悲しいことばかりだという銀色夏生の詩集です。
ひとつの恋が終わるときに、人は何を考え何を想い
何に心を癒すのでしょうか?
すべてが時間だとも言い切れませんが、こうしてるうちにも
時は何かを連れ去って、新たな出会いを運んでくれるのでしょう。
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「ロマンスの道」
あっという間に消えてしまう
言い訳だけにつながれて
後ろ姿を見ていると
笑顔の顔だけ浮かびます
追いかけて追いついて
かきいだき
嫌っても忘れてもいいからと
苦しい心をぶつけても
決して笑わぬかたい頬
こんなふうにして恋が
さようならを告げるなら
しあわせなんて空の中
すきすきなんて風の中
せめて明日の思い出に
そのやさしさを下さいと
ため息のようにうつむけば
丁度のぼった満月が
冷たく二人をてらします
手と手をとった帰り道
とうせんぼうした細い路地
泣き虫だから困るよと
似た者同志が言いあって
ぬぐった涙がかわくまで
寝顔をずっと見たのにね
望んだことは何でしょう
はるばるついたこの場所で
瞳の中に見たものは
ふるえるようなすれちがい
へだたりばかり多くなり
本当の気持ちがわからない
迷ってばかりで
みんなより
夢中になってないようで
めぐり会う人でないようで
もうすぐにきっともうすぐに
やっぱりねボクはダメだねと
夢も見ないような口ぶりで
ようようあなたは言いました
来年の春はそれぞれの
立身出世を折りあい
累累たる夢荒野
劣情烈火をしかりつつ
ロマンスの道は遠かりき
我と我が身
を はげまさ
ん
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「僕たち」
僕がいる
君がいない
君がいる
僕がいない
僕がいるところに君はいない
君がいるところに僕はいない
僕たちという忘れもの
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それぞれの生活の中でふとした時に
お互いを想える瞬間があるのなら
それはそれで安らぎで、何よりもかえがたい温かさ・・・
この幸せが少しでも長く・・・
この気持ちが少しでも長く・・・
何に迷うことなく・・・
何に寄りかかるわけでもなく・・・
スーッとまっすぐに線を引くように、まっすぐに・・・
ただひたすらにあなたへと、のびていくことを信じたい・・・
それが私のロマンスの道・・・
*書籍名・・・・・ロマンス
*著者名・・・・・銀色夏生
*出版社・・・・・角川文庫
*発刊年・・・・・1989年