったと思う。最高に素晴らしかった
メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲は第1番も第2番もとても美しい曲で、両方の曲ともピアノがとても美しく書かれていると思う。
この楽譜入りのこの第2番を聴いていただくとわかると思うが、ピアノが大活躍(かつ難しい)なのです。
そして言わずもがなアルゲリッチのピアノが本当に!素晴らしかった。音色はもちろんのこと、ヴァイオリンとチェロをそっと支えるところ、ぐいと前に出るところなどの匙加減が絶妙。アルゲリッチは室内楽でのピアノが本当に素晴らしいと思う
豊嶋さんのヴァイオリンは、第1楽章はまだ線が細いかなといった感じだったが、第2楽章に入ってから、特に第3楽章以降はアルゲリッチの魔法にかかったかのように、完全に”ゾーンに入っていた”と思う。なんだか神がかっていた。アルゲリッチは共演者の力をどんどん引き出す魔力があると思う。
第4楽章の128小節目あたりから、そして再び同じ旋律が出てくる267小節目あたりからをアルゲリッチはことさらに強く、かつゆっくりと盛り上げるように弾いていたのが印象的。
(ところでここのメロディーはショパンのスケルツォ第3番の、第2主題のコラールからの下降する分散和音のあの印象的な箇所にうりふたつですよね?メンデルパクった?)
とにかく3人が一体となった演奏はほんとに凄かった!別府まで来てよかった!
この日の演奏の様子 (webからお借りしました)
演奏終了後はほとんどがスタオベ。大喝采だった。アルゲリッチは何でもないようにニコッと微笑んでいたが、豊嶋さんはメガネをとって大汗をぬぐっていた。
2階席には「Gracias! President!」という横断幕が、最前列の人たちも横断幕(後ろからなのでなんと書いてあるかはわからず)を掲げて喝采を送っていた。
アンコール1曲目はメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番の第3楽章で、これも素晴らしかった。
このあとに演奏家の皆が登場してそれぞれ花束が贈呈された。デービットくんも花束をもらってすごく嬉しそうに上に掲げていた。
これで終わりかなと思っていたら、長い拍手のあとにアルゲリッチとデービットくんがふたりで出てきて、なんと連弾をしてくれた。今度はプリモ(高音)をアルゲリッチが、セコンド(低音部)をデービットくんが弾いた。驚いたのがふたりの音色がそっくりなこと。 ふたりの姿を見ているととても感慨深いものがあった。
演奏が終わると、お辞儀したあとアルゲリッチはスタスタと帰っていったが、デービットくんはピアノの上におきっぱなしになっていたおばあちゃんと自分の花束をとりに帰ってきて、ふたつ両手に抱えてそれを交互に上にあげながら嬉しそうに帰っていった。も~ほんとかわいいんだから
今回とても興味深かったのが、同じピアノを弾いても小菅さんとアルゲリッチと驚くほど全く音色が異なったこと。今までホールが違うから、とか座席が違うから、とかそういう影響も考えていたが、ここまで明らかに違うと、やっぱりその音色やタッチはピアニストによって大きく違うのだとあらためて勉強になった。
アルゲリッチももう高齢なので、いつまでお元気でこの音楽祭に来てくれるのか分からないが、来てくれる限りはまたぜひ参加したいと思う。
この日の様子(音楽祭のHPよりお借りしました)
右の写真の手前に座ってるのがアルゲリッチの孫のデービット・チェンくん。
アルゲリッチばんざい!