音楽140 〜Little Girl Blue (後編) | Remember Every Moment

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(人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない…。)

白いカイト My Little Lover

90年代の音楽が魅力的なのは何も海外のものに限らないかもしれない、と思っている今日このごろ。スマホはもちろん、携帯もそんなに普及していなかった時代だから、空いた時間はタバコを吸う人が多いし、CDがとにかく売れた時代でカラオケが娯楽の主流だったから、日常の隙間を埋める音楽を求める人が多く、ミュージシャンになりたい人もまた多かった時代なのだろう。

マイラバの「白いカイト」が出たのは僕が高2の夏の時で、ダウンタウンの松本さんに「デートの帰りですか?」って言われていた時代。プロデュースというのが音楽面だけでなくキャラ設定の方に発揮されたのもこの時代だが、ミスチルで大成功を収めていた小林武史がakkoとギタリストの藤井謙二というパレットと絵の具で自分のやりたいポップ・ミュージックを作っていたのがMy Little Loverというプロジェクトだったのだろう。「白いカイト」の場合は夏がまだ終わらないうちに次の"Hello Again"がリリースされるという短距離ランナー路線の売り方をしていたが、今聴くと前者の方も意外とギターが鳴っている。


Hello Again 〜昔からある場所〜 My Little Lover


(フォーク・ロックの括りの"Hello Again"の方が間奏はシンセ・ソロで、こちらはしっかりとギター・ソロ。)


アレンジはいかにも小林武史らしい分厚い音で、キーボードとホーンが全体を覆っているが、イントロからリズムを刻むギターはなんとなく渋谷系のようで、根源的にはバディー・ホリーのようなからっとした50年代的なリズムだ。女性が子供の頃に持つような少年っぽさは歌唱力と声質のなさを隠すためのエフェクトの副産物のようだが、2番煎じに長けたビーイングがZARDの次くらいの位置付けで送り出した小松未歩はakkoと同じようなヴォーカル処理をしている。

少し時代を先取りしたアイドルの夏曲のような感じと、アメリカのポップスのようなアレンジ、小林武史というプロデューサーから感じられるUKっぽさ、デジタルからアナログへ向きを変える直前のような感じと、プロとしては歌唱力がないものの上下に動く魅力的な声質、根底にあるギター・バンドとしてのリズム。この辺が非常にうまく仕上がったのがこのヒット曲だが、リリースされたばかりの頃にこの曲を当時男子高校生が買うのは、hitomiの"CANDY GIRL"のシングルを買うのと同じくらいの恥ずかしさだった。"Hello Again"は洋楽志向や音楽的な難しさを表面的に感じさせなかったせいか、akkoと同性の支持があったが、僕も流行通りに普通に買った、最初で最後のシングルかもしれない。


Speechless  Michael Jackson

ジャクソン5の「アイル・ビー・ゼア」、ソロとしてキング・オブ・ポップとなったあとも"Heal the World"と、マイケル・ジャクソンには聴くものに「なんと言われようとこの人は絶対に悪い人じゃない」と思わせる美声バラードがある。

結果的にマイケル・ジャクソン最期のオリジナル・アルバムになった『Invincible』に収録のバラード"Speechless"はその路線の曲。マイケル自身でも自信作でお気に入りだったようだ。作曲はもちろん、プロデュースもマイケルのセルフ・プロデュースで、全体としてディズニーのようなピュアな世界観を出したかったのだろう。

僕が子供の頃、アメリカ人に象徴される外国人はみな積極的で自信に溢れ、自分の思うところをはっきり伝える、というイメージがあったが、マイケルがかつて所属していたモータウンのミュージシャンのヒットソングは歌詞的にどこかなよなよしたものがある。この曲も冒頭から


Your love is magical

that's how I feel


とあるが、現実ではspeechless、言葉にできないとなってしまう。それでもそこから伝わるメッセージは、とてもポジティブなものだ。


Speechless  Naomi Scott

映画『アラジン』でナオミ・スコットが歌ったこの壮大なバラードは、令和の「Let It Go」という趣き。タイトルはマイケル・ジャクソンと同じで、静かな導入(アコースティック・ギターとオーケストレーションではなく、こちらはピアノ)も共通点だが、途中からメッセージが変わる。こちらのspeechlessの意味は『花咲舞が黙ってない』的な意味でのspeechlessだ。


映画『アラジン』のシーン🎬

ナオミ・スコットが連行、歩く先にカメラがあり、動きながら撮影しているためダイナミック。一発録りだそうです。


渋谷で5時 鈴木雅之&菊池桃子

1月の決算作業での最長勤務時間は午前2時過ぎに本社ビルを出た時だが、家は電車で1時間以上かかるので帰るのは現実的でなく、かといってタクシーなどは断じて使いたくなかった自分はとりあえず渋谷まで歩いていた。

幸いあまり寒い日ではなかったので、コンビニに立ち寄りながら渋谷に着くと、もう始発が動きそうな時間になっていた。銀座線の始発はだいたい朝5時。同じような考えで始発を待って家に帰ろうとする人がいる中、僕は「渋谷で5時」という往年の90年代の迷曲を朝の5時に聴きながら銀座線のシートに座り、しばしの休息をとった。

渋谷で5時を朝の5時に渋谷で聴く、というこの体験で、すっかり愛着の湧いたこの曲。PVは下手な芸人のコントなんかよりはるかにおもしろい。ちょっと怖いイメージの「サングラスの鈴木さん?」が渋谷のカフェの打ち合わせでさりげなく「クリームソーダもう一杯」を頼むところは、暗黒武術会でオレンジジュースを頼む戸愚呂弟のようで笑える。



Special Delivery 〜特別航空便〜 竹内まりや

かなり前からリストに上げる予定が今になって、クリスマスのシーズンを過ぎてしまった。竹内まりやのクリスマス・ソングといえば全盛期キムタクの名前を歌詞にした「今夜はHearty Party」の頃からタイアップしているケンタッキーのCM曲のイメージが強いが、60年代風のリズムとアレンジがなんともかわいいこの曲が最高だ。前述のニーナ・シモン曲と同様、クリスマス曲をベースにしていて、これは誰でも知ってる"Santa Claus Is Coming to Town (サンタが街にやってくる)"の引用。そのイントロからJ-Popらしい歌謡曲のメロディーと歌詞、山下達郎らしいコーラス・ワークとハンドクラップを添えてエンディングに戻る。できればCMとかに使用されず、シティ・ポップ・ブームの中にも入らず、いつまでもピュアなままの曲であってほしい。


サイレントマジョリティー 欅坂46

こちらもハンドクラップが多用されているが、昨今のJ-Popのテンポはバラード系でもいわゆるBPMが早い処置がとられるのでもちろん印象が違う。アコースティック・ギターとの組み合わせでフラメンコ風にも聴こえるが、ロザリアのようなアーバン・フラメンコの先取りのようにも思える。

普通に聴いてもそこそこいい曲だが、これは音楽だけ聴いてもそこまで良さはわからない。やっぱりPVありきのタイプの曲だと思う。


再開発前の渋谷の工事現場をロケ地にしたダンスシーンは今みるとかなり稚拙にみえる。ほとんどのメンバーがまだダンス経験が少ないせいだろう。腕を振り回したり手を伸ばす動作の多用は「世界観」というより簡単な振り付けでエキセントリックかつダイナミックに見せるのが目的。そして「モーセの十戒」と称される、平手友梨奈がメンバーの作る左右の列の真ん中をまっすぐに進む振り付けは、実際にTAKAHIROがドラクロワの『民衆を導く自由の女神』の絵を見せて「これをイメージして歩いてください」と指示したらしい。



つまり、印象的だが決して難しいリクエストではない。そのアイデアと素材の集合体がうまく噛み合った結果が「サイレントマジョリティー」で、夜の工事現場だけでなく、最後に明け方の坂道(坂を登り切ったインフォスタワーに勤めていたことのある自分はすぐにさくら坂とわかる。ここだけは当時と変わらない)を前に一列に並んだカットを入れるのも秀逸なアイデアだ。


Ob-la-di Ob-la-da / Don't Let Me Down (Live)  The Beatles

どんな曲でも名曲扱いされ、それにまつわるエピソード(うんちく)に事欠かないビートルズにあって、「オブラディ・オブラダ」はワースト・ソングに挙げられることが多い。村上春樹が紹介したことで有名になった「人生はブラジャーの上を行く」という誤訳も非常にくだらない。

だが、僕はジョン・レノンが基本好きであり、ポール・マッカートニーの作るメロディーにはやっぱりいいものがあると思っている。後者はこの曲でいえばベース・ラインで、前者はイントロのピアノだ。よく知られているエピソードの通り、"Paul's granny music (ポールの退屈なおばあちゃん音楽)"とけなしていたジョンは、ポールがセッション・ミュージシャンを雇ってまで録音したヴァージョン(アンソロジー3に収録されている。悪くないのだが、あのベース・ラインがない)をボツにして、さらに何度もレコーディングを繰り返すのに嫌気がさし、ある時トリップ状態でやってきてやけ気味にピアノを叩きつけるように演奏し、それが採用されたというものだ。

僕はここ2ヶ月、決算絡みの仕事で正直どうでもいいと思うようなことに時間を割いたり、逆に本当はもっと手をかけたいのに諸般の事情で適当に仕上げて出したものが何事もなく承認され、ケチもつかなかったことがあった。その仕事の中には、まさにジョン・レノンがピアノを叩きつけたようなものがあったはずだ。というわけで、僕はこの曲に多少思い入れがある。あと、もう一つ気に入っているのは"Desmond says to Molly, "Girl, I like your face"という歌詞。反ルッキズムの時流に逆行するようなフレーズは、正直異性を好きになる過半数の理由だと思うし、その感情を押さえつけるのはよくないと思う。

『サージェント・ペパー』とは違う理由でレコーディングが長くなった『ホワイト・アルバム』のあと、ビートルズはライブ・レコーディングの一発録りを掲げて『ゲット・バック』の制作を進める。そのセッションでジョン・レノンが用意したのが"Don't Let Me Down"。基本的にシンプルにタイトルのコーラスを繰り返す曲だが、ギターでこの曲を弾いた経験があれば、"I'm in love for the first time"からのパートのバックでベースとユニゾンで弾かれるリフがサイレントマジョリティーの振り付けのようにシンプルでありながらインパクトの強いことがわかるだろう。ストレートなシャウトのコーラスとビリー・プレストンの流れるようなキーボード・サウンドはもちろん聴きどころだが、ビートルズ独特のギター・サウンドが最大の持ち味で、(特にそっちの方はジョセフ・ジョースターのように聴かないが)表題作のシングルにもそれと同じことがいえる。