私はリッチなマダム? | ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

 いきなりドカンと雪が降って、朝から家の前の道路の雪かきに明け暮れることとなった。

 ここ1週間ほどグンと冷え込み、頬を刺す空気が冷たいというよりもう痛い。

 少し前に古くなったダウンコートを処分したので、今ある手持ちの中で最も暖かい黒のコートを着込んで雪かきに励む。

 このコートは裏地がボアになっていてとても暖かく、首元にもファーがついていて、雪かきには似合わないオシャレなコート。パッと目には高級に見えないこともないのだが、実はこれ、幼稚園時代のママ友から亡くなったお母さんのお古をいただいたもので、正真正銘タダなのである。

 

 一昨年のことだったか、街に出て、ショーウィンドーに見入っていた私に、背後から若いドイツ人の青年が声をかけてきた。

 何日も食べてないので、お金を恵んでくれませんかと言う。  真っ白な顔色の彼を見て気の毒になった私は、小銭を差し出したのだが、青年が立ち去った後、何で私に?という疑問が。他の人も大勢行き交っているのに、どうして一介のアジア人に?と不思議に思ったのだが、そこでハタと思い当たった。

 

 私がその日着ていたのは、このボア付き黒いコートにブーツ、中折帽まで被っていつもよりだいぶおしゃれしていた気がする。

 おまけに私がのぞき込んでいたのは貴金属を扱うお店で、青年は私のことをお金持ちの中国マダムかなにかと勘違いしたのではあるまいか。実際には私はお金持ちとは程遠く、このコートにはビタ一文とも払っていないというのに。人を見た目で判断してはいけませんといういい例である。

 

 ちなみに私はド庶民であるのに、なぜかもう一枚毛皮のコートを持っているという珍しい人間。こちらの方は表もミンクだったか、グレーの毛皮で覆われており、正真正銘の毛皮のコートである。

 なんで私がこのような高級なコートを持っているかというと、亡くなった親戚のおばさんが買い物中毒気味の人で、太って着られなくなったからという理由でポンと私にくれたのだ。こちらもまったくの無料で、私は一銭たりとも支払っていない。

 タダで毛皮のコートを2着ももらった人なんてそうそういないんじゃないかしら。

 

 しかし、そんなものをもらっても恐れ多く、私は毛皮のコートなんて柄じゃないし、第一日本はそこまで寒くない。

 ドイツでもほぼ箪笥の肥やしになっていたのだが、もったいないから、冬、劇場に行った時にほんの1,2度着ていった。

 いつもの私を知っている友達が、「やだー、アクサイちゃん、今日はどうしたの」とびっくりするので、照れ隠しに「いやぁ、これ、私の一年に一度のコスプレやねん」と言ったらみんな笑っていた。

 

 日本語の生徒、マリ男くんに、その話をすると、「アクサイさんはお金持ちなんですね」とからかわれたが、とんでもない!本人と着るものの間に巨大なギャップがあるから困ってしまうのである。

 

 ドイツはベジタリアンブームで、当然毛皮のコートなどは快く思われない。マリ男くんの住むE市は学生の約20%がベジタリアンと言われる。とてもじゃないが、このコートを着て歩く勇気はない。かと言って捨てるのはもったいないし、売ろうにも、この袖の短さでは手足の長いドイツ人には買ってもらえないかもしれないし、本当に困ったものである。