やっぱり働きすぎちゃダメだ① | ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

 同じ町に住む中国人のお友達リンちゃんから久しぶりに電話がかかってきた。

 日本に10年住んで日本語のペラペラなリンちゃんとは時々会っていたのだが、年明けにメールしたところ、「病気で仕事も休んでいる」と返信が来た。

 気になって2度ほど電話したが、返事がない。心配ではあるが、病気の人にしつこく連絡するのも迷惑と思い、待っていた。

 そうしたら一昨日突然電話をくれて、今日か明日なら会えると言う。喜んだ私は自転車に乗ってリンちゃんのお宅にお邪魔してきた。

 

 チャイムを鳴らすと、ドアが開いて見知らぬ女性が。ん?と怪訝な顔をしていると、庭先からリンちゃんが出てきて、「あ、こちら、お掃除をお願いしている人」と紹介してくれた。私たちはテラスでお話ししましょうと広いお庭に案内される。

 

 しかし、久しぶりに見るリンちゃんはかなりやつれていた。

 体重はそんなに変わっていないけど、きめの細かい肌は荒れて赤い発疹が浮いているし、白髪がかなり増えている。本当に病気だったんだなあと心の中で気の毒に思いながら、テラスに置かれたテーブルに腰を下ろす。

 

 お互いの子どもの事、近況などを話す。よく手入れの行き届いたお庭は緑の芝が目に気持ちよく、静かなテラス席でお茶を飲んでいると心が落ち着く。リンちゃんは最近何かというとガーデニングに精を出しているそう。

 

 世間話が一段落したところで、さりげなく、

 「リンちゃん、いつから体調悪かったの」

 と聞いてみる。

 「クリスマスのちょっと前から」

 「そう、一体何だったんだろうね」 

 と言う私の問いかけにたいし、

 「実はね、ガンだったの」

 と短く一言。

 そんな・・・。病気で仕事も辞めて家で休んでいる、という事を聞いた時、いくら何でもまさかねとチラッとその病名が頭をかすめたが、とてもそんなことがあり得るとは思わなかった。リンちゃんは私とほとんど同い年なのである。

 

 今は2週間に一度化学療法を受けながら、自宅で養生しているという。

 中国に住むお兄さんやお姉さんも相次いでお見舞いに来、旦那さんは仕事の量を減らし、ご飯など作ってくれるようになったという。お掃除の人を雇ったのも、家事の負担を減らすためだろう。

 

 リンちゃん、リンちゃんは本当に人の2倍ぐらい頑張ってきたじゃない。日本よりはるかに熾烈と言われる中国の受験社会で頑張って勉強して大学に行って、日本でも大学を卒業して働いて、そしてまたドイツに来て頑張って勉強して仕事もして。

 

 私のような凡人は、中国の受験戦争だけですでに疲弊してメンタルを病みそうな気がするが、リンちゃんは頑張り屋さん。夫の家族に私は能力があるという事を証明したいんだよね、と言って、ドイツの専門学校にも通い、卒業して仕事にも就いた。

 確か機械を検査する仕事で、月に数回、夜のシフトで徹夜がある生活を4年間くり返したと言っていた。これが健康を壊したんじゃないかなあ。

 

 かといって、リンちゃんはガツガツした気の強い中国女性というのでは決してなく、どちらかと言うと物静かで謙虚な人である。

 少数民族であるお母さんの母語、内モンゴル方言と北京語に加えて、英語、日本語、ドイツ語を操るというマルチリンガルでもある。

 日本生活が長かったせいか、ドイツの自宅に畳と障子の部屋を作ってそこで緑茶を飲むのが夢、などと語る。

 

 リンちゃん、何か私にできることはない?日本から欲しいものがあれば買ってくるよ。 

 アクサイちゃんの旦那さん、ガーデニングが趣味でバナナの木を育てていたよね。あれ分けてほしいなあ。それと日本のお蕎麦が食べたい。

 バナナの木ね、お安い御用ですとも。いくらでも差し上げます。蕎麦も今度一緒に食べよう。

 

 いつでも連絡してね。また会おうね。と言ってお宅を後にした。その後まだ連絡は来ない。

 あんまり苦しまずにいてほしい。早くよくなって欲しい。祈ることしかできない私。