音楽119 〜Kiss Lonely Good-by | Remember Every Moment

Remember Every Moment

Live your life filled with joy and wonder!
(人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない…。)

Get Free (Live)   The Veines
世の中にどれだけ多くの情報が蓄積されていようと、その時代を生きた人にしか知らない情報は存在する。それはジェネレーション・ギャップにもなれば、その世代にしかわからない貴重な体験にもなる。

ザ・ヴァインズはたぶんそんなバンドの一つだ。2000年初頭はレディオヘッドの『OKコンピュータ』〜『KID A』の反動からか、かつてのパンク・ロックを思い起こさせるようなストレートなバンドが多数登場した。有名なのはストロークスだが、南半球のオーストラリアから颯爽と現れてロック史に爪跡を残したのがクレイグ・ニコルズ率いるこのヴァインズだった。

ヴァインズのサウンドは「ニルヴァーナ・ミーツ・ザ・ビートルズ」と称される。この直球すぎてふつうは使いづらいキャッチコピーは、もう「これ」と言わざるを得ないほどである。が、このヴァインズと同世代を生きた者なら、ヴァインズにはもう一つキーワードがあるのをぜったいに知っている。マクドナルドだ。衝撃の1st アルバムを引っさげて世界のロック誌に登場したフロントマンのクレイグ・ニコルズは、オアシスのギャラガー兄弟を超えるインパクトだった。

When was the last time you got in a fight? 
最後に暴れたのはいつですか?

About twenty minutes ago,
20分くらい前だ
checking into the hotel. Somebody told me there was a McDonald’s in the hotel and there wasn’t, 
ホテルにチェックインしたんだ。誰かがそのホテルにはマクドナルドがあるって言ってたんだけど、なかったんだよ。
so I started shouting at him, and then I was shouting at some other people, and then I was rolling around on my back in the parking lot.
だから、俺はそいつに叫び出して、それから誰彼かまわず叫んだ。そんで俺は駐車場に寝っ転がっていた
 Somebody said, “Sir, do you want to move?” I said, “If I wanted to move, I fucking would!” 
誰かが「お客様、移動していただけないでしょうか?」って言うから、「動きたくなったらそうしてるよ」と逆ギレした。
I needed to reflect on the pavement. 
俺は路上で物思いにふける必要があったんだよ

完全にやばい奴だが、僕と同世代なら、もっと笑える鉄板のマクドナルドネタを覚えている人がいると思う。このクレイグ・ニコルズは2nd アルバムまではぎりぎり破綻しない程度の神経を保っていたものの、2nd アルバムが1st アルバムほどのインパクトがなかったためか、シーンからは消えてしまった。最初にU2のボノを唸らすほどのロック・アルバムを出してしまうのも考えものだ。



この「ゲット・フリー」という、イギー・ポップよりに振れた曲は、ヴォーカルの音程が「多少」ぶっ飛んでいても、ライヴ・ヴァージョンの方が素晴らしい。確か3rd シングルの日本企画盤のBサイドに入れられたヴァージョンは、テンポも切れ具合も最高だ (上の動画とは違います) 。


World Leader Pretend (Live)   R.E.M.
マイケル・スタイプが厳かな威厳をもって歌い上げるこの曲は、R.E.M.が「政治」を意識してリリースしたアルバム『グリーン』のハイライトの1つだ。サウンド的には枯れて深みのあるヴィンテージもののR.E.M.サウンド。デビュー時から変わらないジャングリーなギターのアルペジオとピアノを中心としながら、ペダル・スティール・ギターのせつない音色にチェロを加えるという渋さ。これにマイケル・スタイプがのせた詩とメロディーは明らかにレナード・コーエンを意識したもので、プロデューサーのスコット・リットがマイケルのヴォーカル・テイクを録り直したほうがよかったと思う一方で、結局最初のテイクが採用されたのはその雰囲気が出ていたからだろう。

名曲の雰囲気をもちながら、今ひとつ突き抜けた感じがしないこの曲は、大統領になってしまったトランプのせいで地味に甦った。30 days, 30 songsという、アンチ・トランプ、選挙の日まで毎日1曲ずつ、トランプにNoを言うための企画にこの曲は選ばれた。R.E.M.対トランプといえば、無断でトランプのキャンペーン・ソングに使われた「世界の終わる日」が有名だが、こっちの方がまじめに聴いてみる価値はある。楽器の編成を変えても再現力が高いのはさすがライブ・バンドで、ところによって高音部のキーを変えるマイケル・スタイプもいい。


Kiss Lonely Good-by (Single Ver.)   Stevie Wonder

90年代にスティーヴィー・ワンダーが映画『ピノキオ』のテーマ曲を依頼されて書いた曲。スティーヴィーといえば全盛期は70年代、『ピノキオ』といえばふつう思い浮かべる曲は「星に願いを When You Wish upon a Star”」なので、当然のごとくこの曲はヒットしなかった。が、この曲はその後しばらくしてリリースされたスティーヴィーの60年代から90年代のヒット曲を集めたベスト盤の最後に、「リデンプション・ソング」のカヴァーと一緒に収録された。「リデンプション・ソング」もスパイク・リー監督の映画用のサントラ曲だったが、曲名からわかる通りボブ・マーリーの有名曲のカヴァーなので、オリジナル曲のラストに配されたのはこの曲。モータウン主導のベスト盤の選曲に、スティーヴィーの意思がどこまで反映しているのかは不明だが、それなりのメッセージを感じさせる。




ラインクリシェに導かれて感動的に流れるこの曲は、たぶん複雑すぎて (とくにサビのメロディーに) あまりキャッチーさが出なかったのがチャート上の敗因と思われる。それに、当時のひねくれたリスナーは、90年代のスティーヴィー・ワンダーになど、失礼なことに関心がなかったのだ。実際、いまだってリスペクトされるのは過去のスティーヴィー・ワンダーで、CMのために「フィール・ザ・ファイア」というクソしょうもない曲を書かされ、グラミー賞をはじめとするセレモニーの引き立て役にまわされているイメージが強い。


でも、一般的な評価はどうあれ、この曲に関してはスティーヴィー・ワンダーらしいマジックを感じる。映画という視覚芸術の極地にあるもののテーマ曲を手掛ける、という、盲目のシンガーにとっては実はけっこう無茶振りともいえるお題に、スティーヴィーは2nd ヴァースに僕を心の底から共感させる、素晴らしいメッセージを歌い上げている。


If given a chance to live again

もし、もう一度生きるチャンスを与えられても

I'd change not a single thing

僕は何一つ変えたくはない


身体的にハンディキャップを抱えたり、人知れずつらい経験もあるだろう人が、こんな風に揺らぐことなく歌う。それはちゃんと、ピノキオのストーリーにも合っている。なんでもいいとこどり、自分に都合よく勝ちたい人生がお望みの人なら、とくに響くことはないだろう。そして、この詩に共感する人はたぶんこのあとに続く詩を胸の中に思うだろう。


Cause that little change could sadly mean

ほんの少しでも変わってしまったら、

that you  to me fate would't bring

君が僕に出逢う運命もなくなってしまうかもしれないから


これはよくわかる。これがあるから人生は嫌なことがあってもやっていけるし、人は映画を観て大切なことを思い出したりする。



ところで、久米宏&小宮悦子体制のニュースステーションでこの曲をスティーヴィーが披露し、小宮悦子が涙する、という回があったようだが、僕はその回を観ていない。ニュースステーションといえば久米宏とボノの迷インタビューが有名だけど、ああいう予定調和から外れたところから生まれる波紋こそ、テレビの面白さだと思う。視聴者に媚びを売る番組なんか観たくないし、観たいものだけ観るなら今はネットで済んでしまう。でも、そういう選択肢のなかった時代は不便なようでいて、それなりに面白かったかもしれない。


Somebody's Gotta Die  The Notorious B.I.G.
ビギーの2nd アルバム『ライフ・アフター・デス』の事実上1曲目。とりあえず名盤とされるこのアルバムをまともにレビューしているものを、僕は読んだことがない。
最近のディディー氏のインタビューによると、ビギーはアルバム制作時スランプだったらしい。ダブル・アルバムの中のいくつかに正直そんなにいいとも思えない曲があるのも少し納得だが、この曲はキレている。リル・キムがビギーのトップ5を答えたとき、あともう1曲と挙げたのがこのトラックだった。
ピアノとストリングス、映画のような効果音が目立つこの曲は、ドラマティックスのヒット曲「イン・ザ・レイン」をサンプルしている。



雷鳴と終始流れる雨音はオリジナルにある要素であるが、ピアノとストリングスは違うはず。メイン・プロデューサーはナシーム・マイリックという名のバッド・ボーイ・レコードのヒットメン (P. ディディー氏お抱えのゴーストライター集団) の1人だが、同じ頃にプロデュースしている4KaSTという女性グループへの提供曲“Miss My Lovin'”に近い。バッド・ボーイはサンプル・ネタまんま使いという手法で悪名高いが、意外とサンプルを生で使わず、炙ったりして出してくる方である。この頃はビートもカッコいいしね。



この辺のサンプル・ネタの扱いは、同じ「イン・ザ・レイン」のループを使ったGZAの“Cold World”と比べればよくわかる。サンプルがバックに隠れるほどインストをかぶせてビートをのせる、という手法がこの曲では採られている。その上に乗るビギーのラップ、単なるギャングスタを超えたストーリーテラーとしての才能は、とくに最後、効果音のインパクトに耳を奪われてしまいがちだが、ワル自慢やストリートのリアルというより因果をモチーフにしており、寒気がするほどである。




Forget-me-not  尾崎豊
稀代のストーリーテラーはNYだけにいるのではない。ビギーが殺されたときの年齢は24歳だが、尾崎豊がこの曲をレコーディングしたのは10代最後の頃だ。よく駅前とか路上でパフォーマンスをしている人たちは、尾崎豊を聴いてもまだそれをやる気になるのだろうか?と思う。ピアノ・バラードは本来ハイトーン系の澄んだ声の尾崎豊によく合うが、そこに感情がこもって爆発すると1回限りの絶唱になる。詩も凄くて

初めて 出逢った時 僕は 
ビルの向こうの空を いつまでも 探してた
君が 教えてくれた 花の名前は
街に埋もれそうな 小さな 忘れな草


の部分はもちろんだが、

唯一違う詩で歌われる2番目のサビの部分は「10代のカリスマ」にふさわしい感性でぐっとくる。

時々僕は無理に君を 僕の形に
はめてしまいそうになるけれど

六本木と麻布十番の間くらいにある万豚記で飯を食っていたとき、ラジオから流れてきたこの曲は食事の手を止めるインパクトがあった。歌は街角で聴くとその真価がはっきりわかるときがあるが、この曲はその最もたる曲で、最近感じた逆の例がミスチルの「花火」だった。


世界で一番孤独なLover  乃木坂46
これも乃木坂。センターはA面の「ガールズルール」と同じく白石麻衣なのに、PVのインパクトから橋本奈々未の曲だと誤解する。渋谷〜原宿で撮影されているのが一目瞭然で、とくに白石麻衣のいる宮下公園がいまでは再開発でなくなってしまったのが悲しい。東横線地下化と並ぶ悪行だ。渋谷のあの「再開発」というやつは、街の息の根を止めるつもりでやっているのかとマジで疑いたくなる。原宿の表参道ヒルズは同潤会アパートに敬意を払っていたのにね (上野の同潤会アパートは、直木賞作家になった島本理生の『ナラタージュ』がもっとタイムリーにヒットしていたらもう少し違っていたかもしれないが) 。やっぱり再開発は資本や利権だけでなく、デザイナーや建築家の個性が出なければ最悪だ。自慢の渋谷ヒカリエには渋谷・原宿にあれほどいる外国人観光客がほとんどいない!という点一つをとっても、再開発の魅力のなさがわかる。大成建設が絡んでいると知れば納得のクオリティーだが、新しい国立競技場も酷いものになるに決まっている。



さて、「世界で一番孤独なLover」PVのメインは東急プラザ表参道原宿のミラー張りエスカレーターを場所に使ったダンスシーンで、アレンジは今風でも曲は小室サウンド寄り。音は派手なようでミニマルなのがいい。この曲を取ってもそうなのだが、乃木坂の曲はそれなりに完成度が高く、どこか聴いたことのある要素を意図して入れているのが特徴的だ。そしてやっぱり、1期フロント陣のかわいさは群を抜いている (ごり押し生駒は除く) 。