古民家の類型化1~農家メインシステム | ejiratsu-blog

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 現在も保存・残存している日本の古民家のほとんどは、一般庶民よりは裕福な上層の住宅で、それらは農家と商家に大別できます。
 
■農家
 
 近世の農民階層は、村方(地方/じかた)三役(村代表の庄屋=名主=肝煎/きもいり、補佐役の組頭=年寄、本百姓代表の百姓代)‐本百姓(耕地を所有)‐水呑(みずのみ)百姓(耕地を所有しない)に区分され、村方三役は、幕府・諸藩の役人(代官等)による年貢徴収のため、会合する必要がありました。
 よって、かれらの住宅には、百姓の住宅に必要な、作業場として土間(カマド付)、生活の場として広間・台所(囲炉裏付)と寝間だけでなく、一般農民との寄合・役人接客の場として座敷があり、家人は土間の大戸から、客人は座敷前の式台や玄関から出入しました。
 土間は、天井がなく閉鎖的、広間・台所は、土間との間仕切なく一体で、当初は南面が格子窓だったようですが、やがて開放的な濡縁・生活庭との連続性をもつようになり、寝間は、窓がなく閉鎖的、座敷は、天井があって開放的な濡縁・観賞庭との連続性があります。
 床仕上には、竪穴住居由来のタタキ(三和土)、高床住居・寝殿造由来の板張、書院造由来の畳敷の区別がありますが、板敷は床下に冬の冷気が入り込むので、土間+ムシロ・ゴザ敷にしたり(土座/どざ)、夏の通風確保のため、丸竹を荒縄で結び付けてスノコ状にする等、寒暖への対処の工夫もありました。
 屋根や壁の材質は、地元で調達できるかが影響しており、平野部等で大量の茅が入手容易であれば、茅葺きで急勾配、山間部等で大量の茅が入手困難であれば、板葺き・石置きで緩勾配になりがちで、豪雪地帯だと、茅葺きの急勾配にして自然に落雪させるか、板葺きの緩勾配にして雪おろしするかの選択になります。
 壁も、良質な土が、入手容易であれば土壁、入手困難で板壁になりがちですが、多雨地帯だと土壁は少なく、板壁が多い傾向にあります。
  
●メイン・システム
 
 日本には限定された地域特有の古民家も散見されますが、それを除外すると、次のように分類でき、農家は敷地にゆとりがあるので、横長平面・平入が主流となります。
 
□基本型
 農家(庶民の住宅)の起源は、ワンルームの土間の竪穴住居で、土間の一部に稲藁を敷き込んで寝床とし、そこからまず土間‐床上・板張の一間取り、つぎに土間‐居間(囲炉裏付)‐納戸(寝間)の二間取りへ発展し、さらに前座敷三間取りや広間型三間取りへと進化したと推測できます。
 
○前座敷型三間取り(関西型)
 主に関西に分布し、横長平面・平入、土間の隣に表側座敷・裏側台所(囲炉裏付)と寝間の構成で、武家の邸宅である書院造の影響から、座敷は天井張にしがちです。
 
   ▽古井家住宅(兵庫県姫路市):室町後期
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○広間型三間取り(関東型)
 主に関東に分布し、横長平面・平入、土間の隣に広間(囲炉裏付)、広間の隣に表側座敷・裏側寝間の構成で、広間に天井はなく、曲りくねった野太い梁組を露出しがちです。
 
   ▽旧石井家住宅(神奈川県鎌倉市):江戸中期
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○整形四間取り(田の字型)
 前座敷型三間取りの座敷を左右に分割したり、広間型三間取りの広間を表裏に分割することで、土間の隣に表側広間・裏側台所(囲炉裏付)、広間の隣に座敷、台所の隣に寝間の構成となり、座敷の寝間との境には床の間等が設置・区画されます。
 この形式は、有力農民が一般農民との寄合や中・下級武士との接待のため、座敷と居間の2間続きが必要になるとともに、接客と家族生活(台所・寝間でも食寝分離)の場を分離したいので、江戸後期から明治前期にかけて全国各地で普及しました。
 
   ▽旧横田家住宅(茨城県つくば市):江戸後期
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   ▽間取りの変遷
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○鍵座敷型四(六)間取り
 江戸後期から主に東北・関東・中部東部・四国・九州中部等の農業後進地域に分布しています。
 横長平面・平入、土間の隣に表側広間(囲炉裏付)・裏側寝間、広間の隣に次の間、寝間の隣が奥の間の構成で、奥の間(奥座敷)・次の間(表座敷)・広間のL字型で3間続きとし、奥の間の寝間との境には床の間等が設置・区画されます。
 また、整形四間取りの平面で、座敷(中座敷)の隣に表(下)座敷、寝間の隣に奥(上)座敷を追加し、奥座敷・表座敷・中座敷のL字型で3間続きにすることもあり、ここでも奥の間の寝間との境には床の間等が設置・区画されました。
 この形式は、家族生活より接客を優先した構成です。
 
   ▽旧平野家住宅(千葉県栄町):江戸中期
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□地域型
 
○北山型
 京都北部・北山地方に分布し、横長平面・平入の前座敷型三間取りを、縦長平面・妻入にした構成です。
 
   ▽石田家住宅(京都府南丹市):江戸前期
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○摂丹型(能勢型):摂津・丹波
 大阪北部・能勢地方に分布し、縦長平面・妻入で、片側が通り土間、土間の隣に表から裏へ座敷・広間(台所)・寝間が直列した構成で、商家の京町家の構成と類似しています。
 
   ▽旧友井家住宅(兵庫県丹波市):江戸中期
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(つづく)