仕事で、幼少の頃から成長を見守ってきた現在20歳の若者がいます
先月行われた地元の成人式に同級生たちとの参加を楽しみにしていたのだけれど、彼は一生に一度の成人式に、とある理由で参加できませんでした
12月末のある日、通学している専門学校の帰りに自転車で帰宅中、転倒して大ケガをしてしまったのです
そんなある日、まだ松葉杖なしには歩くこともできない彼の保護者に、学校から電話がかかってきました
「お子さんの進級についてなんですが、残念ですがこのままでは次の学年に進級できません。出席日数が足りない、つまり単位不足ですね。」
保護者はそれを聞いてとてもびっくりしたそう
なぜなら、子どもが怪我をした直後、あわてて学校に連絡したところ、
「怪我の補償などはできませんが、下校途中の怪我ですから、入院や治療で通学できない場合は公欠扱いとします」
との説明を受けていたそうだから。
そのことをあらためて学校に確認するも、「単位が不足しているから進級できない」の一点張りで話にならない
挙句に、
「どうしても進級させたいとおっしゃるなら、ひとつだけ方法があります」と意味深な言葉・・
「いったいどうすれば?」
「不足している単位は、1単位あたり15,000円で買っていただくことができます。お宅のお子さんの場合、24単位不足していますので、36万円を一括で支払っていただければ、問題なく進級できますよ。」
「そんな大金、すぐには用意できません。怪我による欠席は公欠扱いにするって言ったじゃないですか。」
この後押し問答が続き、ついに堪忍袋の緒が切れた保護者は、
「どうしても進級できないなら退学させます!」
すると学校の担当者は、
「あー、そうですか。退学するならご自由に。そもそもお宅のお子さんはゲームクリエイターになれるような学力はないんですよ。たとえ卒業できたとしてもそういう業界に就職するのは絶対に無理だと思いますけどね。」
と捨て台詞を吐いたという
保護者は、怒り心頭で電話を切ったそう
その後本人を含め家族会議を開き、4年制の専門学校の2年で退学することを決めた
確かに彼は、小学校も中学校も、学力は極めて厳しかった
高校進学も、公立高校は学力面で諦めざるを得ず、学費は高いけれど入試が自己推薦文と面接だけの私立高校に合格し、何とか3年間がんばって卒業した
学費は、2種類の奨学金(いずれも貸与)と本人のアルバイトで工面
ゲームが大好きだった彼は、将来の夢をゲームクリエイターになると決め、保護者もそれを応援したいと、70万円以上の入学金と年間150万円(低所得世帯のため入学後に半額の75万円に減免)の学費を、再び奨学金を借りて、アルバイトも続けながら2年生の途中まで真面目に通った
そして起こった不慮の自転車事故
その結末が、上に書いた通りです
もう退学すると決めたそうだから書いても意味は無いけれど、電話口の学校担当者から、
「来年度から授業料が値上げになります。お宅の場合は減免後で年間100万円です」
と告げられたそう
学校生活の様子を尋ねたところ、授業は毎日午後からで、ゲームをまったりとプレイしたり、パソコンでキャラクターを制作したりしていたという
何か資格取得をめざしたりする授業とかはないの?と聞いてみたけれど、個人で取ろうとする人はいるかもしれないけど授業ではやらないという
古い頭の僕からすれば、年間150万円も払って受ける価値のある授業、就職に本当に役立つカリキュラムだとはとても思えない
学校のWebでは、大手ゲームメーカーに就職した卒業生のコメントを大きく掲載していたけれど、何百人もいる就職希望者のうちいったいどれだけの人が夢を叶えられたのか
彼の入学時にその専門学校のパンフレットを見せてもらった
スーパーゲームクリエイター専攻、e-sportsプロゲーマー専攻・・と、いかにもなコースがずらりと並んでいて、入学しさえすればバラ色のゲーム業界人生、大金を稼ぐプロゲーマー人生が誰でも待っていると勘違いしても仕方ない
学力が全てとは言わないけれど、字の読み書きや簡単な計算すらおぼつかない若者が、ゲームが好きというだけでお金さえ払えば入学も卒業も簡単にできてしまう仕組みには、驚きを超えて憤りさえ感じます
本題に入りますが、今政策的な議論が進められている高校無償化は、今までの公立と私立の経済的負担の差を縮める目的で導入しようとしているのなら、搾取と格差の拡大を助長するだけの史上稀に見る愚策としか僕は思えない
生徒が集まらなければ経営が成り立たない私立高校は早くから少子化対策に着手していて、学校のブランド力を高めるために学力やスポーツなどの特進コースを設けて学費の減免などで一部の生徒を優遇し、優秀な教員を配置して文字通り実績を上げている
少し前なら、地域の中で「公立に受からなかった子が行く高校」と認識され風紀も乱れがちだった学校が、道路から見える校舎の壁に
「T大現役合格〇名」
「〇〇部インターハイ優勝」
などの懸垂幕が誇らしげに掲げてあるのを目にする
しかしその華々しい実績の陰には、中学校の先生が「入試の答案用紙に自分の名前さえ書ければ合格」と憚りもなく言うくらい、一般入試で入学する学力に幅がある多数の生徒がいて、
中には、前述したような社会人として最低限身につけておくべき基礎学力も十分につかないまま(放置されて)卒業していく者もいるのもまた事実(何人ものそういう若者を目の当たりにしてきました)です
今般議論の的になっている高校無償化は、私立高校入学のハードルを下げ、結果的に学力格差と搾取の構図を助長するものに他ならない
政治家は、無償化というコトバを強調し党勢を拡大する目玉商品にしたいようだが、それに翻弄される子どもたち、保護者たちのことをもっと真剣に考えて欲しい
件(くだん)の彼は、専門学校を退学して6ヶ月後、規定により奨学金の返済が始まります
就職が決まっていてもいなくても、容赦はありません
(猶予制度はあるけれど免除されることはありません)
その額、3件の奨学金で月額6万円
高校と大学で借りた奨学金の返済が重荷になって、結婚はおろか、実家を出たくても出られない、と別の25歳の青年は僕にこぼしました
そんな社会の現実に無縁で無関心な政治家や官僚がいくら机上の絵を描いたところで、永遠に「国民皆が楽しい国」など実現出来るはずもない
僕は、専門学校を退学する彼の新たな旅立ちを応援すべく、苦悩する毎日デス(*•̀ㅂ•́)و"