電磁砲44です。
今回は、先日発生した飯能市立図書館の地絡事故を基に、2023年7月版公益社団法人日本電気技術者協会発行の「電気技術者」の知見を含めて考えたいと思います。
また、「電気技術者」で書かれている設備保守管理についても考えたいと思います。
目次
1、飯能市立図書館地絡停電事故
令和5年12月5日(火)埼玉県飯能市の市立図書館で停電が発生しました。この影響で飯能市立図書館は休館が続いています。
この停電の原因として電力引込から図書館までの高圧ケーブルの地絡によるものと報道されています。図書館自体は17日から業務を再開したい方針がXに投稿されています。このような状況になると復旧までにかなりの時間を要します。
(なお、図書館に入る他の施設に関してはそれ以前に再開するようです)
飯能市立図書館および市内全館は建物停電のため、12月5日(日)から臨時休館しておりますが、飯能市立こども図書館、富士見分室、名栗分室は、12月10日(日)から再開館します。
— 飯能市立図書館 (@hannolibrary) December 9, 2023
なお、飯能市立図書館の再開館は、今のところ12月17日(日)を予定しております。
詳しくはhttps://t.co/YT2kvsIkxy
飯能市立図書館は、2013年3月の竣工で今年で築10年になるモダン建築物です。
これは想像になりますが、この時期ではCVケーブルの「更新推奨時期に満たない高圧ケーブルにおける水トリー現象」発生の時期と重なります。このケーブルが該当ケーブルだったのではないかと思われます。
たしかに、施工に問題があった可能性も否定できませんが、この規模の公共建築物であれば、かなりの施工管理もされていたと思われます。
2、当該ケーブルにおける水トリー進展
公益社団法人日本電気技術者協会の「電気技術者」2023年7月号では「6.6kV E-Tケーブルの水トリー劣化加速要因と絶縁破壊過程について」の論文が掲載されています。
更新推奨時期未満で絶縁破壊や絶縁抵抗低下した7件について調査した結果が記載されています。これによると、外導水トリー中の電解質を分析した結果、硫酸ナトリウムが検出されています。硫酸ナトリウムは水に溶解し、ナトリウムイオンと硫酸イオンとなり、一定濃度で針状水トリーを形成します。針状水トリーは、水トリー進展速度が速い場合に見られる現象で、従来22kV以上のケーブルで見られる現象です。また、ナトリウムイオンと、硫酸イオンは水道水や雨水にも含まれ、進展速度が加速する濃度になるためには数wt%必要となります。
そこで、対象となったケーブルにおける半導電性テープを調べると、成分として硫酸ナトリウムが検出されています。また、半導電性テープに使用されている界面活性剤も親水性の高い非イオン界面活性剤であることが確認できています。
この界面活性剤は一度水に浸かると、その後長時間半導電性テープ中に水分を蓄えるため、水トリー進展を加速させる可能性がある。界面活性剤の助剤として硫酸ナトリウムが使われることがあり、この二つの要因が水トリーを加速させる原因になっています。
3、電気トリーの進展
水トリー進展後、一定期間を過ぎると電気トリーが発生し始めます。これは針状の先端電界が電気トリー発生電界を超えるためと思われます。また、電気トリーは6.6kVケーブルでは水トリーが針状の場合、その先端から発生しますが、該当のケーブルでは水トリー起点部からも発生し、絶縁破壊までの期間を短縮した可能性があります。
4、事故発生確認件数
この「該当ケーブル」と「非該当ケーブル」における事故発生件数は年を追うごとに拡大し、2022年では前者が131件に対し、後者は8件にすぎません。なお、水トリーに起因する事故以外も含まれているため単純な比較ができませんが、前者の事故件数は2018年15件から18件、27件、57件と加速傾向にあるのに対し、後者は2018年6件、1件、6件、6件で、前者の増加トレンドが見て取れます。
また、経年別では10年未満のものに増加傾向を示しており、生産年度では2011年と2016年に高い数値を示しています。
5、設備保守管理時における注意事項
今回の水トリー劣化現象において、高圧ケーブルの定期点検時に異常がなく、数日から一か月後に絶縁破壊する例も見られます。これは、電気トリーが発生進展した交流破壊電圧が10kVであるため、復電時の短時間交流過電圧が起因しているものとみられます。
したがって、このケーブルの絶縁診断を目的とした停電作業は余程の事がない限り避けるべきです。また、印加電圧と印加時間にも注意しながら診断するようにします。そして、水場使用のケーブルに絶縁抵抗低下等の症状が現れた場合は交換する必要がありますが、如何せん、現在はケーブルの受注が停止されているため、手が打てない状況です。
私の見解としては、該当ケーブルにおいて地絡事故が多く起きているのは、大阪・京都・岡山といった関西圏であり、「60Hz帯で多く発生しているなぁ」という感想と、局地性もあることから「ある工場の生産ロットで発生しているのでは?」というのがありました。もし、飯能市立図書館の事故がこの件によるものであるなら、私の考え方も改める必要がありそうです。
さて、いかがだったでしょうか。
先日今年度のPMセミナーの案内を見ましたが、今回の件についての講演およびNITEの職員が参加するということで、この件についても突っ込んだ話になる可能性がありますね。
また、一度地絡事故が発生してしまうと、ケーブル交換に多大の時間を要します。現在、ケーブルの調達ができないなかで、可能な限り劣化までの時間を引き延ばし、調達できるようになるまで耐える必要があります。
なお、記事内容に関しては、リンク先や論文を改めてご確認ください。
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