ジンバブエでバンジージャンプ!② | ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

 あわわわわわわわー。

 落下している最中の、あの奇妙な感覚をどう表現したらいいのか。それまでの人生で経験のしたことのない、手ぶらで真っ逆さまに落ちていく感覚。捕まるものがないというのは非常に頼りない不安な感覚だ。あまり考えたくないけど、シュミレーション身投げのような感じ。私は将来絶対身投げだけはしないと決めた。

 ビユンビユンとひたすら下に落ちていく。川面が見え、ぶつからないのかと不安になる手前でロープが伸び切った。

 2秒、3秒、いや5秒か。ともかく私の人生の中で最も長い数秒だったことは間違いない。

 

 しかし本当に恐ろしいのは、ここからだった。

 

 こっちはやれやれやっと上がれると思っているのに、勢いづいたバネはびよーん、びよーんと乱暴に上に上がり、また下に下がり、いっこうに静まる様子がない。

 橋の中ほどでは、黒人の係員の男性がロープをたぐり寄せようと手を伸ばしているのだが、バネはそんなお兄さんたちをあざ笑うかのように、あっちへ飛び、こっちへ飛びしている。

 私はもうもどかしくてたまらない。お願い、お兄さん!早く私を捕まえて!もうセクハラでもなんでもいい、どこを触ってもいいから早く捕まえてよッ!後でみんなに言うと笑われたが、あの時は本当に必死でそう思っていた。

 

 やっと捕まえてもらって上に上がる。アドレナリンが出て体がドクドク脈打っている感じ。もう終わってホッとしたしかない。やり遂げたんだ。私本当にバンジージャンプしちゃった。見たかステファン、私の大和魂を。

 きよみんも由紀ちゃんもSさんも無事生還。みんな意外と平気そうだ。すごいなー。

 

 私などはこんなものは一回飛べばもう沢山!という感じなのだが、世の中には変わった人もいるらしく、続けてもう一度飛びたくなるらしい。そういう人のために、2回目は半額の45ドルで落下させてくれるという破格の(?)オファーもあった。

 しかも事務所では商魂たくましいイギリス人が一部始終を収めたビデオを販売している。これもたかが数分の長さで数十ドルの高額ビデオだった気がする。まったく南蛮人の商魂と言ったら。旧植民地において、これでもかこれでもかとゼゼコを絞り取ろうとするわ。

 

 帰国してからみんなで旅行のビデオ鑑賞会を開いたのだが、ツアーリーダーの由紀ちゃんの番になって思わず目を疑ってしまった。

 なんと、由紀ちゃんは落下して上へびよーんと上る過程で両手で大きくピースしている!イエイ、イェーイと字幕を横につけたいぐらいだ。

 みんな大爆笑。上がるときが一番怖いのに由紀ちゃん、余裕やな。

「だって、係りの人に、ピースしてくださいって言われたからそんなものかなと思って」と由紀ちゃん。

 

 一大冒険(?)を終えて、無事キャンプ場に戻ってきた私達。

 そこで前日知り合った、ドイツ人のバッグパッカーのお兄さんに出会った。太鼓を手に一人で旅をしている物静かで穏やかな人だ。

 立ち話をして、実は今日バンジージャンプをしたんだという話になった。

 目を丸くする彼に、何だかきまりが悪くなった私は、

「いや、他にもバンジーをしたイギリス人の若者が、すごくエキサイトした様子で『あれはすごい経験だよ!自分がまったく新しい人間に生まれ変わったみたいな気になれるんだ』って言ってたよ。あなたもどう?」

と言うと、彼は、

「僕は今の自分にとても満足しているから、このままで結構。生まれ変わる必要はないな」と穏やかに微笑んだ。頭のいい人の回答だ。そうよ、彼が正しいのよ。ステファンの挑発につられて大金を払ってバンジージャンプした自分がバカバカしいったらありゃしない。

 

 思い出して、旅の間つけていた日記を読み返したところ、その日の出来事に、

 「バンジーは所詮バンジーであって、それをしただけでは内面的に変わるものは何一つない」とやや冷めた口調で書いてある。

 ちなみに、ステファンの方は大いに感心したとも書いてあり、こちらの方はうれしそうだった。

 

 しかし、バカバカしいことを大真面目に(お金まで払って)やり遂げたのも青春の特権と言えば特権か。

 こうやって20年以上たった今もネタとして途方もなく笑える。これからも一生使える話題を提供してくれたと思えば、まあ貴重な体験だったかも。