犬も歩けば棒に当たる② | ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

 聞けば、アニータの方はかなり大変というか、ストレスフルなことになっていた。

 共通の知り合いに聞いても、「アニータはいつも忙しくって。旦那さんの手術もあったし、マックス(息子)のこともあるでしょう」というばかりで、詳しいことはよく知らなかったのだが、彼女の説明によると、もう悩みの宝庫と言うか、私だったら到底耐えられない状況だ。

 

 まず、故郷んコロンビアでは、お父さんが認知症を患って、段々症状が重くなっているらしい。お母さんはお母さんで体が不自由で動くのが大変とか。

 旦那さんは去年何か大きな手術をしたらしいし、彼女もコロナに感染して大変だったらしい。

 

 一番ショックだったのは、息子のマックスがまだ15歳なのに、鬱になって3か月クリニックに入院していたというニュース。

 この子はアニータの本当の子ではなく、赤ちゃんの時に引き取られたのだが、とても繊細だったのか、小学校ではいじめられもし、昔からアニータの悩みの種だった。

 また、数年前に、生みの母が自分を手放したにもかかわらず、会いたいと言ってきて、彼を非常に混乱させたとも聞いていた。

 そういう事が色々と重なったのだろうが、15歳で鬱病って。しかも入院先のクリニックで煙草をおぼえてしまったと言う。

「私さ、先生にも言われたし、あの子に気を使って出来るだけ快適に過ごせるようしているのに、あの子の方はちっともこっちに気を使わずに自分の望みだけを押し付けるのよ。ギブ&ギブじゃ、しまいにはイヤんなっちゃうってのよ!」

 

 話しているうちにまた怒りが高まってきたのか、声は落としたままぶちまけるアニータ。

 

 アニータはいかにもラテン人というような心の温かい肝っ玉母さんのような人だし、ドイツ人の旦那さんも穏やかそうで実に優しそうな男性だ。

 詳しいことは他人にはわからないだろうが、この夫婦に引き取られなかったら、これほど恵まれた人生が送れたかどうかと思うほど、愛情ぶかい両親だと思う。

 

 そこで私は、取りあえずすべての事情は分からないものの、

「あなたは本当に偉い、よくやっている。なかなかできることじゃない」とアニータを褒めちぎった。私は何といっても女性の味方である。

 だって本当にそう思うもの。遠い南米コロンビアから来て、ドイツの会社でフルタイムで働いて、子どもを引きとって育てて、ドイツ人の旦那さんとも仲良く暮らす。とても頑張っているのにガツガツした感じはなく、どこかに包み込むような温かさがにじむのはやはりラテンの人が持つ特性であろうか。