ジンバブエでバンジージャンプ!① | ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

 ドイツに住んで22年、平凡な日々を送る中、何の脈絡もなく突然、昔アフリカでバンジージャンプした時の記憶がよみがえってきた。去年のアフリカンフェスティバルで買った鮮やかなプリントスカートを引っ張り出したせいだろうか。

 

 今の私はまったくもってスリルとは程遠い人間で、バンジージャンプなどは死んでもごめんという感じだが、若気の至りというのは恐ろしい。あれは26年前、アフリカ大陸縦断バスで訪れたジンバブエはビクトリアの滝に掛けられた橋から真っ逆さまに飛び降りたのだった。

 

 1998年の2月からアフリカ大陸東海岸沿いを6か月かけて回った懐かしい旅の思い出。

 その2年前、ユーラシア大陸を3か月かけて回るという大陸横断バスに参加し、19歳だった私は旅に病みつきになった。

 その時のメンバーの中で、今度はアフリカに行きたいねという話になり、ユーラシア大陸の時と同様、白川由紀ちゃんが企画、実現、オーストリア人の運転手ステファンが今度もハンドルを握ることとなった。

 

 トルコのイスタンブールから始まって、エジプト、エチオピアやエリトリア、ケニア、タンザニアなどを回って7月の初め、旅も後半にさしかかったころ、ジンバブエに入り、この国の名所というとすぐに名前が上がるヴィクトリアの滝に着いた。

 世界3大瀑布にも数えられる轟音を立てて水煙を上げながら白い濁流が落ちていく様は、大迫力である。

 しかし、このビクトリアフォールズ、別の意味でもかなり私の印象に刻まれることとなった。

 

 言い出しっぺは誰だったかわからない。私でないのは確か。

 誰かがそこでバンジージャンプが出来るという情報をキャッチし、みんなで一緒にやらない?と持ち掛けたのがそもそもの始まりだった気がする。

 最初は当然、そんなとんでもないという返事をしていたのが、一人手を挙げ、また一人となるうち何となく居心地が悪い気分になってきた。みんなやるの?参加しないのって私だけ?何かソワソワするわ。

 日本人は全員参加に弱いって、まさに私のことじゃないか。そんな自分がイヤで変わりたくて日本を飛び出してきたのに、旅先でもきっちり日本人根性を発揮している。(笑)

 

 しかし極めつけは、運転手のステファンで、皮肉屋の彼が例によってニヤニヤ笑いながら、

「アクサイちゃんには、ヤマトダマシイ(大和魂)がありませんネ」

と言われ、腹が立った私は、売り言葉に買い言葉、

「じゃ飛べばいいんでしょ。いいわ、あんたに私の大和魂見せてあげる」

と口走り、後には引けなくなったのである。

 そのくせ当のステファンは参加しなかったのだから、大いなるパラドックスである。

 結局飛ばないのは、ステファンとお年を召していた60代のYさんの二人のみ。20代だった私、きよみん、由紀ちゃんと40代の男性Sさんの4人がバンジーに挑戦することに決定。

 

 ジンバブエとザンビアをまたぐ長い橋が架けられ、その中ほどにバンジージャンプ用の台が設置されている。

 ここは両国を通過する現地の人、欧米系バッグパッカーなど人の往来が多い。そこに目を付けたのが、(確か)イギリス系の会社でなんと、この橋のど真ん中でバンジージャンプが出来るようにしたのである。

 聞いたところでは、その高さたるや90m、世界で2番目に高いバンジージャンプ台だとか。

 

 値段は何と90ドル!(1998年当時)現地の物価を考えたらとんでもない高額である。ましてや私は貧乏旅行者。これからの旅の日程もまだあるのに大した散財である。しかもバンジージャンプなんてやったところで何の役にも立たない代物。ジェットコースターだって怖くて乗ったことがないのに、なぜこんなハードルが高い(いや落下だから低いというべきか)肝試しに90ドルも出すのか。単なるアホとしか言いようがない。

 

 受付でお金を払い、列に並ぶ。ああ、もうドキドキしてきたわー。でももう引き返せない。

 私の数人先には白人で品のある女性が足にロープを巻かれ、側の黒人スタッフに「これって本当に100%安全なの?」と聞いている。

「安心して下さいマダム、120%安全ですよ」

と言われ、「ワンダフル」とほほ笑む女性。周りから笑い声が上がる。

 私は覚えていなかったのだが、きよみんに言わせると、

「アクサイちゃん、自分の番になった時、『これって200%大丈夫なんでしょうね』ってしつこく確かめていたよね(笑)」120%では安心できなかったのか。

 

 ああ、もう一生自分の番が来ないで!という心の叫びもむなしく、前の人が終わり、ついに自分の番が来た。足と腰にグルグルと頑丈なロープが巻き付けられて、台の前方に促される。

 

 今考えてもどうしてあんなことができたのかわからない。緊張という言葉では到底言い表せない。断頭台に送られる囚人もかくやである。

 眼下は目もくらむような切り立った崖。下から上がる水煙に小さな虹がかかっている。

 世界3大瀑布の一つビクトリアフォールズの絶景もまるで目に入ってこない。

 スタッフに押されたのか、自分で飛んだのかよく覚えていない。

 ただ、傍らで見守るステファンと撮影係のSさんのビデオに向かって一言、

「私の大和魂、見せるわ」と言ったのをおぼえている。

 カウントダウンの声と共に、とにかく下をめがけて両手を広げて飛び降りた! (続く)