音楽140 〜Little Girl Blue (前編) | Remember Every Moment

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(人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない…。)

Ain't No Fun  Snoop Doggy Dogg
ヒップホップは食のカテゴリーのように、地域性というかご当地グルメのようなものがある。NYのブルックリン、シカゴのような都市や区画(ボロー)でも分かれるが、大まかに西海岸と東海岸、サウスといったもので音に明確な特色がある。関西風と関東風、沖縄料理みたいなものだ。そして、西海岸と聞いて最初に思い浮かぶWestCoastアンセムはこれだろう。

ビッチという言葉は昭和の時代よりコンプラの浸透した今のほうが当たり前に使われている気がするが、Motherfuckin'と並んでそのBitchが使われまくるこの曲は、いわゆるGファンクというもの。Dr.Dreがこの頃にプロデュースした一連の曲で聴くことができるレイドバックしたビートにゆるいキーボードの音、その裏にファンク・ミュージックのサンプリングが埋め込まれたサウンドだ。
ヒップホップは90年代にR&Bと一体化し、商業化が進んだが、ヒップホップがR&Bシンガーの曲の客演扱いにならず、歌モノの要素をいれたのも西海岸ヒップホップの特徴だろう。"Ain't No Fun"の最初のヴァースはNate Doggで、スヌープの従兄弟にあたる客演シンガー。オートチューンの普及を経て、最近のヒップホップはラッパー自体が歌う要素が増えたが、その起源はこの曲にある気がする。西海岸の青空のように爽やかなサウンドに、このネイト・ドッグのメロウな歌声のフロー。Dr.ドレーの90年代のGファンクにはスヌープのラップが欠かせないが、Ain't No Fun"に関して言えば、ネイト・ドッグなしに成立しないだろう。ラップに関してもこのトラックはスヌープより客演ラッパーのほうが目立っていて、個人的にはカール・パーキンスの50年代ロック古典「ブルー・スウェード・シューズ」の一節を替え歌にしてWarren Gが"One for the money, two for the bitches"とリズミカルに韻を踏んでいくパートが好きだ。

Little Red Corvette  Prince
コルヴェットといえばシボレーのアメリカン・スポーツカーで、プリンスといえばエロティックなイメージ。なので、英語の詳細がわからなくてもこれだけで曲のイメージがどんなものかは想像つくだろう。まあ要するに小さな赤いスポーツカー=かわいくてセクシーでほんぽう女の子で、それを乗りこなしたいということ。この曲はプリンスの代表作『パープル・レイン』よりも前のアルバムで、タイトル曲がこれまた代表作の一つ『1999』からの2ndシングルで、チャート的には全米6位までいったこちらの方が表題作よりヒットしています。
イントロは静かに呼吸するようなリン・ドラムLM-1の打ち込みビート。ファンクでありながら実はビート・マシンのシンセ・バラードにロック風のギターという、詩と同様にいかにもプリンスの代表曲なサウンドですが、ギター・ソロはプリンス本人ではなくバンドメンバーのデズ・ディッカーソンによるもの。プリンスは天才ミュージシャン=マルチ・インストゥルメンタリストというイメージを持ち過ぎると、その本質や名曲の良さを味わえないと思っているが、この異色にして出色のバラードもその一つだろう。生のドラムの代わりに打ち込みというのがミネアポリス・ファンクの基盤で、ベース・ラインの印象が薄く(比較して例えばGファンクの方は腰にくるようなシンセ・ベースが入る)、バンドメンバーに歌や演奏を任せてコントロールしているのもプリンスのミュージシャンとしてのパワーだ。

Driven to Tears (Live)  The Police
80年代にはどこか性急感というか焦燥感にかられたようなビートと歌詞を持つ曲(例えばU2) が出てくるが、これも方向性ではその路線の曲。これが90年代になるとカート・コバーンの"Smells Like Teen Spirit"のようなグランジになるが、80年代のポリスの場合は演奏力の高さ、技巧にスティングの知性が加わってこのようなアウトプットになる。


ビートや隙間を残したギターはレゲエ由来なのだが、そこはパンク・ロック後のシーンに登場した超実力派のバンドだけに、ジム通いのワークアウトのような仕上がりだ。また、パンク・ロックは基本アンチ・ギター・ソロだが、この曲はアンディ・サマーズのギター・ソロが入る分、逆にさらにメッセージ性を強めている。


People Have the Power  Patti Smith
こちらはNYパンク・ロックの女王パティ・スミスのカムバック作にして代表作の一つ。タイトルに"Power"が入っているから、というわけではないだろうが、サウンドとしてはパワー・ポップ風の構成で、パンク・ロックらしくギター・ソロがない。その代わりにパティ・スミスによる力強いアンセム風の大サビが入り、とにかく高揚感のある曲だ。



The power to dream to rule
to wrestle the world from fools
夢みる力、律する力
愚か者から世界を取り戻すために闘う力

3回目のサビからこのフレーズを経て"Listen"と叫んでからの大サビで「世界を回して革命だってできる」を聴かせるところは本当に力強い。かといってこれが暴力的だったり政治的でない、精神的な解放や力であるのは、どこか透明感のあるオリジナルのサウンドや"Because the people had their ear (人には耳があるから) "という歌詞からも明らかだ。だから、この曲がチャリティーのゴスペルで歌われても不思議はないが、そこに本人が現れて歌ったりすることがあったりすると、マイケル・スタイプでなくてもパティ・スミスの魅力に取り憑かれてしまうだろう。(上の動画の唯一の欠点は、コーラスに熱が入りすぎて最高のラインを掻き消してしまっているところだか)70歳のパティ・スミスはPeopleを讃えることを忘れない。

My Back Pages  Bob Dylan with Roger McGuinn, Tom Petty, Neil Young, Eric Clapton & George Harrison
なんか適当にロックンロール界の大物の名前を並べたような面子だが、1992年のボブ・ディラン デビュー30周年記念ライブで"My Back Pages"を披露した時のメンバー。
冒頭を飾るのはボブ・ディラン作のこの曲を同時代にカバーして、ある面ディランのバージョンよりポップに有名にしたバーズのロジャー・マッギン。演奏のアレンジ、メロディーとテンポはバーズが60年代にやったリッケンバッカー12弦のエレクトリックなアルペジオをきらきらと響かせたフォーク・ロックで、2番目の頭髪の後退したトム・ペティをはさんで3番目がニール・ヤング。いつもの少年のように純粋な声で歌った後の最初の間奏はエリック・クラプトン。あまり個人的に好みではないスライドとチョーキングを用いたクラプトンのギターが終わると続くヴァースもクラプトンが歌唱。そのあとに続くまだツヤのあるしわがれ声のリードはディラン本人(大きな拍手)。続くヴァースはプリンス並みに紫なジャケットを羽織ったジョージ・ハリスンで、その後の2回目の間奏のギターはニール・ヤング。片足を前に踏み出して前傾姿勢で体を揺らしながらノイズのようでメロディアスな特徴のあるギター・ソロを終えると、そのままコーラスも楽しそうにワンフレーズ歌って、最後はロジャー・マッギンの12弦ギターのストラムでフィニッシュ。圧巻です。


さすがにすごいですね。これは。まさにロックの歴史で、声やギターの音で自分を語れるというか、映像をみなくても誰だかわかる。


One More Cup of Coffee  Bob Dylan with Emmylou Harris
70年代半ばにディランがリリースした曲で、デュエットしている女性はアメリカのカントリー畑で有名なエミール・ハリス。ではカントリー風の曲かと言えばそうではなく、物哀しくジプシーっぽいメロディー。それに情熱的なる華を添えているヴァイオリンはこれにディランが道端の通りすがりでたまたま車から声をかけて、スタジオに連れてきた(ついて行った)基本的に無名のヴァイオリニストを起用したもの。

『Desire』のセッションでは、ディランはまったく指示を与えてくれませんでした。No directionでした。No direction home(笑)。ですから、いったんスタジオに入ったら、まさに「泳ぐか、それとも沈むか」という状況だったのです。ですから私は「泳ぐ」ことにしました」-スカーレット・リヴェラ


No direction homeはもちろんディランの代表作"Like A Rolling Stone"の一節で、ディランの放置プレイとかけて笑いを誘うものだが、同時にいかにもディランのレコーディング風景らしいともいえる。このエピソードと特徴的な民族音楽(というか異教的)のメロディーで、本来大物のエミール・ハリスを一瞬忘れてしまうが、このデュエットのしかたもたいがいで、はっきり言ってずれている。それでも不思議なもので、それがディランの淹れるコーヒーの絶妙なブレンド、コクのある深みにつながっている。


Pastime Paradise  Patti Smith

パティ・スミスをもう一杯。といっても、曲はスティーヴィ・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』に収録の曲のカヴァー。

原曲はスティーヴィらしいメッセージを中期ビートルズ風のストリングスとどこかポール・マッカートニーっぽいメロディーで歌い上げるもので、ビートの出来もよくループさせやすい構造のため、90年代の一発屋ラッパーのイメージがあるクーリオがこれを使ってヒットさせている。

パティ・スミスはビートの感じやメロディーは原曲に近いが、トラックのベースはピアノで、ヴォーカルはスティーヴィの歌唱力に敬意を払うかのように質が高く全体として怪演だ。


Little Girl Blue  Nina Simone

1月から2月にかけて、僕は会社の決算作業を遂行していた。仕事中に集中したり鼓舞する音楽が必要なタイプの自分は、今回ネット経由で掘り当てたニーナ・シモンのデビュー・アルバムの表題曲に感銘を受けて聴いていた。

作業をしている時は、深く潜るような落ち着いたサウンドがどこかで欲しくなるが、この曲のイントロの子供の弾くようなシンプルな単音から豊かに広がるピアノとヴォーカルはなんともいえない感覚に触れていた。印象に残るものは何かを拝借したものが多いが、実はこのイントロのメロディー、"Good King Wenceslas (慈しみ深き王ウェンセスラス) "というクリスマス・キャロルを引用しているのだ。



キャロルはこんな内容だ。

凍りつくような冬の祝祭日の夜に、城から困窮した農民を見た王が、小姓にその状況を尋ね、哀れんだ王が肉とワインと薪を持っていこうとする。

しかしその道は真冬の厳しさで、小姓が根をあげてしまう。

王はそれを叱責することなく、少しはましになるだろうという気遣いで、自分が先に進むからその足跡を進むように言う。

そうすると、いつしか雪が溶けていくという奇跡が起き、温かさが生まれる。




"Little Girl Blue"はそもそもニーナ・シモンのオリジナルではなく、サーカスを主題にしたブロードウェイ・ミュージカル『ジャンボ』の一曲。それに「慈しみ深き王ウェンセスラス」のメロディーをのせて別解釈のなんとも前向きな素敵な曲にしてしまうセンスは素晴らしい。そのまま聴いていてもクラシカルで素晴らしい曲だが、背景を知ると、自分がなぜこれほどまでにこの曲に魅了され、ここ1番の勝負曲のように聴いていたのかがわかった。


OMG  NewJeans

ポップなメロディーだが、不思議なリズムの構成な曲という印象。



サビの部分は今風にトラップのビートだが、それ以外は2ステップのようなディスコ風で、カウベルの音とリズムをかなり効果的に多用している。前回avexが5年かけて送り出したXGの"Left Right"を取り上げたが、K-Popは思った以上に先に進んでいるのかもしれない。

でもトラップってそろそろ20年モノになりそうなビートなんですよね。スニーカーブームとかもそうだが、流行の本当の最先端は、いつの時代も最先端の形のままなのかもしれない。


Only Love Can Break Your Heart  Neil Young

ニール・ヤングの曲は変則チューニングを用いたものもあれば、レギュラー・チューニングで開放弦の響きを生かしたシンプルなコード・ストロークとメロディーで成立させるものがある。

ニール・ヤングの中でも名盤『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』の3曲目にあたるこの曲は後者で、ピアノとのアンサンブルにニール・ヤングの少年のような声が調和する。シンプルなピアノ表現だけでも十分名曲扱いされたのかもしれないが、やはりこれはギターの中から生まれたコード進行だろう。


Ether  Nas

史上最高のディス・ソングというランキングがあれば、間違いなくTop10入りしそうなラップ曲。攻撃対象はイントロの銃撃音の後から全編要所でリピートしている"Fuck Jay-Z"で、Jay-Zの"Takeover"への報復だ。

ディス・ラップの詳細はずっと以前に"Takeover"のところで書いたのだが、トラックは圧倒的に"Takeover"の方が強力で、Nasの"Ether"はヒップホップでいうWackなサウンドで、それだけで圧倒的に不利だ。しかしリリックとディス・ラップのスキルははっきり言ってNasの方が上。デイモン・ダッシュに絡めてパフ・ダディに流れ弾を浴びせつつ、ぐうの音も出ないパンチラインを次々に繰り出して、最後には試合を終わらせるゴングの音が聞こえるかのようです。


Renegade  Jay Z feat. Eminem

Eminem murdered you on your shit

オマエの曲に客演したエミネムのほうがオマエより上手かったなw

How much Biggie's rhymes is gonna come out your fat lips?

あとどれくらいビギー(ノトーリアスB.I.G.)のパクリライムがオマエのタラコ唇から出てくるかなw


完敗ですね。ゲイZさん・・。とはいえ武田信玄に脱糞させられた徳川家康が織田信長、豊臣秀吉の下で辛抱しながら天下を獲ったように、Jay Zはなんとか体面を保ってこのバトルを終わらせて、Nasとも和解をしたのであった。


I Will  Namie Amuro

前回の時に"Wishing on the Same Star"の前に配置しようとしていましたが、つながりが悪かったのでここに。安室奈美恵の低セールス時のシングルで、アメリカの方でもその頃結構みられたオリエンタルな響きのR&Bに、J-Popらしいストリングスを多量に摂取した感動的で壮大なバラード。

TKから離れてエイベックス周辺のライターやプロデューサーを起用するようになっていますが、静かな歌い出しから顕著に熱のこもった歌唱をみせたこの曲は、過去との惜別、珍しく垣間見せているようなプライベートな感情、新しい方向性といった要素の詰まった曲といえそうです。