マディソン郡の橋  妄想16フランチェスカ9 | えみゆきのブログ

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涼風真世さんのファンです。
パロディ小説を書いています

そして、今、結婚式が始まろうとしている。

マイケルも、時間に間に合い、バドと笑って話している。チャーリーもマージも盛装が別人みたい。私のドレスも、息子が褒めてくれた。

 

でも、一番はキャロライン!

なんてきれいなんでしょう。抱きしめた私に、キャロラインが質問した。

「ちっとも、緊張しないの、どうしてかしら。母さん!」

私は答えた。

「それは、正しい結婚だからよ。」

 

私はバドと結婚するとき、緊張していたが、今、思えば、それは不安だったのだ。

未来に対する不安だと思っていたが、結婚相手に対する不安だった。

自分が、本当に愛しているのか、愛されているのかという不安・・・。

 

ロバートと飛ぼうと言われたとき、互いの気持ちに何の疑いもなく不安もなかった。共に、生きていく相手と知っていた。

ただ、それができないという絶望だけがあった。

 

キャロライン!あなたたちには愛がある。二人でいく未来は目の前に広がっている。

正しい結婚よ。

私たち一家は、ひとつのフレームに納まり、カメラマンに笑顔を向けた。

 

結婚式は、華やかに終わり、二人は新婚旅行に旅発った。

翌日には、我が家に泊まっていたバドの兄一家もマイケルも去り、いつもの農場に戻った。

バドと二人だけの家・・・。夕食の会話は弾まず、階段を走り降りる音もない。8時には、明日は早いからとバドは寝室に行き、私はひとりで、洗濯したリネン類をたたんでいた。

「キャロライン、そっちを・・・」シーツを広げたが、娘はもういない。

 

それを確かめるかのように、私はキャロラインの部屋に行った。

部屋はもう主がいないのを知っていた。ピンクのカーテンは色あせて見え、壁のポスターの中でカウガールがむなしそうに笑っていた。ベッドの上には牛のぬいぐるみが横になり、ポツンと天井を見ていた。あの子が小さい時、大好きだったぬいぐるみは新居には、持っていってもらえなかった。

置いて行かれたぬいぐるみ・・・。静まり返った家の中で、私も置いていかれた気がする。

 

もう、子供たちは、ここにいない。里帰りにくるだけ。私を誰も必要としない・・・。私はひとり・・・。

 

気が付くと私は、ダイニングで、電話のダイヤルを回していた。ナショナルジオグラフィックの電話番号を。

呼び出し音が一度鳴ったとき、怖くなって受話器をおいた。

 

私は何をしているの。寂しいからロバートに助けを求めるの?生きがいを無くした寂しい中年女が、「愛して!」とすがるの?

いいえ、私は飛ぶの、ロバートのもとへ。彼は私を待っているはず。そうよ、きっと!

ロバート!私は、飛べる!今こそ飛ぶ!

 

幾度、心の中で叫んでも、ただ、電話を見つめるだけで、動けなかった。見つめていれば、ロバートに、電話が通じるかのように見つめていた。

勇気を出さなくては!息を飲み、ゆっくりと、私は受話器に手を差し出した。その時、電話が鳴った。

 

私は混乱した。ロバートなの!ナショナルジオグラフィックの人!いえ、いえ違う。

 

恐る恐る受話器を上げると、元気な大きな声が私に、呼びかける。

「母さん、母さん!

キャロラインだ。無邪気な幸せそうな声。

「今、ホテルに着いたところ。寄り道したから遅くなっちゃった。あのね、途中の街でロデオ大会をしていて・・・」

そこで、キャロラインは、4年前の品評会で憧れていたカウガールに会ったという。

「あの人、優勝したんだよ。すごいでしょう。」

「ええ、そうね。」

「それでね、母さん・・・、ありがとう。」

「えっ」

「私・・・母さんの娘でよかった。母さんは私の誇り、本当にありがとう。」

それだけ言うと、電話は切られた。受話器からはツー、ツーと音がする。それを握ったままの私の頬に涙が流れ落ちる。

 

「母さんは誇り」

キャロラインの涙声が、体中に繰り返し響く。それは母として、最高の勲章。嬉しさで胸がいっぱいになる。

 

でも、もう電話はかけられない。もう、飛べない・・・。

 

 

その年のクリスマス前、チャーリーが亡くなった。

心臓発作だった。農地のほとんどは近くのマージの弟が借りることになり、後継者ができて張り切っているバドは、自分の農場に近い農地を買い取った。

後で、バドはボソッとつぶやいた。「あそこは、チャーリーが苦労して、いい畑にしたんだ・・・。俺も手伝った。」バドにとっては、チャーリーの形見の土地だった。

 

マージの子供たちは、新聞記者と教師をしていて、ふたりとも、自分の近くに来るようにすすめていた。あまりに、母の悲しみが深く、心配していたのだ。

だがマージは、ここを離れようとしなかった。

 

3か月というもの、マージはただ泣いていた。食事もほとんど作ろうとせず、私は、毎日のように料理を届けていたが、半分も食べてくれなかった。

そんなある日、いつも通りにマージを訪ねると、家中に甘い香りが広がっている。

テーブルの上には本が幾冊も広げられていた。

 

「フラニー、来てくれたのね。もう少し、待ってね。ケーキが焼きあがるから。」

元気な声がキッチンから聞こえてくる。

 

驚いて、テーブルの本を見ると、ナショナルジオグラフィックだった。

マージが、笑いながら話してくれた。

 

いつものように、ダイニングに座っているとき、ふとしたことでマガジンラックを倒してしまった。床に散らばった本にクリスマスカードが、はさんであるのに気が付き、そのページを開いてみたという。

 

「それがね、フラニー、ベルギーの街並みの写真で、カードをはさんだところを見てみて!」

ケーキ店のウィンドウに飾ってある、艶々としたチョコレートケーキが、おいしそう。

「おかしいでしょう。私がチャーリーの心臓に気付かなかったと、自分を責めていたのに、あの人、最後まで甘いもののこと考えていたのよ。」

 

それから、郵便で届くナショナルジオグラフィックが入った封筒を開けていったという。

チャーリーが亡くなってから、見る気もせず、そのままにしていたのだ。

「写真をみながら、頭の中でつぶやくと、チャーリーが返事するの。なんかね、私、世界のはてを双眼鏡で覗いているみたいで・・・。夢中で見ていたら、チャーリーが言うのよ。今日のケーキはって。いつも、私が双眼鏡で見ていたら、言ってたように・・・。それで作ったの。食べていってね、フラニー。」

お茶の支度に、キッチンに行きかけたマージが、心配そうに振り向いた。

「ここにいない人と話してるなんて、変に思わないでね。」

私は「わかるわよ。」と返事した。いつもロバートと話をしているもの。いまも・・。

 

それにしても、ロバート!あなたは優秀なカメラマンなのね。マージを元気にしてくれてありがとう。

 

ベルギーの街の写真は、撮影・ロバート・キンケイドだった。