それから2年たち、マイケルは、大学寮で勉強に明け暮れ、奨学金もふたつもらい、夢へと順調に歩んでいる。
そのうち、消えてしまうだろうと思われたキャロラインの幼い恋は、喧嘩をはさみながらも続いていた。
キャロラインは甘えっ子とばかり思っていたが、さすがに全米一位の雄牛を育てた子だ。
我が家のダイニングや畑で繰り広げられる二人の言い争いは、たいていキャロラインの勝利に終わる。
畑のたい肥の作り方も花畑のレイアウトも、デモインのデートコースもキャロラインの言う通り。
「ただね、母さん。予算の立て方は彼のほうが、きっちりしているのよ。トウモロコシも収穫量と品質と作業量と・・あと、種の価格で、一番効率のいい品種を・・・なんだかんだって計算するの。」
「お勉強もでしょう。ちゃんと教えてもらうのよ。」
「わかってる。これから、マットに指摘してもらったところ、書き直す。大学に出すレポートだから、頑張らなくちゃ。これで奨学金が決まるんだ。マイケルみたいに、生活費付きのは、無理だけど、学費免除のは、絶対もらわないと。」
キャロラインは、自分の部屋に行こうとして振り返った。
「母さん、ありがとう。父さんに進学のこと言っておいてくれたんでしょう。あっさり許してくれてびっくりしたわ。」
やはり、気付かれていたのね。キャロラインには、きちんと父に頼みなさいと言ったけれど、事前に相談したのだ。
最初、バドは渋った。大学がいけないのかと、色々聞くと、都会に出ることらしい。
「若い娘には誘惑が多い・・・。ヒッピーにでもなったら・・・。こんな田舎は嫌になるんじゃ・・。」
信じるしかないと言う私の言葉に、バドはなおも心配する。
「それは信じてるけど、18歳の娘ひとりなんだぞ。・・・ひとりで大丈夫か。」
「ひとりじゃないわよ。マイケルもいるわ。そんなに心配なら、マイケルに大学寮を出てもらって、二人で住めばいいわ。」
バドはやっと納得して、娘のお願いを許した。
マイケルと住むこと。学部は農学部にすることのふたつの条件をつけて。二つ目はキャロラインがこの農場に帰ってくる期待を込めていた。
もちろん、キャロラインに不満はない。マイケルは天を仰いだが・・・。
それで、このことは解決したと思っていたのに、町中をひっくり返す騒動が起きたのは、ハイスクール卒業間近のことだった。
キャロラインとマットは結婚するというのだ。18歳なのに。これから大学の新入生になるのに。
両方の父親は大反対し、町の居酒屋で愚かな子供たちを嘆いたので、まもなく町中が知ることになった。
最初、反対派が多数だったが、マットの言い分に賛成派が増え、マットの父も折れた。
それはマットが、マットの父も含めて、我が家で結婚許可講座を開いてからだ。
文房具店をしていた親戚が持っている小さなアパートメントに住むこと。親戚のおじいさんはフロリダに移住していて、今は空き家なので家賃はただと、まず説明した。
そして、二人の奨学金と予定するアルバイト代の合計額。二人で住む経費を並べた。
横に、二人個々に住む金額。キャロラインが兄と住む経費も添えてある。
安いのは、二人で住むのが一番だった。
「もちろん、マイケルと住んでも、ジョンソン家の支出はそれほど変わりません。ですが、僕は大幅に違います・・・。実は母がこの冬、病気で入院して、これからも治療費が・・・。」
我が家で、マットの母抜きで話しをしたかったのは、母に聞かれたくなかったと付け加えた。
マットの父は息子を叱った。こちらの金の事情だけで大事な娘さんと結婚なんて・・・と、言いながらも涙声になる。
「いえ、ミラーさん。それだけじゃありません。私たち、愛し合っています。二人で住んだらもっと助け合えます。」
キャロラインの言葉は力強かった。
バドは無言で、天井をにらみつけている。
私はやはり心配だった。あまりに、若すぎる・・・。この恋はパウロ。ロバートではない。だって、18歳なのですもの。
ミラー家は賛成となり、我が家は結論を出せないでいる。
私もだが、バドも以前のような勢いで反対を叫ばないのだ。一応、ダメとは言うものの・・・、力強さがない。
それで、若い恋人たちは作戦を練った。
「彼と二人で夕食をつくってごちそうするわ。二人で住んでも大丈夫って、わかるよ。」
夕方、食材で満載の紙袋を抱えて、キッチンに立った。
バドは、知らせておいたのに、「チャーリーに用事がある、夕食には戻る」と行ってしまった。マットの悪口をチャーリーとしてくるのだ。揺らぐ気持ちを賛成としないように。
でもマージは、この結婚話を我が事のように喜んでいる。男二人で太刀打ちできるだろうか。
「違うわ、ボールはその横の扉。」
キャロラインが、調理器具の場所を教えている。野菜の切り方で議論し、狭いキッチンの中で、ぶつかりながらも、二人は楽しそうだ。
私は、涙が出そうだった。決して忘れないあの時と、同じ・・・。
でも、私たちと違うところがある。
ロバートは、キッチンのどこに何があるか知っていた。「僕の家と同じだ。」と笑っていた。切り方も同じ。それに私たちはぶつからなかった。あの二人より、体が大きかったのに。
相手がどこにいるか、何をしようとしているのか感じることができたのだ。背中を向けあいながら、すれ違い、私の頭越しにオーブンを開けたロバート、ずっと一緒に暮らしていたような私たち・・・。
ロバートと私は、出会った時から、互いの片割れだった。互いの一部だった。奇跡の愛だったのだ。
そう、奇跡・・・。
そんな愛はめったにない。ロバートをこの18歳の青年と比べることはできない。私たちは、特別なのだ。
キャロラインたちは、今のように、教えあい、話し合い、ぶつかり合いながら、愛を築いていけばよい。
ねえ、ロバート。私たちの固い絆は、あの子たちには、まだない。何かあると、ほどけてしまうようなものしかない。でも、やはり、知り合う前には戻れない・・。
愛し合っているのに、そばにいられないのは、どんなにつらいか・・・、私たちほど知っているものはいない。それが未熟な愛でも・・・。
夕食が終わった時、私は二人に「賛成」と伝えた。バドは不機嫌な顔で無言になった。食べているとき、マットと、新型トラクターのことで、あんなに盛り上がっていたのに。
マットを見送りにポーチに出ると、満天の星空だった。
「あの星座は、なんだっけ?あの。くっついて輝いているの?」
キャロラインは、私を凋落したことではしゃいでいた。父は母しだいで、どうにでもなると思っているのだ。
マットは、正確にいうのが好きな性格。
「星座の星は、くっついてないよ。少なくても何千光年も離れている。地球からみたらそばにあるように、見えるのさ。それに、もう、あの星はないかもしれない。光が届いてるだけかも」
「もう、ロマンチックじゃないんだから。」
二人をポーチに残したまま、私はキッチンに戻った。バドはテーブルで新聞を見ている。
洗い物をしながら、星座の話を思い返していた。
ロバートが言っていた。「星座のように離れはしない」
でも、宇宙の向こう側で見たら、星座は離れ離れなのだ。今の私たちのように。
地球でしか星座になれない星たち。宇宙からみたら一瞬だけ共に輝いている星たち。
ロバート、あの時固く抱き合い、あの時だけ輝いた私たちみたい。あの時、あの4日間だけ、ここでしか見られない星座のような奇跡的な愛だった。
でも、離れ離れになっても、愛は輝いている。星のように・・・、そうでしょう。
ロバート・・・。
「何か、言ったかフラニー」
バドが私を見ていた。声に出して、ロバートの名前を言ったらしい。
私は声を出さずに首を振った。
涙があふれそうで、声がくぐもったようになるのが怖かったから。罪の意識が小さく心に刺さったが、ロバートを想う気持ちが止められなかった。
次の日、マージにお茶に呼ばれ、バドの本心がわかった。
マットの知識と数字に強いところは、農場の後継ぎとしては、申し分ないのだが、娘を18歳で結婚させるのは・・・、でも、今、捕まえておかないと、彼以上の婿はこない。でも・・・。
の繰り返しだそうだ。
そうと分かれば、作戦は単純。
マットは暇があればバドにつきまとい、共に作業し、農業の話をした。マイケルとはできなかった男同士のつきあいに、とうとう言ったのだ。
「この農場を引き継いでくれるなら、賛成」
花婿花嫁の次に喜んだのは、同居を回避できたマイケルだった。