帰国して1週間がたった。
時差ボケはだいぶ治ったものの、未だに心がドイツと日本の間で引き裂かれたように宙ぶらりんになっている私。
何となく晴れない気分で毎日を過ごしていたところ、週末には近くの街でアフリカンフェスティバルと多国籍ミュージックのライブがあった。
そう言えば、去年もアフリカンフェストに行って、あれが楽しかったから体調も上向きになったよなあ。今年も行ってみたら気が晴れるかも。
重い腰を上げて、バスに乗り、街まで出てはみたものの、暑いし、音楽が耳障りだし、どうにも自律神経が乱れて楽しめない。
やっぱり今日は無理かなあ、旦那に迎えに来てもらう事も考えながら あるお店のショーウィンドーを通り過ぎようとしたとき、思いがけない光景を目にした。
ショーウィンドーとショーウィンドーの間のパサージュで、一人の女性が立ったまま何やらもぐもぐ食べている。彼女と目が合い、じっと見つめ合い、私は目を丸くした。
「アニータ?」
信じられない思いで聞いてみる。向こうも無言でまじまじとこちらを見ている。気のせいか何だか怒っている?
次の瞬間、彼女も大きな目をさらに大きく見開いて
「アクサイなの?」
次の瞬間、私達はどちらともなくワーと駆け寄り抱き合っていた。
コロンビア人の友人アニータである。知り合ったのはコロナ前だから5,6年にはなるだろうか。
お互いにストレスを抱えていて、マインドフルネスのコースに参加したのが知り合ったきっかけだった。
意外と家が近いのもあって、コース終了後も数回会ったのだが、彼女が引越ししてからあまり会えず、でもたまに会うと、ラテン特有の温かい気質に心が明るくなるような人だった。
今通っているダンス教室のコロンビア人の先生パトリシアを紹介してくれたのもアニータだった。私はまたアニータに会っておしゃべりがしたかったのだが、ここ1年半ほど、なぜかなかなかつかまらなかった。
そんな会いたかった人があっさり目の前に立っているのが、かえって現実じゃないようで信じられなかったが、まぎれもなくアニータである。
「アクサイ、久しぶりぃ。どうしていた?」
「いやー、実は今日体調がよくなくてさ。アフリカンフェスティバルともう一つのお祭りに行きたかったんだけど、うるさいから無理かもしれないの。あなたの方こそ一人で何をしてるの?」
「私もシュロスパークの方のお祭りに行ってたの。旦那と息子の3人でさ。そこで息子に腹が立って腹が立って、『もういい、私行く!』って言って飛び出したの。ポテトを食べて何とか自分を静めようとしてたところよ」
道理で何だか怒っているように見えたのか。
アニータも数週間コロンビアに里帰りしていたという。私も先週日本から帰ったところよ、と告げると、
「まあ、じゃあパニック障害を克服して飛行機に乗れたのね!すごい、よかったねー。おめでとう!」とすごく喜んでくれた。
私も何だか嬉しくなって、並んで歩きながら、アフリカンフェスティバルの喧騒を抜け、静かに話せそうな教会の前へと行き、青々と茂るイチジクの木の側のベンチに腰を下ろした。(続く)