Chapter 2,682〜 -64ページ目

Chapter 2,682〜

非表示にしたものも含めると2,800話くらい?
これ8章。

昭和四十年くらいまでなのかな。

俺も一度しか見たことない。

物自体は平安時代からあると記憶してる。

 

開け放した部屋の寝床で蚊に食われないように、大きな箱型のガーゼみたいな網を吊るして、その中に布団を敷いた。

俺が覚えてるのは二つ並べた布団がすっぽり入る大きさで、中に入ると外の景色がぼんやり緑色がかって見えた。

風がないと暑いんだろな。

 

蚊帳(かや)

 

 

黒と言うか赤茶色にも見える、大きな染みのある蚊帳を吊って寝た夏の夜。

夜風が吹いて、どこからか聞こえる風鈴の音。

気持ち良く寝入れた。

 

いつの間にか風が止んでしまって、じっとりと汗をかき目が覚めた。

蒸し蒸し暑い夏の夜。

額の汗が「つるり。」眼に入る。

何時頃だろう。

丑三つを回った頃か。

風鈴も、聞こえてた虫の声も止まった。

 

音がする。

「ひたひたひた」

「さっ、さっ」

何かが擦れるような。

畳みの上を動いてる。

暗い中、目を凝らして音の方、

 

女が、

 

見下ろしている。

 

 

乱れた長い髪。

夜目に白い顔。

睨む目。

 

 

この世の者ではない。

 

幽霊。

 

幽霊が蚊帳の周りを走る。

幽霊の足が擦れる音。

 

 

これが有名な『怪談 血染めの蚊帳』

 

 

え?

・・・

走るの?

ゆーれーが?

蚊帳の周りをぐるぐる?

 

「あと3周ーっ」 

「顎上がってんぞっ」

「ラスト一周ぅ」

「スパート掛けろー」

 

ほどけた髪を振り乱し、恐ろしくも見える顔は、歯を食いしばり限界に挑むアスリートのそれ。

畳を擦る履き慣れたオニツカの音も軽やかに蚊帳の向こうに倒れ込む幽霊。

 

「いいペースだ。」

「タイム上がったぞ」

「夜明けまでに三途の川まで走り切るぞっ」

 

とか?

 

 

つか、

血で汚れた蚊帳、洗って落ちなきゃ捨てろよ。

幽霊が『走る』て設定に無理があるよ。

つか、

足あるんか?

 

 

 

こうもりだと思った。

ネズミかも?とも。

 

ちげーわ。

 

太陽フレアの影響か突然、

リビングの天井下の壁、厚さ10cmの中、

 

かっかっかっカチャカチャカチャぞざぞざざざ・・

 

「なんかいる」なんてもんじゃない。

爪のある小型の猫くらいの大きさのなんか。

ぐるんぐるん周回。

うちは血染めの蚊帳か?

こうもりよりネズミより大きい何か。

 

あっりゃ。

こっりゃ。

なんとかしないとなー

罠掛けて捕まってもめんどくさいよな(ハクビシン、アライグマとか捕まえても勝手に処分したらだめなの)

家の中にね、糞の匂いしないから多分ハクビシン(ベジタリアンらしーよ)

か、

単に通り道にされてるか。

なんであろうとやかましめんどくせえ。

 

仁王立ちで腕組んで音と一緒にぐるぐるメリーゴーランド、天井睨む俺。

の脇で娘、座卓に座ってmacから目も上げず、

 

「賑やかだねー」

「元気だねー」

「いつまで居座るのかね?」

 

肝が座ってると言うか・・

 

 

 

きっとさー

血染めの蚊帳の元ネタもさ、こんなことなんじゃないかと。

 


俺、このスープ好きじゃない。


「あ。もらう」

「ちょうだい」



・・・・・

そうだった。

あの頃もこうだった。

お昼良く来たっけ。

その度にスープ飲んでもらった。

ここ。2年以上来てないか。

そりゃ行かないよな。


こんなとこでフラッシュバック


明け方、

雨の音と、

夢に見た。

恋しいか。

どれだけ経った?




仕事帰りの娘と待ち合わせて晩御飯。

「冷凍餃子買ってっていい?」

だめと言うわけがない。




昨日朝、奥さんから電話。

「珍しい部位の癌で発見が遅れた」

「一旦完治した。が、三ヶ月後の検査で再発、その時点で内臓にも転移」

「発症から2年も持たずに」

泣きながら話してくれた。

返す言葉がなかった。

一度しかお会いしたことのない俺に話して、少しは楽になれたのだろうか。

だといいけれど。

考えて、

通夜葬儀、欠席させてもらうことにした。

俺自身今いい状態ではないし、これ以上のネガティブも。



6月で会社辞めよう。

行き詰まったら最初に戻ろう。

 

二通目。
 
昼、
雨上がり。晴れてはいるけど冷たい潮風(そしてちょっと臭い)、公園で一人おにぎりもぐもぐ。
届いた。
 
 
 

○○○の妻 ○○です

突然のご連絡失礼いたします
連絡先がわかる方に送らせて頂きました

夫○○○は 癌告知を受け闘病しておりましたが 去る5月8日 
○○歳にて永眠いたしました

生前はみなさまにとても良くしていただき 本当にありがとうございました

通夜・葬儀告別式は下記のとおり 仏式 にて執り行います

いらして頂けるようでしたら
ご連絡頂けると幸いです

ささやかではございますが
お食事をご用意させていただきましたのでお清めにお立ち寄りください

【通夜】5月12日(日)
18時より
※21時終了

【葬儀告別式】5月13日(月)
10時から11時30分

○○寺にて
(JR○○駅より徒歩5分)
※駐車場有
東京都○区○○○○○○
TEL:○○○○○○○○○○

【喪主】○○○○(妻)
TEL:○○○○○○○○○○

 

取り急ぎメールにて葬儀についてお知らせさせていただきました
失礼の段ご容赦ください 

 

 

 
まだ5月だよね。
今年俺の周りで癌死3人目。
癌絶賛闘病中(あれを闘病と言うのなら)大家を含めて2人。
なんだこれ?
そういう歳だと言われてしまえばそうなんだろけど、
 
次は俺か?
 
いつでも来い。
闘わずして不戦勝、いや不戦死だ。
近々死ぬと判ってるもん、半年や1年2年、薬で伸ばしてどーすんだよ?そこに何の意味があるんだよ?
お金と水と酸素の無駄です遠慮します。
いい女に好かれて惚れられたいい男(誰が?)のままで死なせてくれぃ。
 
つかさ、
 
それは本人ではなくて「そうまでしててでも生きていて欲しい」て周りの人の気持ちなんだろうけど。
(え。ほんとに?そこになんか損得働いてない?)
(あーでも、俺は自分の愛する女の人が先に死ぬのは絶対嫌だな生きてる意味がなくなる。・・・・・そうなんだよ、お前は俺の生きてる意味だったんだよこの馬鹿)
(そっかぁー、残される側になると俺も何て言うかわかんないな)
 
つかさ、
 
手を握ってくれる人も、汗を拭いてくれる人も、涙してくれる人はおろか心配してくれる人すら、
 
いねーし。
 
こうやって始末を付けてくれる人も居ない。
羨ましいなぁ。て思うよ。
そんな迷惑掛けられるか!とも思う。
ま、その時は『葬式無用戒名不用』は絶対だ。
 
 
娘?
そんなことしてくれなくていい。